2024年08月08日( 木 )

「商業施設」の現在地(後)“商業”はワクワクを届けられている?(2)

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 商業施設は近年、大きな変化を求められている。かつてはショッピングの場として私たちの生活に欠かせない存在だったが、その重要性と役割が大きく変わってきているのだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、さらなる魅力的な場所へ。そして『サードプレイス(※)』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。

※サードプレイス:自宅、「職場・学校」に次いで第三となる居場所のこと

プロセスのデジタル化

 近年、コロナ禍における非接触ニーズに対応するため、会計業務の省力化(あるいは無人化)のような、リアル店舗におけるスマートストア化の取り組みが広がっている。配送や警備、清掃、来客対応といった用途で使用する「移動型サービスロボット」も、公共の場所で見られることが多くなった。店舗も水際からロボ化が始まっている。スーパーマーケットでも100均のダイソーなどでもセルフレジが普及し、いつの間にか自分でレジ打ちをしているのに驚かされる。まずはレジから、すぐに在庫補充も、いずれは配送にもおよび、店から“いらっしゃいませ”なんて人の声が聞こえなくなっていくのも時間の問題だろう。店によっては機械で運営が回っていく、無人化させるという流れは避けられないだろうか。ロボット掃除機や配膳ロボットは、もはや自宅で必須のアイテムへ、デジタル社会の波は粛々と身近なところに入り込んできている。

お掃除ロボット例 店舗も水際からロボ化が始まっている
お掃除ロボット例 店舗も水際からロボ化が始まっている

 ネット上では、オンライン決済は徐々に多数派になりつつある。その目的は人手不足を解決し生産性向上を図ることだけではなく、消費者に新たなCX(顧客体験)を提供し、CS(顧客満足度)・ES(従業員満足度)の向上につなげていくこと。ファストドクターのような医療のオンライン診療、DXの躍進によるタクシー配車などの移動アプリ、自転車、自動車、ホテルのようなシェアリングサービス、人の移動に関するさまざまなデータを集積・分析し、今後のビジネスに応用することで、より魅力的でスマートな購買体験を図っていくことは、“商業”の基本になりつつある。

商売人は芸術家

 近所に最近オープンした、おいしいと評判のたこ焼き屋さん。ここでは購入時、客を待たせる。“焼き立て至上主義”と看板に謳ってあるだけに、7~8分程度は待つだろうか。自信をもたせた商品でなければ売らないという姿勢と受け取れる。おいしいものを最もおいしい状態で提供し、その後のリピーターにつなげる…。その場限りの商売ではなく、長くお付き合いしたいという意志、当然つくり置きしていたものを出すなど言語道断なのだ。

 このたこ焼き店に限らず、今はこの流れが主流だ。昨今どの飲食店でも、味は一定のレベル以上。これは低評価されないように、クレームが出たりしないように、リスク回避という意味もあるだろうが、今の商売における最低限必要なマナーともいえる。昔は“おいしい↔不味い”が店を選ぶ基準に合ったが、今はどこも一定以上のおいしさが保たれている。逆にいえば、その他の何かで特色を出さなければならない。それが内装なのか、もっと高みの原材料なのか、もしくは販促のインパクト、変わったサービス、店主の人柄なのか…。何を買うかは、“誰から買うのか”や“どこで買うのか”に移行しつつある。

 「商売人と屏風は曲がらねばたたぬ」は昔の話。客に合わせて自分の感情を曲げるのではなく、今は自分自身の姿勢を貫く。だから、今の商売人は芸術家なのだ。自分の姿勢、哲学、ストーリーを貫きながら、こちらを向いてくれる客を中心に商売をする。SNSを駆使して、個別の相手にリーチできる時代。ファンに向けてつくり、ファンによって支えられる「ファンビジネス」に。これが今の商売の王道だろう。一昔前とは、随分肌感が変わった。

商売人は芸術家か PhotoAC
商売人は芸術家か PhotoAC

 「外食の新たなかたち」として注目されているのが、京都市内で11店舗「野菜ダイニング」を展開する2003年創業の五十家グループだ。野菜に特化しているものの、店舗ごとにテーマを変えるのが特色で、「焼き野菜」「煮野菜」「漬け野菜」「薪火野菜」など、調理方法を変えた業態で人気の飲食店だ。ここのコンセプトは「畑からデザインしてメニューを考える」。“この季節”や“今日の収穫”がメニューを決め、おいしい料理を客の胃袋に届ける。これもつくり手から商品を決める芸術家思考といえる。付け合わせの肉や魚は脇役という発想で、自家農園の野菜を収穫して調理する。ただ昔でいう一方的な“つくり手思考”と違うのは、社会のニーズに寄り添い、ユーザーの幸せを想い、おいしいものを提供したいという考えの下、ある特定のファンたちに向けて丁寧に考え抜いた戦略であることは間違いなさそうだ。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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