2024年08月09日( 金 )

「商業施設」の現在地(後)“商業”はワクワクを届けられている?(3)

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 商業施設は近年、大きな変化を求められている。かつてはショッピングの場として私たちの生活に欠かせない存在だったが、その重要性と役割が大きく変わってきているのだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、さらなる魅力的な場所へ。そして『サードプレイス(※)』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。

※サードプレイス:自宅、「職場・学校」に次いで第三となる居場所のこと

行くための動機付け

 2000年5月まで続いた「大規模小売店舗法(大店法)」は、中小小売店の保護を目的とし大規模商業施設の出店を規制するものだったが、同年6月から施行された「大規模小売店舗立地法(立地法)」では、大規模商業施設の出店規制がなくなった。これにより、郊外に大規模な複合商業施設としての「ショッピングセンター(SC)」が生まれ、これまで都心部に出店していた「総合スーパー」から郊外型SCへと、大規模小売店舗の主役が交代していった。

 SCには、スーパーマーケットを含めて飲食やアパレルなど「商店街」を構成していた多様な店舗が入店し、古くからあった既存の商店街からSCへと消費者の流れが変わっていったのだ。結果的に「シャッター商店街」と称されるエリアが地方都市の中心部に生まれるなど、大規模商業施設と中小小売店の共存は難しい課題となって現在も続いている。

 大型商業施設が増加する反面、小規模な店舗は減少しているのが現在の状況である。また、店舗数が減少している理由には、大型商業施設のシェア拡大に加えて、「EC市場」の拡大もある。EC化が拡大する小売業界、そして「コト消費」から「トキ消費」へと変化するサービス業界においては、店舗のはたす役割は変えていかなければならない。「EC市場とリアル店舗の連携」「トキ消費」を可能にする店舗開発、「キャッシュレスやオンライン予約などのDX化」などを取り入れて、柔軟に適応していかなければならない。

 店舗はもっと身近な存在に。「あのタコ焼きが食べたい」「あの焼き野菜が好き」「あそこのオーナーに集まる人たちが面白い」など、もっと商材にこだわって、特異なものの、発信と店主を取り巻くコミュニティが必要となるだろう。

もう一度憧れを匂わせる秘密基地のような存在へ PhotoAC
もう一度憧れを匂わせる秘密基地のような存在へ PhotoAC

 グッと懐に潜り込み、小回りをもって後方支援ができるような、ファンクラブのような、秘密基地的な存在へ。憧れを匂わせる動機付けが有効打。そして商業施設は、「サービス、エンタメなど」より空間提供にシフトして、サードプレイス的な溜まり場へ。大きなものの集積体、小さなものの集合体、どちらもそれぞれに必要なものとして共存する。そんな棲み分けができたら良いのではないだろうか。コロナ禍をきっかけに、このあたりの明暗が浮き彫りになった。変化に対応できる店舗開発や店舗再生の働きが求められるのはもとより、“商業”の現場では今「新たに訪れるための動機付け」をもう一度考えなければならない。“商業”は、ワクワクを届けられているだろうか。

空間を転用する

 販売チャネルの複雑化が進み、“商業”は消費者により近づくことが可能になった。住宅地に近い立地に構えることで、飲食業などの需要を取り込むこともできる。ショッピングだけでなく、「リテールテイメント」や「ショールーミング」などのエンターテインメント要素を取り入れ、消費者に楽しくて豊かな時間を提供する「サードプレイス」となるデザイン戦略が求められている。

 これから日本の人口はどんどん減っていく。すでに所有者不明の空き家が社会問題になっているように、まだまだ住むことのできる立派な家が余りまくる時代がやって来る。今後、どんな世界が待っているのか──。

 たとえば、「空き家問題」を逆手にとってみてはどうだろう。一軒家は誰も住まないと荒れて傷む。また、空き家を放置しておくと、放火やゴミの不法投棄などの心配も出てくるし、ご近所トラブルの火種にもなる。もしかすると「家賃は要らないから、空き家に住んでハウスキーパーをやってほしい」と懇願されるような時代がやって来るかもしれない。家賃が無料になる時代がやって来れば、家を購入するという消費者はぐっと減るだろう。

 「家を購入する=持ち家派」と対峙されてきた「賃貸派」は、これまで「借り暮らし派」だった。“お願いして住んでいた住人”だったものとは別に、“お願いされて住む住人”という第三の住民形態「もらい暮らし派」なるものが出てくるかもしれない。コロナ禍で“商業”が住宅街へ、消費者に近い、消費者が多い立地へ歩み寄ったように、「空き家(疎空間)に住んでほしい」という新たな文脈は、個人商店の拠点として使われていくかもしれない。このような「空間転用政策」は個人事業主を後押しし、“商業”の新たな拠点として分散バランス型の都市醸成に一石を投じることになるだろう。

空間を転用する自由がほしい pixabay
空間を転用する自由がほしい pixabay

 三菱地所は2024年3月、18年11月に開業した「マークイズ福岡ももち」(福岡市中央区)を売却した。また「マリノアシティ福岡」も24年8月に閉館する。今後、福岡市内でも大きな商業施設の変化が出てきそうだ。“商業”の移り変わりと「サードプレイス」の行方を、またつぶさに観察していきたい。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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