2024年11月23日( 土 )

(仙台)前田建設工業、清水建設のマンション構造スリット欠陥問題 (3)なぜ、問題が起きるのか

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AMT一級建築士事務所代表 都甲栄充氏

 準大手ゼネコンの前田建設工業(東京)、スーパーゼネコンの清水建設(東京)が手がけた宮城県仙台市のマンションで、相次いで耐震設備の欠陥が発覚した。住民側の顧問建築士として2つの「事件」を暴いたAMT一級建築士事務所の都甲栄充代表は、「施工技術だけでなく、社会構造上の問題が背景にある。発覚したのは氷山の一角。どこのマンションでも起こり得る。」と断言する。地震から建物を守る構造(耐震)スリットに施工不良が起きる問題は、なぜなくならないのか。構造スリット問題の第3弾は、都甲代表にそのカラクリを明らかにしてもらった。

構造スリットで何が起きているのか

●技術面

 大成建設(東京)に17年務めて現場管理を担当し、住友不動産でも17年、現場監理や品質管理を担当して技術者として腕に自信があった自分が、構造スリットの完全施工は「ほば無理」だと思ったのが、構造スリットの敷設だ。

 構造スリットは、1981 年の建築基準法「新耐震基準」から始まり、阪神淡路大震災を受けて耐震設計の一手法として、本格的に採用されるようになった。

 構造計算上、重要な柱、梁、床と、重要でない雑壁(構造計算しない壁)にスリット(隙間)を設けて縁を切る(地震時に水平の揺れに対してお互いの部材がぶつかり悪影響を与えないようにする)ことで、建物に重大な被害が出ることを防ぐのが目的だ。2~5㎝ほどのスリットには、緩衝材の役割を果たす「発泡ポリエチレン」を入れるのが一般的である。

構造スリットのイメージ
構造スリットのイメージ

 構造スリットは、構造設計者が構造図(軸組図)に記載することで、施工者に設置を指示するかたちとなっている。構造設計者は建物が主要構造部(柱・梁・床・基礎一部耐震壁)でもつように、電算ソフトを使用して構造計算を行う。

構造スリット型枠設置のイメージ
構造スリット型枠設置のイメージ

 施工業者は、指示された構造スリット設置場所に従い、水平・垂直スリット材を型枠施工時にセットして、コンクリートを打設する。

 しかし、コンクリート打設時にスリットがねじれたり曲がったり、はずれるなどの不具合が、どこかで必ず発生してしまう。そして、不具合状態のままでコンクリートが固まる。

 理由の1つは、コンクリート打設前に構造スリットをいくらきちんと設置しても、コンクリート打設中に、柱側と壁側にコンクリート圧力の違いが生じるからだ。柱側と壁側に交互にコンクリートを入れて高低差を30㎝以内に抑えなければならないが、圧送車側に、小刻みにコンクリートを送る知識もなければ意思もない。

 さらに、生コンを充填する際にバイブレイターを使用したときの振動で、目地棒とスリット材が外れたり、スリット材のジョイント部がずれたりするからだ。

 コンクリート打設後(具体的には、目地棒撤去後)に構造スリットの設置状態を確認して、万が一不具合があれば、補修工事を実施すればいいいのだが、現場監督は目地棒がまっすぐであれば、その後ろに必ずスリット材が取り付けられていると信じ込んでいて、確認をしていないのが現状だ。

 このことが、この構造スリット問題の最大のポイントである。だから、私は築30年以内のマンションは、すべてのマンションで大なり小なり起こっていると確信している。

 現状は、型枠ベニヤ解体後、目地棒(ベニヤ板に釘で固定されているので曲がらないはず)撤去後の目視検査だけだ。スリット材は目地棒の内側に、補強プラスチックを挟んで設置されている。したがって、目地棒の内側まで調査すれば、スリットのよれや曲がりの有無が確認できるのだ。

 不具合が起きる仕組みが分かっていても現場にその対策が浸透しないのは、施工者に問題意識が足りないからだ。そもそも、構造スリットの重要性を理解していない可能性があるだけでなく、補修工事には追加の費用が掛かる。また、一度もスリットの設置状態を確認したことがなければ、スリットがコンクリート内に正確に設置されているという「理想」が「錯覚」だと気付くこともない。

外壁スリット設置のイメージ
外壁スリット設置のイメージ

●社会的背景

 構造スリット問題は、施工者だけの責任とは言い切れない。前田建設工業や清水建設が施工した、仙台の物件だけとも言い切れない。過去には、ほぼ同時期に鹿島建設が施工したマンションでも、施工不良が発覚しているし、全国各地で、今現在でも相当数の問題が明らかになっている。

 それでも問題が社会全体に認識されないのは、外側からは見えない構造スリットを、建設業界全体が「見ない」ことにしているからであり、行政も前面にでて「見よう」としないからだ。

 信用を売りにしているゼネコンの前田建設工業や清水建設で不良工事が見つかり、その原因、理由を表立って説明できないにもかかわらず、自社施工の他の物件に調査を広げないことや、行政から指示が来ないことをみても、両者ともに、問題と真摯に向き合う意図は感じられない。

 それどころか、大手ゼネコンを頂点とする元請け、下請け、孫請けといった建設業界のヒエラルキーが、問題を矮小化する方向へ作用する。マンション管理組合から調査依頼を受ける業者も、職種は調査専門ではないことが大半で、建設業界内で仕事をもらうヒエラルキーの内側にいる。ゆえに、スリットの不良工事を見つけても公にされることなく、秘密裏に補修工事がなされて、問題は闇に消える。

 住民側の「公になれば、マンション価格が下がる。」という誤った認識も、問題の隠薇を助長する。公になろうがなるまいが、直せば価格、価値は本来のものに戻る。たとえ価格が下がったとしても、それは不良工事をした施工者、チェックしなかった販売者の責任であって、その分を補償する義務をともなうのは当然であろうが、そのマインドが消費者の側に浸透していない。

 私が構造スリット問題に出くわしたのは、住友不動産時代だ。同僚らを相手に、「自分が管理監督したとしても、スリットを完全に敷設するのは無理だ。誰かできる人がいたら教えてほしい」と発言すると、誰もが下を向いてうつむいた。これは、いずれ大間題になるだろうと思った。

 私は、このままでは国民をだまし続けることになると思い、独立後はスリット問題をライフワークとして取り組んできた。建設業界が、国民、消費者と真摯に向き合えるか否か。構造スリット問題は、その試金石となっている。

(つづく)

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