2024年08月13日( 火 )

(仙台)前田建設工業、清水建設のマンション構造スリット欠陥問題 (4)住民側は具体的に何をすべきかの助言

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AMT一級建築士事務所代表 都甲栄充氏

 仙台で発覚した準大手ゼネコンの前田建設工業(東京)、スーパーゼネコンの清水建設(東京)による耐震欠陥問題は、マンション管理組合がゼネコンと対峙して交渉することの難しさを浮き彫りにした。前田建設工業は指摘を受けてから2年、清水建設は実に20年、住民らをはぐらかし続けた。庶民にとって一生に一度の買い物となるマンションで、構造(耐震)スリット問題のトラブルに巻き込まれないためには何をすべきか。4回シリーズの最後は、2つの欠陥マンションのトラブルを解決に導いたAMT一級建築士事務所の都甲栄充代表に、防衛策をうかがった。

住民側は何をすべきか

●10年の壁

 まず、住民側が絶対にすべきことは、10年以内の構造スリットの調査だ。人間でいうところの「健康診断」みたいなものだ。病気が見つかれば治療すればいい。マンションも補修工事をすれば設計図通りになるので、価値が下がることはない。

 病気の早期治療と同じで、マンションも早期に欠陥を見つけたほうが断然良い。理由は、マンションなど新築物件を購入した人を守る法律「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(以下「品確法」という。)の適用範囲が、築10年以内だからだ。

ドリルによるスリット調査のイメージ
ドリルによるスリット調査のイメージ

 品確法(時効10年)は、「構造耐力上主要な部分」または「雨水の浸入を防止する部分」に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、過失の有無を問わず売主に責任があると定めている(買主は売主に、売主は施工業者に責任を問うことができる)。 構造スリットは、柱や梁、床、基礎など構造上主要な部分を守るために設置する。すなわち、スリットに欠陥が見つかれば、この法律の適用を受けることができる。

 さらに、品確法を確実に履行させるために法律を改正して、2009年10月以降は施工業者に保険加入もしくは供託を義務づけた。マンション販売で直に消費者と接触する売主にとって「信頼」ほど重要なものはなく、問題が発覚した際の早急な対応が期待できる。

 構造スリット調査を実施するにあたり最大の注意点は、まさにこの『築年数の壁』だ。一般的にマンションの大規模修繕工事の時期は、築13年前後が多い。ただし、理事は輪番制で次々に交代してしまうため、大規模修繕工事より前にこの調査を実施するというモチベーションが働きにくいことが、最大のネックになっている。改めて強調するが、「品確法」の時効である『10年以内』がポイントだ。

 しかも、管理会社が販売会社の関連会社(子会社)である場合、管理会社が管理組合に対して、構造スリット調査を提案することはあり得ない。なぜならば、この問題で売主と買主が対立したとき、管理会社は親会社の利益を擁護すべき立場にあるからだ。

 費用の心配はいらない。構造スリットに施工不良があるかないかの判断は「簡易調査」で十分であり、私の場合、費用は30万円だ。逆に数百万円もの調査費用を請求する業者があれば、悪質性が疑われるので要注意だ。

●20年の壁

 そして、10年を過ぎてしまった場合、次は『20年の壁』がある。2020年4月に改正民法が施行される前の物件だと、賠償請求権が20年で容赦なく消滅してしまう(2020年4月以降の物件の場合は、現時点で賠償請求権の対象なので割愛)。

 20年を過ぎると、構造スリットに欠陥を見つけても、施工業者に賠償や修繕を求める法的根拠がなくなってしまう。仙台の欠陥マンションは、まさにこの『時間の壁』との闘いでもあった。

 清水建設が仙台で施工したマンションにおいて、最初に異常が見つかったのは、建築から6年が経った頃であった。一部の部屋で外壁のひび割れから水が浸入して、和室の畳下や洋室のカーペット下がカビだらけになったのだ。

 住民の指摘で清水建設が取った対策は、構造スリットが敷設されるべき部分への「シーリング」だった。当時の報告書には、「壁の脇、縦4カ所に耐震スリットが配置されています。(中略)調査でわかりましたが、シーリングがされていないために、外部から雨水が浸水し(中略)カビの発生へ至った」と記されていた。

断面欠損のドライバー検査のイメージ
断面欠損のドライバー検査のイメージ

 そして、この部屋で再び欠陥が現れたのは、築20年以上たってからであった。しかも、私が調査したところ、シーリングしたとされる場所に、スリットは入っていなかった。

 私がこのマンションの顧問建築士に就任したのは、この頃だった。それ以前に2社が調査などをしていたが、清水建設と対峙することを嫌がり、撤退していた。

 過去の資料に目を通すと、清水建設は2011年3月の東日本大震災後の調査で、「スリットに異常がない」とする報告書を出していたことも分かった。この時点では、マンションは築20年以内であった。

 ただし、20年を過ぎた物件で賠償請求ができなくなるのは、契約が「成立」していた場合の話だ。清水建設の度重なる詐欺的行為から、『契約無効』の可能性さえ想定される状況であった。結局、清水建設との交渉で全面調査と補修を約束させたので、何とか住民を救うことができた。

 清水建設の場合も前田建設工業の場合も、住民や管理組合は法律や専門知識、業界用語をある程度勉強して交渉に臨んでいた。それでものらりくらりと追及をかわされて、時間だけを浪費させられていた。百戦錬磨のゼネコンと対峙するには、管理会社やマンション管理士では力不足で、ましてや管理会社は親会社の利益を擁護すべき立場の会社だ。

 従って、問題がこじれたら、できるだけ早く『経験豊富な』建築士か弁護士に相談することが肝要である。

(了)

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