2024年08月14日( 水 )

くま川鉄道とJR肥薩線の復旧状況と展望(前)

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運輸評論家 堀内重人

 熊本県内を走行する第三セクター鉄道のくま川鉄道は2020年7月の集中豪雨で被害を受け、現在は肥後西村~人吉温泉間の9.1kmを代行バスで対応しており、25年度内に全線復旧を目指すとしている。一方、JR肥薩線では八代~吉松間はいまだ復旧していない。八代~人吉間が復旧することが決定しただけで、復旧時期は未定である。くま川鉄道の全線復旧へ向けた取り組みと、人吉温泉駅で接続するJR九州の肥薩線の復旧に向けた取り組みを紹介し、復旧後の人吉地区の鉄道の在り方について、言及したい。

くま川鉄道の現状と上下分離経営の導入に向けた取り組み

くま川鉄道 KT-100 イメージ    くま川鉄道は、人吉盆地の球磨川流域を走る第三セクター鉄道であり、1989(平成元)年4月26日に会社が設立され、同年10月1日にJR九州の湯前線を、継承して営業を開始した。

 湯前線は、国鉄改革時に第三次特定地方交通線に指定されたが、87年4月1日に国鉄が分割民営化時に誕生したJR九州に、いったんは引き継がれた。国鉄・JR九州時代は、博多へ直通する急行「くまがわ」が乗り入れるなどしていたが、くま川鉄道へ移管時に、博多直通の急行列車は、廃止されてしまった。

 くま川鉄道が運行を開始したときは、冷房完備の軽快なKT-100・KT-200形気動車を、転換交付金を活用して新造し、営業を開始するなど、燃費とサービス水準の向上を図った。

 だが、くま川鉄道運行開始時に導入された軽快気動車も、製造から約25年も経過すれば、軽量化していることから、車体強度などの関係もあり、老朽化が進行していた。そこで2013年度に3両、さらに14年度に2両を、新車両に置き換えたことで、くま川鉄道が所有する5両の車両の置き換えが完了した。くま川鉄道の車両は、「田園シンフォニー」と命名され、車内には木材が多用されている。

 くま川鉄道は、赤字であったJR九州の湯前線を継承して誕生したことから、慢性的な赤字体質であり、転換交付金で損失の補てんを行っていたが、バブル経済が崩壊後は、低金利政策が採用され、転換交付金の運用益が減少した。

 くま川鉄道自身も、少しでも収入を増やそうと駅名などの命名権を売買する、「ネーミングライツ」を、08年9月から実施するようになった。「ネーミングライツ」は、慢性的な赤字経営に苦しむ第三セクター鉄道としては、千葉県を走行するいすみ鉄道も実施している。

 また、12年2月からは、JR九州の人吉駅の隣に、国内・海外旅行商品の販売、くま川鉄道グッズ販売、奥球磨方面の観光案内などを行う「くま鉄ゲストハウス くまたび」を開所して、旅行業や物販事業を展開するようになった。

 くま川鉄道自身は、経営努力を行って、少しでも増収を得ようとしていたが、湯前線の設備を継承したことから、橋梁などは老朽化が進んでおり、自社の経営努力だけでは、更新が厳しい状態になった。

 そこで11年には橋梁の塗装の塗り直しなど、補修で約9,000万円、12年度に摩耗した線路の交換と、老朽化した枕木の交換を実施したが、その際、約6,000万円を要した。どちらの補修に対しても、熊本県が費用の3分の1を補助している。

 ところが20年7月4日の集中豪雨で、くま川鉄道はJR九州の肥薩線とともに甚大な被害を受けて、くま川鉄道は全線で運休となった。

 復旧状況だが、21年11月に肥後西村~湯前間の運転が再開したが、残りの人吉温泉~肥後西村間の9.1kmは、代行バスが運行されている。しかし、日曜日は高校生の利用などが見込めないため、運休となる。この区間の復旧は、25年度内を予定している。

 復旧にあたり、過去3年間は赤字の鉄道会社に対して、大規模災害の特例支援措置が適用される。復旧費は、最初はくま川鉄道が負担するかたちにはなるが、経営基盤が脆弱なくま川鉄道に、数億円の負担は非常に厳しいため、熊本県が実質的に負担する。

 その後、国が地方交付税や補助金というかたちでキックバックを行うため、実質的には復旧費用の97.5%を負担することになる。残りの2.5%は、熊本県や人吉・球磨地域の市町村が負担する。

 熊本県や地元市町村は、集中豪雨で被災した後に「くま川鉄道再生協議会」を設立し、同社に対する支援策を協議した。国の特例支援措置を受けるのを前提として、沿線自治体などがインフラなどを保有し、くま川鉄道が列車運行を行う上下分離経営が導入される。

 そうすることで、インフラの維持管理だけでなく、固定資産税の支払いから解放され、帳簿上の経営状態は改善する。ただ、上下分離経営を実施しただけでは利用者が増えないため、今後はくま川鉄道が利用者を増やすための施策が重要になる。それにはJR肥薩線の復旧が重要になる。

(つづく)

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