くま川鉄道とJR肥薩線の復旧状況と展望(中)
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運輸評論家 堀内重人
熊本県内を走行する第三セクター鉄道のくま川鉄道は2020年7月の集中豪雨で被害を受け、現在は肥後西村~人吉温泉間の9.1kmを代行バスで対応しており、25年度内に全線復旧を目指すとしている。一方、JR肥薩線では八代~吉松間はいまだ復旧していない。八代~人吉間が復旧することが決定しただけで、復旧時期は未定である。くま川鉄道の全線復旧へ向けた取り組みと、人吉温泉駅で接続するJR九州の肥薩線の復旧に向けた取り組みを紹介し、復旧後の人吉地区の鉄道の在り方について、言及したい。
肥薩線の復旧決定と今後の課題
JR九州と熊本県は、24年4月4日に、肥薩線の八代~人吉間を鉄道で復旧させることに基本合意した。20年7月の集中豪雨で肥薩線が被災し、八代~吉松間が不通となってから約4年が経過する。熊本県は「粘り強い交渉」だけでなく、「費用負担の覚悟」を示した。
だが人吉~吉松間は、ほとんど被災していないにも関わらず、復旧は後回しにされている。沿線の鹿児島県と宮崎県も復旧を望んでおり、協議会はいまだ開催されていないが、国、JR九州、熊本県・鹿児島県・宮崎県も加わって勉強会は開催されている。勉強会では、情報収集と復活後の姿についての意見交換が行われている。
肥薩線は、八代~隼人間を結ぶローカル線で、営業区間は124.2kmと長い。起点の八代駅でJR鹿児島本線と肥薩おれんじ鉄道と接続、終点の隼人駅でJR日豊本線と接続する。途中の人吉駅でくま川鉄道と接続し、吉松駅でJR吉都線と接続するなど、肥薩線は「行き止まり式盲腸線」ではなく、南九州の鉄道ネットワークの一端を担っている。
肥薩線の被災箇所は、鉄橋流出2本を含めて448件におよんでいる。復旧費用は、JR九州が見積もった金額では、約235億円となった。一部区間の線路の付け替えとなれば、もう少し金額が増えることになる。
被災前の肥薩線は、年間で9億円の赤字を出す不採算路線であり、八代~人吉間が年間で6億円の赤字であるから、JR九州は鉄道復旧に難色を示していた。それでも沿線自治体による鉄道復旧の意向は強く、人吉市などは鉄道が廃止されると、観光客も来なくなり、街が衰退することに危機感をもっている。
そこで国土交通省と熊本県が主体となって、22年に復旧・存続を目指した「JR肥薩線検討会」が設立され、24年4月3日までに7回の会議が行われた。
4月3日の会議で基本合意した内容は、「上下分離経営」「観光需要と日常生活利用の創出の具体化」であった。熊本県と沿線自治体は、「SL人吉が走った肥薩線は観光資源として重要」と主張していた。熊本県は、復旧費について「国と県で9割負担する」「上下分離経営を採用」「年間7億4,000万円の維持費は、熊本県が支援して、市町村側の負担は約5,000万円に減額する」とした。
これは11年の集中豪雨で不通となっていた只見線が、22年10月に復旧した事例を参考にしている。福島県は、只見線の観光資源としての価値を評価し、県内の経済効果を期待して費用負担を決めた。
だがJR九州は、「観光振興だけでは持続可能性が確保できない」「沿線の人々が日常的に利用しなければ鉄道を残す意味がない」として、鉄道復旧について具体策を求めていた。JR九州が、消極的であったのは、肥薩線の輸送密度が500名弱と低いことだけでなく、沿線の過疎化が進んでいることも、大きく影響した。
そこで熊本県と地元12市町村が参加する「JR肥薩線再生協議会」は、野村総合研究所に調査を委託。JR九州が提示する数値を鵜吞みにせず、外部のシンクタンクに調査させることで、肥薩線の被災状況を正確に把握するだけでなく、今後の活性化策を考えるヒントにもつなげられる。そしてJR九州が求める条件について検討し、「肥薩線利活用策」をとりまとめた。
このなかには、従来の「利用者に向けた運賃の助成制度」だけでなく、「パーク&ライド用駐車場の整備」「鉄道と接続するフィーダー交通の整備」を盛り込んだ。
筆者は、観光列車を運行して、外部から人を呼び込むことも重要であると考える。沿線が過疎化している上、少子高齢化も進行しており、外部から観光客を呼び込まないと、肥薩線は活性化しないだろう。
(つづく)
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