くま川鉄道とJR肥薩線の復旧状況と展望(後)
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運輸評論家 堀内重人
熊本県内を走行する第三セクター鉄道のくま川鉄道は2020年7月の集中豪雨で被害を受け、現在は肥後西村~人吉温泉間の9.1kmを代行バスで対応しており、25年度内に全線復旧を目指すとしている。一方、JR肥薩線では八代~吉松間はいまだ復旧していない。八代~人吉間が復旧することが決定しただけで、復旧時期は未定である。くま川鉄道の全線復旧へ向けた取り組みと、人吉温泉駅で接続するJR九州の肥薩線の復旧に向けた取り組みを紹介し、復旧後の人吉地区の鉄道の在り方について、言及したい。
「取り残された感」のある人吉~吉松間
4月25日、JR九州の古宮社長は定例記者会見で、鹿児島県と宮崎県を交えて協議に入りたいとの考えを示した。その理由として鹿児島県知事・宮崎県知事が、定例会見で肥薩線の人吉~吉松間に対し、存続の意向を示したことが挙げられる。
鹿児島県知事は、4月19日の定例会見で、「川線」の八代~人吉間の存続に向けた基本合意を受けて、「山線」の人吉~吉松間も、前進したとの考えを示した。そして「山線の部分も今後の存続・持続に向けてしっかり取り組みたい」「重要なインフラであり、今後の利用促進も含めて協議したい」と、鉄道復旧を目標とする考えを示した。だが「いつまでに山線を再開させたいのか」という、記者団の質問に対し、「具体的にはない」と回答するなど、山線の人吉~吉松間については、要望の域を出ていない。
一方の宮崎県知事は、3月26日の定例会見で、「JR肥薩線検討会」に宮崎県もオブザーバーとして参加し、議論を把握していることについて触れた。そして「何とか鉄道を残していくという議論が進んでいることは歓迎したい」と語っている。
筆者も、肥薩線の復旧に関しては、まずは「川線」といわれる八代~人吉間の復旧が先であり、それが一段落してから、「山線」といわれる人吉~吉松間の復旧を、本格的に議論することが必要だと感じている。
熊本県は、八代~人吉間の復旧に予算を付けるなど積極的だったが、鹿児島県や宮崎県は要望だけで、予算を付けるなどの具体策を示していない。「JR肥薩線検討会」には鹿児島県もオブザーバーとして参加しているが、当事者意識が低い。
鹿児島県・宮崎県の当事者意識が低いのは、以下の2つの理由からである。
(1)人吉~吉松間の大部分が熊本県にあり、鹿児島県や宮崎県の関与する部分が短い。人吉~吉松間のうち、人吉駅から矢岳駅付近の約10kmが熊本県の区間であり、鹿児島県の区間は真幸~吉松間の約4km、宮崎県の区間は真幸駅前後の約4.5kmしかない。
(2)被災箇所は、熊本県の人吉付近で28カ所、鹿児島県が1カ所である
熊本県の区間がすべて復旧で合意できれば、鹿児島県の区間も宮崎県の区間も大きな負担がなく、復旧できると考えていた。熊本県は、八代~人吉間が復旧すれば、くま川鉄道とつながって一体的な観光、日常利用策を進められる以外に、熊本~人吉間を結ぶ特急が運転されると考えている。事実、被災前は、特急「かわせみ やませみ」が運転されていた。
JR九州が公開している「線区別ご利用状況(18年度)」によると、八代~吉松間の平均通過人員は「455人/日」であるが、人吉~吉松間は「いさぶろう・しんぺい」などの観光列車の需要が大半であるから、この区間だけを見ると「105人/日」と落ち込む。
この区間は、県境を跨いでいるため、高校生の通学利用は期待できないが、人吉~吉松間が復旧すれば、以前のように観光列車が運転されるだけでなく、鹿児島中央~吉松間に特急列車の運転も再開されることが考えられる。人吉~吉松間は、年間の赤字額が3億円であるが、この区間が復旧することで、肥薩線の隼人~吉松間が活性化するだけでなく、日豊本線の鹿児島中央~隼人間も活性化する。
鹿児島県や宮崎県が肥薩線の人吉~吉松間の復旧を願うのであれば、この区間が復旧することで、肥薩線の隼人~吉松間や日豊本線も活性化する点と吉都線も活性化する点も理解したうえで、積極的に国や熊本県、JR九州に働きかける必要がある。
総括
肥薩線は、行き止まり式の盲腸線ではなく、路線長が長いことに加え、鹿児島本線や肥薩おれんじ鉄道、くま川鉄道、吉都線、日豊本線と接続するなど、南九州のネットワークの一端を担っており、肥薩線が復旧することなく、廃止されてしまえば、南九州の鉄道ネットワークが崩壊する危険性があった。
幸い、肥薩線の八代~人吉間は復旧することが決まったが、復旧する時期は未定であるだけでなく、人吉~吉松間は、ほとんど被災していないにも関わらず、不通のままである。
熊本県・鹿児島県・宮崎県の関係者が集まって、復旧に向けた勉強会を開催している程度であり、いまだ協議会にまでは、発展していない。
くま川鉄道は、25年度中に全線が復旧することが決まっているが、この時点では人吉温泉駅で接続するJR九州の肥薩線は復旧しておらず、厳しい経営が続くことになる。
肥薩線の八代から人吉間が復旧すれば、熊本方面からの観光客などの入込もあるため、くま川鉄道も活性化が期待されるが、さらなる活性化には、ほとんど被災していない人吉~吉松間の復旧も重要である。
人吉~吉松間が復旧すれば、この区間に観光列車が運転される以外に、鹿児島中央駅発の特急「はやとの風」が復活する可能性が高い。その際、真幸駅と大畑駅のスイッチバックを廃止し、駅を本線へ移行させることで、JR九州の維持管理費を削減させるようにしたい。
筆者は、特急「はやとの風」が復活するとなれば、鹿児島中央駅~吉松間だけとせずに吉都線を通り、宮崎まで直通させることで、吉都線の活性化だけでなく、宮崎や都城方面の人も、人吉方面へ出掛けやすくなり、くま川鉄道の活性化に貢献するものと考える。
くま川鉄道、JR肥薩線と、細切れで考えるのではなく、他の路線も含め「南九州地区の鉄道ネットワーク」という、大きな視点で考えるべきではないだろうか。
(了)
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