肥薩おれんじ鉄道の現状と展望(後)
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運輸評論家 堀内重人
(株)肥薩おれんじ鉄道は、熊本県と鹿児島県を跨って走行する第三セクター方式の鉄道会社で、沿線自治体およびJR貨物が出資している。九州新幹線開業にともなう、並行在来線区間の八代~川内(せんだい)間を経営分離により開業したこともあり、厳しい経営が予想されるが、貨物列車の通行料収入に依存することなく、新たな活路を見出そうとする同鉄道の現状を紹介し、将来を展望していきたい。
活性化に向けた取り組み
肥薩おれんじ鉄道は、開業時から、九州新幹線との接続、沿線の高校への利便性の向上、観光客を誘致するための新駅設置や駅名変更、駅舎リニューアル、土日・祝日限定の一日乗車券「わくわく切符」の発売、JR鹿児島本線の新八代などへの乗り入れを実施している。
一時期は、利便性を向上させるため、08年3月15日のダイヤ改正で土日・祝日などに出水から熊本を結ぶ快速列車「スーパーおれんじ」と、鹿児島中央駅を結ぶ快速列車「オーシャンライナーさつま」が設定され、県庁所在地駅の熊本と鹿児島中央に乗り入れた。これらの快速列車は、19年のダイヤ改正で「利用者の減少」から、熊本、鹿児島中央への乗り入れを止めた。そして21年3月のダイヤ改正で、全快速列車の運行を取り止めたことから、定期の旅客列車はすべて普通列車となる。
さらに観光客だけでなく、沿線の地元客の誘致を強化するため、13年3月24日から新八代~川内間で観光列車「おれんじ食堂」、同年8月8日からは出水~八代間や、出水~川内間で「おれんじカフェ」の運行を開始した。「おれんじ食堂」は、車内で有明海などの車窓からの風景を楽しみながら、フルコースの食事が楽しめる列車である。料理などは、地上で調理されたモノを車内へ積み込んで、加熱して乗客に提供している。「おれんじ食堂」は、週末の金・土・日曜日と祝日などを中心に運転される。乗車するには肥薩おれんじ鉄道のHPから申し込むかたちになるが、「おれんじカフェ」は貸切専用であるから、その団体やツアーに参加しないと乗車することができない。
有明海の眺望の良さを堪能してもらうべく、15年3月14日のダイヤ改正では、土日・祝日に表定速度35km/hでゆっくりと走行する「ゆうゆうトレイン」や、平日に車両、乗務員をレンタルして、自由に列車を走らせる「ドリームトレイン(列車レンタル)」の運行を開始した。その後、「ゆうゆうトレイン」は、利用者減少などの理由から、17年3月4日のダイヤ改正で、廃止された。
さらに同年7月21日からは、販売単価が高い商品として、「マイトレイン・鉄道教室」の販売を開始した。この商品は、最初に参加者が実際にダイヤ作成の講習を受け、その後、ダイヤを作成して列車を走らせる商品である。この商品は単価も高いが、講習を行うため人件費や、実物の車両を運行するための経費も必要であるから、利益率は高いとはいえないものの、自社の人材や車両を有効活用して、少しでも増収につなげたいと考え販売している。
17年12月1日に、肥薩おれんじ鉄道とその沿線を舞台とした映画『RAILWAYS』シリーズの第三弾である、『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』の公開が決定したことを発表。18年1月16日から2月15日に掛けて撮影され、18年10月26日に映画「かぞくいろ」がラッピングされた車両が運行を開始した。
それ以前から肥薩おれんじ鉄道では、熊本県のPRキャラクターである「くまモン」をデザインした「くまモンラッピング列車」を、平素は定期の普通列車で使用している。ブルーの車体の1号、オレンジ色の2号に加え、18年3月には黒と赤を基調にした3号がデビューしたことにともない、18年3月11日と12日に、出水~八代間に「くまもん」がラッピングされた車両を3両連結した臨時列車が運行された。また、21年10月7日にも出水~川内間を3両編成で、車掌が乗務するかたちで運転している。
日本国内だけでは、人口減もあって需要が頭打ちになる危機感をもったことから、19年6月23日に台湾南部を走る台湾鉄路の屏東線および南迴線と姉妹鉄道の協定を締結し、台湾からの利用者を取り込むことを模索している。また21年2月8日からは、八代~上川内間で、利用者が少ない日中だけではあるが、車内に自転車が積み込める「サイクルトレイン」の運行を開始した。
JR九州の旅客列車の通過など
16年4月7日からは、JR九州が誇る超豪華クルーズトレインの「ななつ星 in 九州」が、乗り入れを開始した(写真1)。「ななつ星in九州」は客車列車であるが、牽引は専用のディーゼル機関車が牽引しているため、電化設備を使用することはない。また、20年11月19日からは、JR九州のD&S列車である「36ぷらす3」が、乗り入れを開始した。「36ぷらす3」は、電車であるから、肥薩おれんじ鉄道が架線を維持しているため、乗り入れが可能である
JR九州は22年12月11日と12日に、博多から鹿児島中央間で17年ぶりに、JR九州の787系電車(写真2)を使用して、特急「リバイバルつばめ号」を運転(八代駅~川内駅間は肥薩おれんじ鉄道を走行)した。なお、往路の11日は下り、復路の12日は上りが運転されている。
総括
肥薩おれんじ鉄道の主な収入源は、貨物列車の線路使用料であるが、肥薩おれんじ鉄道は、経営が苦しいことから、貨物列車にだけ依存するのではなく、少しでも利用者を増やすべく、「おれんじ食堂」「おれんじカフェ」などのイベント列車の運行を行っている。また「くまもん」などのラッピング列車を運行したり、台湾鉄路と姉妹鉄道の提携を行い、外国からの誘客も図ったりしている。そして「ななつ星in九州」や「36ぷらす3」など、JR九州の列車の乗り入れにも協力している。
「ななつ星in九州」などの通行料に関しては、肥薩おれんじ鉄道にヒアリングした際、回答は得られなかったが、「自社のブランド力と認知度の向上に貢献している」とのことであった。
両列車は、八代~川内間の全区間を乗車してもらえるという利点がある。今後は、沿線人口の減少もあることから、地域輸送を堅実に行いつつ、観光鉄道的な要素を増やし、外部から人を呼び込むことが不可欠になる。そのためには、JR九州の「ななつ星in九州」だけに限らず、イベント列車の乗り入れも、不可欠である。肥薩おれんじ鉄道の活性化には、JR九州との連携が重要であると言えるだろう。
(了)
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