2024年08月23日( 金 )

肥薩おれんじ鉄道の現状と展望(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

運輸評論家 堀内重人

 (株)肥薩おれんじ鉄道は、熊本県と鹿児島県を跨って走行する第三セクター方式の鉄道会社で、沿線自治体およびJR貨物が出資している。九州新幹線開業にともなう、並行在来線区間の八代~川内(せんだい)間を経営分離により開業したこともあり、厳しい経営が予想されるが、貨物列車の通行料収入に依存することなく、新たな活路を見出そうとする同鉄道の現状を紹介し、将来を展望していきたい。

肥薩おれんじ鉄道の概要と収支予測

 新会社の事業基本計画で、前提とした00年の調査数値では、移行される区間のローカル列車の利用者数は1日6,799人、輸送密度1,247人/kmだった。沿線の過疎化や少子高齢化もあり、数値は漸減していたことから、開業時の輸送密度は1,230人/kmと想定。この数字を同時期の第三セクター鉄道と比較すると、土佐くろしお鉄道が1,291人、北近畿タンゴ鉄道が1,168人と同レベルであり、三陸鉄道の511人、廃止された北海道ちほく高原鉄道の302人と比較すれば高かった。

 人件費を下げるため、肥薩おれんじ鉄道の役員を含む全社員94人の内9割を、開業から10年間は、JR九州からの出向とした。肥薩おれんじ鉄道の給料と差額が生じるが、差額はJR九州が負担することで、人件費を削減。こうした支援策により、開業から9年間は、減価償却前の段階では、黒字になると予測された。

 経営を軌道に乗せるには、過剰な資産を抱えていては、固定資産税の負担が増える。しなの鉄道の軽井沢~篠ノ井間は、JR東日本から譲渡された施設が、簿価を基準に評価すると103億円と高額であり、それだけの資産を譲渡されると、国に固定資産税などの支払いが生じるため、経営を圧迫してしまった。

 そこで肥薩おれんじ鉄道では、JR九州が鹿児島本線の八代~川内間からは撤退するため、駅舎などを更地化して他社に譲渡する場合を想定した。駅舎などの建物は、減価償却を終えて資産価値0で算定したことから、施設を譲渡する金額が10億円となった。

肥薩おれんじ鉄道    肥薩おれんじ鉄道は、自社管内で運転される旅客列車に関しては、気動車で対応する。JR九州から中古の電車を譲渡してもらう方法もあったが、鹿児島本線で使用されていた3両編成の475系電車は、老朽化が進んでいる上、この電車では輸送力過剰であった。単行運転が可能な交流電車は、量産タイプがないだけでなく、交流電車は直流電車よりも製造費用が高い。またローカル列車に関しては、スピードアップの必要性に乏しく、標準仕様が確立された軽快気動車であれば、最高速度は100km/h程度は出る上、1両当たり1億2,000万円で導入することが可能である。

 肥薩おれんじ鉄道は、貨物輸送では幹線に該当する。仮に架線を撤去すれば、JR貨物は貨物列車を運行するため、ディーゼル機関車を用意する必要性と、機関車を交換するためのロスタイムが生じる。それ以外に、新たに作業要員を確保するだけでなく、ディーゼル機関車の運転士を育成するコストが発生する。

 そうなれば貨物列車だけ電気運転する方法が望ましいということになる。肥薩おれんじ鉄道の場合、海沿いを走行する区間も多く、架線や碍子が損傷しやすいため、維持費がかさむ。そこで肥薩おれんじ鉄道は、電化設備の維持費として、開業後10年間は、最低でも年額で2億8,000万円の線路使用料を、JR貨物に保証させた。

 JR貨物も、肥薩おれんじ鉄道を通過できなければ、鹿児島まで貨物を届けることができない上、貴重な収入源を失うことになる。それゆえ肥薩おれんじ鉄道が示した線路使用料に関する条件を受諾し、1億円の出資も行った。

 鹿児島本線の八代~川内間が、肥薩おれんじ鉄道という第三セクター鉄道に移管されたことから、JR貨物にとれば、線路使用料が問題となる。JR九州などのJR旅客会社を通過する場合、JR貨物の経営を安定化させるため、貨物列車が運行をしなければ支払いが免除される、回避可能費用で計算した割安な線路使用料を支払っている。

 肥薩おれんじ鉄道は、10年間は最低額として2億8,000万円の線路使用料を要求しているため、JRの各旅客会社の支払う線路使用料との差額は、国(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)からJR貨物に、「貨物調整金」が支払われるかたちで補てんしている。

 肥薩おれんじ鉄道は、消費税引き上げにともなう運賃改定を除き、運賃の値上げは2004年3月の開業以降初めて(2024年8月3日に九州運輸局に申請)行う。平均値上げ率は9.98%であり、10月1日から実施するという。運賃を値上げする理由は、沿線人口の減少にともなう利用者の減少に加え、資材仕入れやエネルギー価格の高騰、他の民鉄と同様にコロナ禍の影響などの要因もある。

(つづく)

(前)

関連記事