【BIS論壇No.455】特攻隊ミユージカル、流れる雲よ

    8月17日に銀座8丁目博品館劇場で上演された『特攻隊ミュージカル・流れる雲よ』を観覧した。たまたま7月2日、BIS理事の佐藤公彦・三冬社社長が主宰された浅草での「日本舞踊文化祭」にBIS有志と参加。ゆかた大会の審査委員を仰せつかった。その審査委員の1人が筆者と同郷の鹿児島出身の屋宮直達氏で、同氏から招待されたものである。

　劇場で配布された解説のパンフレットにBIS顧問の石塚隆正Global Ethics 経営研究所社長が脚本家の奈美木映里氏（ペンネーム：草部文子）との関係で推薦状を書かれておられるのを知り、不思議なご縁に驚いた次第だ。

　劇は鹿児島の知覧特攻基地が舞台で、鹿児島弁も出てきて懐かしさを感じた。観客には青年、とくに若い女性が多かったが、すすりなきの声が聞こえ、若い女性も感動しているさまを目撃し、感銘を受けた。これも深刻な特攻隊の悲劇を、ミュージカル形式で演出しており、若い人に受け入れられている様子がうかがえた。

　『流れる雲よ』は日本のみでなく、これまで中東のドバイ公演や第77回フランス・カンヌ国際映画祭、さらにはエジプト政府劇場での公演など海外公演も行っており、第38回ギャラクシー賞奨励賞受賞作品でもある。

　脚本は草部文子氏、演出は若手の田中寅雄氏、舞台美術は三越劇場公演も手がけた、これも若手の増山麗奈氏が若い感覚ですばらしい舞台を創造していた。

　脚本家の草部文子氏は戦後79年目、本作品を上演して25年目になるという。このミュージカルには最近終わったばかりのパリ・オリンピックで入賞した馬術に関連し、かつてオリンピックで入賞し、硫黄島で玉砕した西竹一大尉や、ウクライナ戦争、ガザ戦争にも触れて、若い観客の関心を引いていたのはさすがである。

　国のために命を捧げた若い特攻隊員を含め、先の太平洋戦争で300万人以上の犠牲のもとに築かれた日本の今日の平和や繁栄が最近の岸田政権下、防衛費の2倍増額、敵基地攻撃容認の独走した閣議決定、台湾有事を見据えた、南西諸島の防衛強化など、あらたな戦前が始まりつつあるきな臭い日本の現状下、戦後の我々日本人の新たな反省を求められたすばらしい演劇であった。

　筆者の郷里の鹿児島大隅半島の海軍鹿屋航空基地、串良海軍航空基地から終戦間近に沖縄の米艦隊への特攻機の出撃を目撃した者として、国に命をささげた若い特攻隊員の御霊に哀悼の誠を捧げ、二度と戦争の惨禍を起こしてはならないと深く誓った、敗戦後79年目の8月17日の観劇であった。

＜プロフィール＞
中川十郎（なかがわ・ じゅうろう）
　鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン（現：双日）入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師（国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論）、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師（競争と情報、テクノロジーインテリジェンス）。