2024年09月03日( 火 )

空き家問題解決へ、「戸建賃貸」で流通促進(後)

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(一社)全国古家再生推進協議会

 全国に約900万戸あるとされる空き家。その増大の抑止策として、ストック(中古・既存)住宅の流通システムを整えることが重要といわれるが、これまではあまり成果が表れていない状況である。そんななか、ストック住宅と投資家を結びつけ、「戸建賃貸」として再生することで流通を促進するビジネスモデルで年々成果を上げているのが、(一社)全国古家再生推進協議会(以下、全古協)だ。

投資額は平均600万円

 2018年から24年4月1日までに【図】のように東北から九州までの広範な地域で見学ツアーが1,477回開催され、7,613人が参加、2,099棟のストック住宅が再生されたとしている。会員数は1万5,064人(今年4月1日時点)にのぼり、見学ツアーに参加できる古家再生投資プランナーの認定者数は1,221人(同)となっている。投資家は公務員を含むサラリーマンが約60%を占め、投資額は1棟当たり平均600万円だという。

図
【図】

 大熊理事長は、「それぞれの状況に合わせて1棟ずつ、徐々に増やしていく人が多いですが、なかには40件の古家を購入している人もいます。また、災害などのリスクを考慮して、各地に分散して所有するという投資家もいます。一方、入居者については世帯主が40~50代が多く、ペットとの暮らしを低家賃で実現したいなどという方々、さらには生活補助を受ける手前くらいの方々、母子家庭の方などの入居があるケースも見られます」と話している。

 では、実際に現場ではどのような事業展開が行われているのだろうか。熊本県菊池市に本社があるコーエイ不動産(コーエイ(株))は、古家再生士の川口多恵氏と2人三脚で取り組み、これまでに23件の売買に関わってきた。「7~8年前から空き家活用の相談が増えてきたため、それに対応するものとして全古協の取り組みを知り、19年から古家再生事業に取り組んでいます」(平川隆男代表)という。

 「見学ツアーには、初めて参加するという投資家が多く、熊本県内を中心に関東などからも参加者がいます。複数の参加者によるさまざまな検討が行われ、さらに1回の見学会では1人1物件しか購入できないというルールもありますから、古家投資の初心者の方々には極めて安心できる仕組みになっていると感じているようです」(同)とも話す。なお、入居者はファミリー層が多く、近年はTSMCの半導体工場新設にともなう法人契約、さらにはそれに関連した外国人労働者向けの用途などがあり、今後は民泊施設としての用途も視野に入れているという。

「再生士」増やせるか

理事長・大熊重之氏
理事長・大熊重之氏

    今後の課題について大熊理事長は、現在32人の古家再生士を増員していくことだと指摘している。全古協によるストック住宅再生・流通のビジネスモデルは、投資家が購入できる条件、つまり家賃収入が安定的に得られるかが重視される。そのため、過疎地域や、逆に地価が非常に高額な都市中心部では取引が難しく、エリアが限られるのが実状だ。とはいえ、ビジネスが成立するエリアは全国各地に広く散在しているというのが大熊理事長の見方だ。

 たとえば、これまで福岡県においては小倉エリアで一度、見学ツアーを行ったが、それを実施した古家再生士は現在、他の事業の関係から活動を休止中で、福岡県は全古協のビジネスモデルの空白地となっている。「福岡市周辺など有望エリアがあり、今後、複数の再生士が登場することを期待しています。将来的には少なくとも全都道府県に1人を配置できるようにしたい」と話している。

 ところで、空き家問題は結局のところ、誰が対策のための費用負担をするのかということに尽きる。これまでは、その所有者が負担をせず放置し、その代わりに国や自治体などが負担していたが、今や900万戸の空き家を抱える状況になり、国でさえも対処に手が回らなくなる状況に至っている。全古協の取り組みは、空き家対策に民間資金、投資家の資金を活用することができるという点で注目される。

 大熊理事長は、「我々が最も大切にしているのは、『四方良し』。投資家(サラリーマンなど)は給与以外の安定収入源を、古家再生士(工務店など)は売上の向上を、入居者には低家賃での戸建ライフを、そして地域には空き家によるによるリスク低減(防犯など)を提供し、人を呼び込み地域の持続可能性を高めることができるからです」と胸を張る。空き家対策において国や自治体などの補助金頼みが多く、受益者が限られていることと対比すれば、「四方良し」は一定の説得力がある。

(了)

【田中直輝】


<INFORMATION>
理事長:大熊重之
所在地:大阪府東大阪市布市町3-2-57 
設 立:2014年7月
TEL:072-943-1560
URL:https://zenko-kyo.or.jp

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