2024年09月04日( 水 )

『脊振の自然に魅せられて』「ナツエビネに会えて」(後)

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 近年は植林された山の奥までたくさんの作業道が出来ている。それに伴い昔の登山道がなくなっている。沢を登ると森林の作業道へ出てきた。古い作業道は地図に表記されているが、直近のものは表記されていない。

 この作業道を進んで行くと、目的地とは反対方向へ下っているのを確認した。どこまで作業道があるのかと思い、進んで行ったところ、行き止まりになっていた。行き止まりの上部をみると縦走路方面への木こり道があった。

 道も確認できたので、ここで小休止することにした。標高約750m、市街地とは4度近く気温が低い。日陰はないが、そよ風が吹いており涼しかった。

 糸島の田園地帯に住むHがキュウリの漬物と自宅の庭のイチジクを冷やしてもってきてくれていた。キュウリの漬物は塩分補給が出来るうえに食が進む。イチジクも腹を満たしてくれる。イチジクは小ぶりだったが筆者の好物でもある。小腹を満たしたところで、さらに縦走路を目指す。

 後輩Oが休憩場所にストックを忘れたと言い、歩いて3分の場所に取りに行った。戻るのを待って再度、木こり道を10分ほど歩くと再び作業道が現れた。コンパスとヤマップで歩く方向を確認する。縦走路への方向を確認し、樹木のなかの斜面を歩いていると、誰かが歩いた跡だと思われる赤テープを目にした。赤テープは人が歩いたという目印ではあるが、必ずしもそのルートが正しいとは限らない。三瀬峠から金山の縦走路まで標高100m、距離は200mだと判断して斜面を進む。

 途中から後輩Oが筆者と違うルートを進んだ。メンバーもそれに続いて進んだ。二手に分かれるのは危険だと思ったが、お互い声を出し、居場所を確認し合いながら思う方向へと進む。

 筆者はコンパスで方向を確認し、縦走路の方向へと直進した。すると目の前に佐賀県が設置した標識が突然現れた。縦走路に出たのである。
 ザックから非常用ホイッスルを取り出し、下の斜面に向かって吹いた。「ピー、ピー、ピー」、向こうからも笛の応答があった。「おーい、縦走路に出たぞー」と筆者は3度叫んだ。

 やっと3人組が縦走路へ登ってきたので、「休もう」とメンバーに声をかけ、一息ついた。後輩Oがザックから大きなケースを取り出した。なかには立派なシャインマスカットがたくさん入っており、2粒のシャインマスカットを3個ずつ振る舞ってくれた。彼は果物を絶えず持参してくる。シャインマスカットは水気もあり、乾いた喉を潤した。女性Sはコーヒーゼリーを人数分用意してくれていた。いつもは後輩Kが持参してくるが、今回は不参加だったので、気をきかして彼女が持参してくれていたのだ。シャインマスカットとコーヒーゼリーで腹が満たされたため、用意してきたアンパンを頬張る必要はなかった。

 やぶ漕ぎによるメンバーの疲れがとれたと判断し、アゴ峠への分岐へと向かった。歩いて10分である。昨年、秋に道標の支柱を入れ替え、表示板も磨き、防腐剤を塗った道標である。筆者たちは、まるで仲間に出会えたように思えた。

 ここで、一息つき、目指すナツエビネが咲く沢ぞいの谷へと向かった。初めて歩く者が3人いたため、何度も歩いたことがある筆者がメンバーを案内した。右に左に曲がる木こり道を下りながら、メンバーがついてきているかどうか時折、後方を確認した。

 谷筋の道は熟練者でないと不安を感じる道だ。小さな沢を何度も横切ったところ、目の前に突然、1株のナツエビネが飛び込んできた。昨年は通り過ぎてしまったが、今回は目の目に現れた。山では目標物がないので時には通り過ぎることがある。

 昨年より背丈も低く、数も少ないが、薄暗い山で生き生きと輝いていた。「噂には聞いていたが」と感動を覚える仲間たちは写真を撮っていた。山深い地に生き残っていたナツエビネに感謝である。

ナツエビネに会えて喜ぶ仲間たち
ナツエビネに会えて喜ぶ仲間たち

 ナツエビネとの対面をはたし、ここから広域林道の方に下った。荒れた山道である。途中に砂防ダムもあり、倒木もあり、「登山者泣かせ」の木こり道である。

 30分歩くと広域林道に出てきた。涼しい山から下山してきた筆者たちに陽が差し、たちまち暑さを感じるようになった。林道で植物観察をしながら15分歩くと、車を停めた場所へ戻ってきた。

 今回は、80歳の筆者を筆頭に後輩の喜寿2人、60代女性2人の山歩きであった。やぶ漕ぎを強いられたが、仲間たちは満足していた。また、怪我をした後輩Sの足の腫れも引いていた。

 この歳でやぶ漕ぎができた自身の体に感謝である。また、認知症予防の脳トレーニングにもなった。

 次にナツエビネに会えるのは1年後である。帰宅すると仲間から「紅葉時期の秋もお願いします」という連絡が入った。

筆者のモットー:遊びに行くには努力も必要、日頃のトレーニングは欠かせない。

※盗掘を避けるため明確な場所の表示はしていません。

(了)

2024年8月30日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

(前)

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