2024年09月06日( 金 )

どうなる?小倉総合車両センター跡地(中)

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小倉都心部に近く、マンション開発が活発

(左)福岡地方裁判所小倉支部  (右)県道270号・金田跨線橋
(左)福岡地方裁判所小倉支部
(右)県道270号・金田跨線橋

 明治期から130年以上の長きにわたってこの地にある車両工場だけあって、現在の小倉総合車両センターの周囲はこれまで、この車両工場ありきの都市開発が進められてきたと推察される。というのも、所在する小倉北区金田は、JR日豊本線の線路を挟んで大きく2つのエリアに分かれており、線路の北西側はその大部分が小倉総合車両センターで占められている。北九州高速道路(都市高)の高架が小倉総合車両センターをぐるりと取り囲むかたちで張りめぐらされ、同都市高・下到津出入口もあるなど、意外と車利用でのアクセス性は良好。小倉総合車両センターの用途地域は工業地域(建ぺい率は60%、容積率は200%)となっており、小倉北区の都心部においては、ここだけ異質の空間となっている。

(左)金田一丁目団地 (右)マンションが立ち並ぶ大手町エリア-
(左)金田一丁目団地
(右)マンションが立ち並ぶ大手町エリア

 一方の線路の南東側は、県道270号によってさらにエリアが分割されており、県道270号の北側は概ね低層の住宅地が広がる一方で、県道270号南側には福岡地方裁判所小倉支部や小倉拘置支所、北九州弁護士会館などの法曹関連施設が建ち並ぶほか、新小倉病院や北九州市立埋蔵文化財センターなどを擁し、さらには(独)都市再生機構(UR都市機構)の金田一丁目団地をはじめ複数のマンションが林立するなど住機能も備えている。東側に隣接する大手町では行政・医療・オフィス機能などが混在しているほか、近年は北九州都心部でも有数のマンション密集地帯となっているが、金田のとくに東側エリアでも大手町と同様の土地利用の傾向となっているようだ。ただし、小倉総合車両センター自体は駅機能を有していないため、直線距離約1.3kmのJR西小倉駅か、直線距離約1.0kmのJR南小倉駅を利用することになり、鉄道利用のアクセス性は意外と高くないことは留意しておく必要がある。

 小倉総合車両センターから概ね半径1km以内で現在、開発や販売が進んでいる主な分譲マンションでは、第一交通産業(株)による「グランドパレス下到津」(99戸、23年9月竣工)や、(株)九州三共による「リヴィエール到津タワー」(51戸、23年7月竣工)および「リヴィエール西小倉ガーデンテラス」(39戸、26年7月中旬竣工予定)、東宝住宅(株)による「グランドキャッスル南小倉クラウドピーク」(104戸、26年4月末竣工予定)など。また、賃貸マンションでは、(株)ウィングスによる「(仮称)ウイングス到津の森」(98戸、25年1月末竣工予定)や、(株)スマートによる「(仮称)小倉北区金鶏町マンション」(60戸、25年2月竣工予定)などの開発も進んでおり、周辺エリアにおけるマンション需要が堅調なことをうかがわせる。

(左)(仮称)ウイングス到津の森
(右)(仮称)小倉北区金鶏町マンション

福岡・千早や東京・高輪など、
跡地再開発で新まち誕生へ

 さて、小倉総合車両センター跡地の再開発について論じていく前に、これまで日本において同じような鉄道施設跡地の再開発がどのように進められてきたのかを見ておきたい。

 福岡県内においては、鉄道施設跡地再開発の代表的なケースとして、福岡市東区の千早エリアが挙げられるだろう。千早エリアでは、JR千早操車場(旧・香椎操車場)跡地において、「香椎副都心土地区画整理事業」(約66.3ha)が進められ、2000年3月にはJRと西鉄の鉄道高架化工事に着工。その後、03年7月のJR千早駅の開業や、翌04年8月の西鉄千早駅(名香野駅から改称)の移転開業を経ながら、千早駅周辺の区画整理が進行し、周辺の道路インフラの整備進行とともに、新たな街区には次々と建造物が建ち並び、千早に新たなまちが形成されていった。同区画整理事業自体は清算期間5年を含めて18年3月末までに完了しているが、今なお千早エリアでは高橋(株)による新たな商業施設「ガーデンズ千早」が24年4月に全面開業したほか、JR九州などによる「MJR千早ミッドスクエア」(532戸、25年2月下旬竣工予定)といった大型分譲マンションの開発が進んでおり、依然としてまちの刷新が続いている。

 ほかに福岡市内においては、少し小規模だがJR貨物の博多臨港線・博多港駅の跡地において、(株)イズミによる大型商業施設・ゆめタウン博多が再開発されたケースもあるほか、博多臨港線・福岡港駅の跡地ではスポーツクラブや温浴施設が再開発された後、現在は(株)ケーズホールディングスが展開する家電量販店・ケーズデンキ福岡長浜店(24年8月末開業予定)へと再々開発されようとしている。

 福岡外に目を向けると、代表的なものとしてJR品川車両基地(東京都港区)跡地における再開発プロジェクト「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)」が挙げられる。同プロジェクトは東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)が主導し、開発区域面積約9.5haにおける、「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」(芝浦4丁目、三田3丁目)、「文化創造棟」(芝浦4丁目)、「THE LINKPILLAR 2」(港南2丁目)、「THE LINKPILLAR 1 NORTH/SOUTH」(港南2丁目、高輪2丁目)の4つの地区、5つの建築物で構成されるもの。再開発に先駆けて20年3月に、山手線30番目の駅として「高輪ゲートウェイ駅」が暫定開業(本開業は24年度中を予定)している。22年4月に公表されたまちづくりプランによれば、高輪ゲートウェイ駅周辺エリア(THE LINKPILLAR 1 NORTH/SOUTH)が25年3月に開業するほか、25年度中にほかのエリアの開業を予定。「53 Playable Park」というコンセプトの下、都内最大級の約4haのオープンスペースに南北約1km以上にわたって駅や広場からなる賑わいを生み出す多様な遊び場(Park)を誕生させるとしている。同プロジェクトでは、米マリオットの最高峰ブランドホテル「JWマリオット」が首都圏初開業を予定するほか、高層高級賃貸住宅やインキュベーション施設なども予定されており、新たなビジネス・文化が生まれ続ける街を目指していく計画だ。

 ほかに四国旅客鉄道(株)(JR四国)の予讃線・JR松山駅(愛媛県松山市)周辺では現在、駅付近の連続立体交差事業と併せて車両基地(伊予市へ移転)および貨物駅(松前町へ移転)の跡地を含めた大規模な土地区画整理事業などの再開発を進行しようとしている。ただし、駅自体の再開発については24年9月29日に高架化が完了して一区切りとなる予定だが、周辺再開発はまだ市民や有識者の意見などを聞きながら、基本計画の策定を目指している段階。今後の駅周辺再開発の完了時期は未定となっている。

 こうして鉄道施設跡地の再開発事例を見る限り、小規模な跡地では商業施設等の開発事例もあるものの、ある程度の規模の跡地では、新たなまちを誕生させるケースが多いようだ。

(つづく)

【坂田憲治】

(前)

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