2024年09月09日( 月 )

どうなる?小倉総合車両センター跡地(後)

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医療を核としたまちづくりで、高齢都市ならではのモデルケースを

 さて、以上のようなことを踏まえたうえで、ここ小倉総合車両センターの跡地にふさわしい機能とはいったい何だろうか──。なお、北九州市の都市計画マスタープランにおける小倉北区構想では、同地は北九州都市圏域の中核となる「小倉都心」に近くはあるものの、主な土地利用は「街なか」とされているのみで明確な土地利用の方針が打ち出されているわけではない。もちろん今回のJR九州の車両センター移転の発表を受けて、今後のマスタープランでは同地においても何かしらの土地利用方針が追記される可能性はあるが、現状では白紙に近しい。

 ふと思い浮かぶのが、17年末に惜しまれながら閉園したスペースワールドに代わる新たなアミューズメントパークを開発するという案だ。しかし残念ながら、この案については現実的だとはいえないだろう。というのも、敷地面積が約24haあったスペースワールドに対し、小倉総合車両センターの面積は約15.8haと手狭感は否めず、仮にアミューズメントパークをつくるにしても、スペースワールドよりも小規模になることは避けられない、何より目と鼻の先には動物園と遊園地が合わさった「到津の森公園」があり、この場所に新たなアミューズメントパークをつくる必然性が乏しいからだ。

 ほかに大型商業施設を開発する案や、公共施設などを移転・集積する案なども考えられるが、いずれも近隣の城内や室町、大手町などにすでにそれらの機能が集積されており、改めて車両センター跡地につくる必然性は乏しい。やはりJR九州が再開発を主導する立場であり、周辺エリアでマンション開発が旺盛なことを考えても、順当にいけばJR九州の分譲マンション「MJR」や有料老人ホーム「SJR」などが開発される可能性が高いだろう。

新小倉病院
新小倉病院

 そうしたなか、小倉総合車両センター周辺の不動産事業者からは、「すぐ近くにある新小倉病院の老朽化が進んでいるため、車両センター跡地に新設・移転させるのが良いのでは」との意見も聞かれた。

 1965年6月開院の新小倉病院は、これまで病棟などの増改築を繰り返して現在に至っているが、すでに開院から60年近くが経過しており、車両センター跡地に新設・移転させるという提案には一考の余地があるように思える。近隣には、新小倉病院のほかにも小倉第一病院(下到津)や大手町病院(大手町)、北九州市立医療センター(馬借)、北九州市総合保健福祉センター(馬借)などがあり、22年3月に現在地に新設・移転した大手町病院や、21年11月に現在地に新設・移転した小倉第一病院以外は相応の築年数が経過。それらを車両センター跡地に集約することで、医療施設を核としたまちづくりを行うという案だ。

 すぐ近くには都市高・下到津出入口があるため広域からの救急医療にも対応可能で、全国の政令市のなかでも高齢化の進行が著しい北九州市ならではの新たなまちづくりのモデルケースを示す、絶好の試金石となり得る。

 ただし、前述したように同地の現状の用途地域は工業地域で、建ぺい率は60%、容積率は200%となっており、今後の再開発に向けては用途地域の変更手続きなどが必要となってくるだろう。また、「車両センターはJR線路の向こう側で、直接的な往来がしにくい。陸橋や地下道などの何らかの通行手段がないと、金田の東側エリアや大手町まで再開発の効果が波及してこない」(前出不動産事業者)との意見もあり、再開発を進めるにしても、一筋縄ではいきそうにない。やはり順当にいけば、JR九州によるマンション開発が現実的なのだろうか…。

 とはいえ、小倉都心部において、これほどの規模の跡地が捻出されることは、この先そうそうないだろう。同地の再開発を起爆剤として、何らかのかたちで北九州全体の発展につながっていくことを期待したい。

小倉総合車両センターのすぐ横を日豊本線が通る
小倉総合車両センターのすぐ横を日豊本線が通る

(了)

【坂田憲治】

(中)

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