2024年09月06日( 金 )

日本の森林は貴重な戦略資源(前)

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福岡県森林組合連合会
会長  横田進太 氏

福岡県森林組合連合会 会長  横田進太 氏

 カーボンニュートラルやSDGsなどを背景に、我が国において林業の活性化や木材活用が前向きに議論され、実際にそれに即した法制度の整備や官民の動きが見られるようになってきた。では、それは具体的にどのようなものなのか。今回は、福岡県の状況のほか、全国の動向にも詳しい福岡県森林組合連合会の横田進太会長に、これまでの経緯や今後へ向けた提言について話を聞いた。

森林と木材活用の今

 ──日本の林業は、厳しい状況が続いていると聞いています。

 横田 終戦から現在に至るまで、森林が置かれる状況は大きく変化してきました。木材がエネルギー源として大量消費された戦時中、森林は荒廃しました。また、戦後も復興のために木材需要が拡大し、荒廃はさらに進みました。このため、国はスギやヒノキなどによる人工林による造林を全国一斉に行い、その結果、1960年代には木材は高い価値を生み、林産業は最盛期を迎えました。

 しかし、高度経済成長期においてさらに旺盛となった住宅需要を満たすため、64年に木材輸入が自由化されたことが転機となり、状況が一変。安い外国産の木材輸入量が急増し、日本はそれに依存する状況が続くこととなります。それにより日本の木材の活用が縮小し、森林では伐採が進まず放置される場所が見られるようになってしまいました。

 ほぼスギ・ヒノキで占められている福岡県の人工林は現在、その8割以上が樹齢40年以上となり、健全な森林環境を維持するために伐採、再造林をすることが求められています。

 近年はウッドショックの影響で国産材の価格も上昇し、伐採の動きも活発化していますが、それでも林業はかつてほどの収益を得られる事業にはなり得ていません。そうした収益性の問題に加え、林業従事者の減少で人手不足も深刻さを増しています。

 日本の林業は、機械による省力化もずいぶん進んだものの、急峻な山のなかで従事する必要があり、労働環境が良いとは言い難い状況です。

森林伐採のイメージ。森林の多面的な機能を保つため、伐採・植栽などのサイクルを繰り返す必要がある
森林伐採のイメージ。
森林の多面的な機能を保つため、
伐採・植栽などのサイクルを繰り返す必要がある

森林環境税に期待

 ──その一方、近年はSDGsやカーボンニュートラルといった社会情勢の変化を受け、林業再生や木材活用の促進の動きが活発化し、さまざまな取り組みも行われるようになり、状況に変化がみえてきたところです。その1つが今年度から導入が始まった国の「森林環境税」の制度ですが、これについてどのように感じておられますか。

 横田 まず、森林は地球温暖化の防止や水源のかん養(蓄えること)、それによる土壌保全や土砂災害の防止、生物多様性の保全、そして森林に入ることで人々を心地良くするなどといった多面的な機能があります。ただ、森林のこうした機能を十分に発揮させるためには、伐採、植栽、下刈り、間伐という循環を繰り返し、健全な状態を保つことが求められます。私たち森林組合は山林所有者に代わり、そうした事業を担ってきましたが、先ほど述べたように大変厳しい環境下にあります。

豊かな森林の様子。森林の重要な機能の1つに水源の涵養がある
豊かな森林の様子。
森林の重要な機能の1つに水源の涵養がある

    国の森林環境税は森林整備や保全活動を目的に、今年度から納税義務者1人あたり年間1,000円課税され、「森林環境譲与税」として総額600億円のほとんどが全国の市町村に交付されるとされています。14年度から同様に徴収されていた「復興特別税」に代わるものでもあります。まだ、税金の使途は森林整備およびその促進に関する費用に充てるといった大枠しか決まっていないようですが、地域の実情に合わせて使われているものと見られます。いずれにせよ、森林環境税をはじめとして、林業や木材活用について、かつてないほどの機運が高まっていると認識しています。

 ──具体的には、どのようなことを指すのでしょうか。

 横田 10年施行の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」、そして21年施行の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市<まち>の木造化推進法)」などを行った国はもちろん、近年は自治体や民間事業者が徐々に建築物の木造・木質化に積極的な姿勢を見せるようになり、私たち林業関係者は心強く感じています。

 自治体のなかでは、たとえば福岡市の高島宗一郎市長はカーボンニュートラルへの関心が高く、今後の林業と木材活用の在り方について自ら話を聞きたいということで、私が会ってお話しさせていただいたほどで、その成果は東区の照葉公民館や早良区の内野公民館が木造・木質建築物で施工されるなどのかたちで表れています。

地元産材がふんだんに使われた八女市の新市役所
地元産材がふんだんに使われた八女市の新市役所

    もちろん、このような公共建築物の木造・木質化の動きはほかの自治体でも広がっており、うきは市では3階建ての市営住宅を木造で建築したほか、「うきは市立体育館(うきはアリーナ)」はアリーナとプールの屋根架構に地域材の「耳納杉」が約2,300本使用されました。八女市では今年4月に竣工した新庁舎(RC造・地上5階建)において、正面入り口の庇の天井、相談窓口のテーブルや床、議場の壁などには、地元産のスギが大量に使われるなど、木質化されています。福岡県の自治体のなかで建築物の木造・木質化に対してまだ温度差があるのはたしかですが、いずれにせよ少しずつこの分野の理解が広がっている印象をもっています。

(つづく)

【田中直輝】


<INFORMATION>
会 長:横田進太
所在地:福岡市中央区天神3-10-25
    フォレストドルフ天神3階
設 立:1941年6月
出資金:1億1,526万1,000円
TEL:092-712-2171
URL:http://www.fukuoka-moriren.org/


<プロフィール>
横田進太
(よこた・しんた)
1944年生。国士館大卒。79年5月から福岡市議会議員。83年5月から福岡県議会議員。95年5月から96年5月まで県議会議長を務める。2012年5月から福岡県森林組合連合会の7代目会長に就任。15年3月に旭日小綬章受章

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