2024年09月09日( 月 )

ポジティブシニア世代の“大人リノベ”(中)

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 今のシニア世代の特徴は、「多くの人が持ち家を有し、住宅ローンが完済済みまたは完済のメドが立っている」「子育てからも解放され、その後の自分たちの暮らしをもっと楽しみたいと考えている」「バブル時代も経験し、良質なものにお金を使うことができる」「コミュニケーションの発達とともに、さまざまな媒体から情報を取り入れてきた」──などだろうか。
 シニア世代のリフォーム/リノベーションというと、これまでは「手すりをつける」「段差をなくす」といったバリアフリーの部分だけが注目されてきた。しかし、今の60~70代はまだまだ若く、元気だ。会社を定年退職する、子どもが独立するなど、ライフスタイルが変化する時期でもあるが、若い頃とは違う10~20年後を見据えてリノベーションする人は増えていくだろう。
 住宅に使える資金の余裕ができるため、家のリノベーションを真剣に検討し始めるのもこの世代の特徴だろう。今の時代のシニア層は、これからの人生をどのように暮らしていきたいのか、もっと豊かに暮らしていくためどんな空間に住みたいと考えるのか、そんな片鱗に触れてみたい。

2つの課題が…

家の外での暮らしも重要 pixabay
家の外での暮らしも重要 pixabay

    ポジティブシニア世代が“大人リノベ”を完成させたとしても、家のなかだけで健康的で豊かな暮らしが完結するわけではない。玄関を出て一歩外へ足を踏み出したとき、近所に行きつけの場所、拠り所となるコミュニティが存在するか、心情を理解し合える付き合いがあるか…など、家の外での活動も重要だ。

 積極的に住むエリアの快適性や存続性に混ざって生活していく。エリア全体の活性化を図る一助に、この世代も有力な戦力になる。詳しくは「エリアリノベーション(vol.51「遅い開発」と中古市場の親和性【後編】/2022年8月末発刊号)」を参照されたい。

 帰属する集団の有無は、個人にとっての「生きる力」、さらには「幸福感」にも大きく影響する。バリバリと仕事をこなす現役世代は「暮らしの場」との関係が希薄でも、「仕事の場」という拠り所がある。そして退職した後も元気でいられる限りは、これまでに関係を育んできた仲間とのつながりを継続させることができる。だから現役のうちは「暮らしの場」での「孤立」は問題とならず、かえって「プライバシー」のほうが重視される。「孤立」していることは、「自由意志で選択しているメリット」のようにすら意識される。

地域コミュニティはなぜ必要なのか

 現代の日本社会は、地域社会における隣人との関係を「煩わしい」と捉えて、積極的に関わろうとしない風潮にある。そうした傾向には、「便利になると人間関係が省かれる」という時代の必然的な流れも作用しているだろう。現代は、近隣との関係を「煩わしい」と思うなら、避けて通ることができるほど生活が便利になったのだ。たとえば調理方法の進化。調理に手間がかからなくなり、外食産業も発達した現代では、集まって食事をとる必要がなくなった。調理に手間がかかっていた時代には、1人分の食事をつくるなどあり得なかったが、今では誰もが他人に気兼ねすることなく、個人個人が想いのままに好きなものを食べられる。このようにして、「便利になると人間関係は省かれる」ということが起こる。

地域コミュニティは楽しみながら保持する pixabay
地域コミュニティは楽しみながら保持する pixabay

 その一方で、地域コミュニティが弱体化しているのは問題だと多くの人が指摘することになるが、それは社会構造に起因していることを踏まえなくてはならない。多くの人が「便利さは捨てられない」と思うのは当然である以上、こうした構造のなかで、地域における人との関係をどのように構築すべきかを考えなければならない。課題の1つ目は「コミュニティの形成」にある。

 介護が必要になったとき、求められる暮らしのコンセプトは「依存型共生」。身体的には人に依存する状況であっても、人との関わりのなかで相互作用をおよぼし合う能力は、死ぬまで持ち続けられることが重要だ。家を中心として、内外でその共生スタイルをつくり、地域コミュニティのなかでそれを育む、もちろんそれを楽しみながら保持していくことが、大切なことになる。

【提案2】照明計画もポジティブリノベ

照明計画もポジティブリノベ 提案②

⑮玄関は人感センサー付きダウンライト。荷物をもって手がふさがっていても、スイッチフリーで動作が完結する。

⑯この家を象徴するライトをドーンと吊るそう!大きめのシーリングライト、少し高価で上品な自慢のライトなど、“大人リノベ”を楽しむ照明選び。

⑰間接照明は夜間目に優しく、気持ちもリラックスできる。調光機能付きでグッと光量を下げれば、ほとんど瞑想空間へ。内省する時間を獲るのも大人の嗜み。音楽を聴きながら…、お酒を飲みながら…、思い思いに過ごす。

⑱ダイニングテーブルの天板上500mm程度までペンダントライトを下げる。低い位置に光源があることでリラックスできる効果が…。色温度は2,700K(ケルビン)程度の暖色で料理を美味しく魅せたい。表情も朗らかに映し出す。

⑲写真を照らすスポットライトは、少し白めの3,500K(ケルビン)。もしくはハロゲンライトで演色性を高めたピンスポを選んでも、空間が引き締まる。

⑳WICは滞在期間が短いので、玄関と同様に人感センサーでスイッチフリー。ここは機能性を考えて、明るさ重視の光源でも良さそう。

㉑デスクのうえは、読書、勉強、パソコン、趣味の作業など、明るく照らしたい。自然光に近いデスクライトで目にも優しい配慮を。

㉒夜の足元灯…夜間トイレに起きることを想定して、足元に小さな明かりを。人感センサー付きにしておけば、スイッチを探して歩くこともない。

㉓洗面室は、顔元を照らす明るめの白色ライト。色温度は5,000K(ケルビン)がベスト。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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