2024年09月17日( 火 )

株主総会風雲録(4)永谷園HDの変 MBOで上場廃止にしたわけ(前)

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 「三十六計逃げるに如かず」ということわざがある。形勢不利になったときは、あれこれ思案するよりも、逃げてしまうのがいちばんよい。転じて、めんどうなことが起こったときには、逃げるのが得策であるという意味だ。株式市場では、「逃げろや逃げろ」がトレンドになっている。

アクティビストの攻勢をかわす狙いで
上場廃止がブーム

証券取引所 イメージ    株式市場では有名企業の上場廃止がブームだ。非上場化の費用を創業家も拠出するマネジメントバイアウト(MBO)という手法が一般的。今年に入ってからも、給食大手のシダックス、通信教育大手のベネッセホールディングス、医薬品大手の大正製薬ホールディングス、アウトドア用品大手のスノーピークが上場廃止になった。

 有名企業の上場廃止が流行の様相を見せているのには、それなりの理由がある。東京証券取引所が、「PBR(株価純資産倍率)1倍割れの解消」など上場企業に体質改善を要請したことが大きい。東証のお墨付きを得たアクティビスト(物言う株主)は、社長交代や事業売却を迫るケースが増えてきた。

 それに危機感を抱いたのが同族企業だ。株主主権を掲げるアクティビストは同族継承に「NO」。アクティビストの攻勢をかわすために上場廃止を選択した。

永谷園HDは三菱商事グループと組んでMBO

 「お茶づけ海苔」でお馴染みの永谷園ホールディングス(HD、東証プライム市場)は6月3日、MBO(経営陣が参加する買収)を実施すると発表した。三菱商事系の投資ファンドである丸の内キャピタルと組み、TOB(株式公開買い付け)を行う。

 公開買い付けの価格は1株3,100円で、6月3日の終値(2,240円)から860円のプレミアム(上乗せ幅)をつけた。全株ベースでの株式価値は約593億円になる。

 まず丸の内キャピタルが運営する投資会社の特別目的会社(SPC)が公開買い付けを実施。TOB完了後にSPCに対し永谷園HDの創業家が出資。最終的には丸の内キャピタル系が55.5%、創業家が34.5%、三菱商事が10%出資するかたちとなる。

 7月17日、MBOが成立。9月10日に開いた臨時株主総会で、株式非公開に向けた株式併合の議案を可決。9月27日に上場廃止になる。

 上場廃止後も、永谷栄一郎会長、永谷泰次郎社長ら創業家が経営に当たる。同族経営を堅持するのが、MBOの目的である。

「お茶づけ海苔」がヒット商品になる

 永谷園のルーツは、江戸時代にお茶の製法を発明し、煎茶の創始者として京都にて“茶宗明神”として祀られている永谷宗七郎(後の宗円)まで遡る(以下、敬称略)。

 その子孫の1人である永谷嘉男は、東京府東京市出身。東京市立京橋商業学校卒業後、太平洋戦争に従軍。復員後、戦争で焼失した実家のお茶屋の再建を目指す。「おいしいお茶づけを、家庭で手軽に楽しめたら」という思いから、1952年に「お茶づけ海苔」を発売した。前身であるお茶屋で数多くのアイデア商品を生み出してきた嘉男の父・武蔵との共同作業によって生み出された。

 53年4月、(株)永谷園総本舗(現・(株)永谷園ホールディングス)を設立。76年東証二部に上場、83年東証一部に昇格、現東証プライム)した。

 「お茶づけ海苔」は、抹茶・塩・砂糖などの調味料およびあられ、海苔だけでつくられている。発売当初は「江戸風味お茶づけ海苔」。56年、商標登録にともない「永谷園のお茶づけ海苔」に変更した。

 「お茶づけ海苔」の、漢字やひら仮名のバランスにもこだわったパッケージで、デザインはお茶づけから連想した“江戸の情緒”をイメージし、歌舞伎の定式幕になぞらえた「黄・赤・黒・緑」の縞模様となっている。「お茶づけ海苔」のおかげで60周年を迎えたことを記念し、2012年に、始祖、永谷宗七郎の偉業をたたえ、命日の5月17日を「お茶漬けの日」に制定した。

大相撲の懸賞金の最大のスポンサー

 永谷園は大相撲の懸賞金の最大のスポンサーである。ひいき力士の取り組みに「味ひとすじ永谷園」の懸賞をかけていることは、相撲ファンならずとも広く知られている。

 懸賞金は1本7万円(税込)。うち1万円は日本相撲協会の事務経費(取り組み表への掲載費、会場内の懸賞提供アナウンス費およびその際の企業・団体名含め15字以内のキャッチコピー費)、3万円は納税充当金として協会が預かり、年末調整で納税額の不足が生じた場合に使われる。勝利力士は勝ち名乗りに際し懸賞1本あたりで現金3万円を受け取る。

 企業は1日1本以上、1場所15本以上で申し込みし、1つの取り組みに5本まで懸けられる。

 永谷園は00年の夏場所から大相撲の懸賞金を出しており、一場所あたり約200本をかける大口スポンサーである。200本の懸賞金だと、一場所1,400万円、年間で8,400万円になる計算だ。このほか、呼び出しが身に付けている着物の社名広告も提供している。

 大相撲は“江戸の華”だ。懸賞金は、江戸時代にすばらしい取り組みがあったとき、見物客がおひねりを花道に投げたのが始まりとされる。永谷園は大相撲の懸賞金の代名詞となっている。

(つづく)

【森村和男】

(3)ダイドーリミテッド

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