原発と玄海町(前)責任の所在
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広嗣まさし
佐賀県玄海町が原発設置候補地として国に選定されたのは1965年。翌年には町議会で受け入れが決まり、それがそのまま佐賀県議会でも承認された。結果、68年には九電が建設責任者となり、各種の調査を経て国が正式にこれを認可し、翌69年に工事が始まった。完成したのは1974年。翌75年に1号機の稼働が始まっている。今から半世紀前のことだ。
当初は1号機のみの稼働だった。やがて需要が高まり、2号機、3号機、4号機と出来あがり、この全部が稼働して膨大な電力が供給されることになった。
しかし、2011年の福島原発事故で、一時は全機が運転を停止する。その後、18年になって3号機と4号機のみ稼働が再開し、1号機と2号機は老朽化で運転終了となった。
玄海町が原発設置を受け入れたのは、近くに活断層が見つからず、建設しても事故の可能性がないという保証を国から得たからである。この保証が正しい根拠に基づいていたかどうかはさておき、長いあいだ農漁民として細々とした暮らしを営んできた人々にとって、原発は希望の光であったに違いない。雇用が増え、経済が活性化されることが約束されたのだ。
1974年には原発建設地には国から交付金が与えられることになったが、玄海町はそれ以前に受け入れを決定していたから、交付金目当てではなかった。しかし、国からの交付金が町民の暮らしを楽にしたことは否定できない。隣接する唐津市との合併を拒むのも、「原発マネー」を唐津市に共有されたくないからだろう。
では、唐津市は安全かというと、町の中心部が原発から僅か14kmしか離れていないのだから、事が起これば無事ではいられない。唐津市民にも多少の交付金は出ているが、そのことの意味を市民がどう捉えているか?
交付金を受けるということは、被曝を覚悟するということである。このことを原発周辺地域の住民はどの程度自覚しているのか。事が起こってから、電力会社のせいにしたり、県や国のせいにしたりすることはできない。
つまり、私たち国民1人ひとり、自身を守るのに「国」には頼れないということだ。「国家は親、国民は子」という時代ではないのである。しかし、そうなると、江戸時代のように連邦国家を形成したほうが良くないか? 日本政府にその準備はなさそうだし、また日本人に、そのような「自治意識」がもてそうもない。「地方自治」は空言である。
福島原発事故を生き延びたある人の言葉にこういうものがあった。「福島の住民は交付金をもらって喜ぶばかりで、事故が起こるなどとは思わず、国や電力会社のいうなりになっていました」と。日本全国の原発付近に住むほとんどの人が、そういう意識状態にあるのだと思う。
また、その人はこうも言っていた。原発事故のときに住民が国を恨んだ理由の1つは、「事が起こったときに身を守れるかどうかは自己責任です」と言われたことだというのだ。事故が起きたうえで、「あなたの生命はあなた自身の責任です」と言われてしまうとは、あまりにも「無責任」だと感じたのだ。
国と電力会社が生死に関わる大装置を建設する以上、放射能の生態への影響、住民の内部被曝、低線量の被曝でも起こるリスクなど、事前説明を十分すべきだろう。それをせずに、「事が起こったら自己責任」とは調子がよすぎるではないか。チェルノブイリや福島を見るまでもなく、原発事故は故郷喪失、甲状腺癌などを生む。そこまでの責任を国や電力会社が負わないとなれば、原発付近の住民はそれなりの準備をしておかねばならない。
国の論理からすれば、交付金を受け取って生活する以上、それに見合ったリスクがともなうのは当たり前ということになるかもしれない。しかし、そのリスクを避けるのに「移住」しかないのなら、移住者にはそれ相応の手当と職業の提供が必要だろう。人間、生まれ育ったところを簡単に捨てられるものではない。移住するとしても、新天地で仕事がすぐに見つかるわけでもない。
この問題に関しては、55年に制定された原子力基本法が重要となる。この法律は日本学術会議の勧告を受けて、「民主・自主・公開」の3原則を謳っているが、この3原則が国と企業を拘束し、原発に関しては「民主的」な議論を経て決定し、原発に関する情報はいかなるものでも「公開」する義務をもつと定めているのである。国民はこれに応じた権利と義務を行使しなくてはならない。
それにしても、原子力基本法にかぎってどうして「民主・自主・公開」の3原則を打ち出しているのか? それが守られない可能性が多々あるからだろう。玄海町民であろうと、唐津市民であろうと、国や電力会社に原発に関する一切の情報を「公開」してもらう権利があるし、自治体の議決の仕方に問題があれば、これを追及する義務がある。国や電力会社が上記の原則を守っていないとすれば、それは明らかな違法行為となる。
(つづく)
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