2024年09月27日( 金 )

原発と玄海町(中)反原発運動

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広嗣 まさし

玄海エネルギーパーク イメージ    玄海町の原発問題を考えるとき、「玄海町に反原発運動をする団体があるのか?」という疑問が浮かぶ。これについては、実質上「ない」と答えるほかない。これまでに反対運動に参加した住民はいたが、今は沈黙し、町議会の決定を無言で受け入れているかに見える。

 例外は東光寺住職の仲秋喜道氏で、玄海町が原発設置の候補地となった時から反対運動を展開し、95歳の現在も反原発の発言を続けている。氏の書いた『玄海原発に異議あり』を読むと、原発と直に向き合ってきた人の真摯な声が聞こえてくるだけでなく、優れた思考力、均整のとれた知識、稀なる高貴な人間性が感じられる。多くの人が手にとってみるべき一書である。

 氏にとって玄海町は「美しいふるさと」である。そこに「不気味な白い海坊主」のように原発が出現した。その原発の「安全神話」を突き崩す多くの事故を氏は実際に見ている。メディアで話題にならなくても、見逃せない事故はいくつも起こっているのだ。

 氏は、原発が玄海町に設置される際に九電がばら撒いた「裏金」についても余すところなく暴いている。それによって町議会と行政組織が汚染し、恨みや中傷による人間関係の歪みが生じたことなど、つぶさに書き留めている。原発問題とは何なのか?現地に住まなくてはわからない諸事情が明るみに出る。

 氏は現実を避けて「悟り」を求める仏教者ではない。原発とそれに関わる議会と行政とに敢然と立ち上がり、その姿勢を崩さないでいる。時にはそういう自分を「阿修羅」になぞらえ、「不動明王」になぞらえもするが、自身を鼓舞するためであって、何らの悲壮感も自己陶酔もない。ただ現実を見据え、「ダメなものはダメ」という姿勢を貫いているだけだ。

 氏によれば、玄海町が原発設置に適したところと判断されたのは、この地域が「貧困」と「過疎化」に悩み、政治的に「後進」だからである。「政治的後進性」とは住民の意識が低いということで、「おかみ」にとって極めて扱いやすいのだ。

 氏のいう「政治的後進性」は、玄海町の行政が九電の「札束攻勢」に翻弄されて現在に至っているところに端的に現れている。上記の「汚職」も人間関係のこじれも、その表れなのだ。

 さて、氏の反対運動は教職員仲間との共闘として始まった。後に、農漁民をメンバーに加えて運動の幅は広がりもした。しかし、結局は九電の「札束攻勢」には勝てなかった。人間は目先の利益に弱いのだ。

 ところで、氏は玄海町に原発が建設される話を聞いたとき、すぐに反旗を翻そうと思ったという。当時は日本国内に1つとして営業運転をしている原発がなかったから、誰もどういうものかわからなかったのに、氏はなぜか「きな臭さ」を感じたというのだ。

 当時はベトナム戦争の真っただ中で、沖縄の基地からは米軍の爆撃機が毎日飛び立ち、佐世保には原子力潜水艦が寄港していた。そんなときに原発の話が出てきたのだから、いくら「平和利用」だからと言われても、軍事とどこかでつながっていると直感したのである。

 こうした直感は、世界情勢を読む力がなければ抱けないものだ。氏が中学校教員であったことが影響していると見ることができるが、私には氏が仏教者であることのほうが大きいと思っている。原発を前に、「和尚としての生き方が問われている」と感じたと本人は言っている。

 さて、氏の思いとは裏腹に、玄海町議会は原発の設置を受け入れ、九電の指揮のもとに着実に建設を進めた。当時の町長が思ったのは、「これで町の財政が一気に豊かになる」ということだけだったという。スムーズに町議会での賛同を得、翌6月には佐賀県議会で可決。この「超スピード」は、県も町もせっかくの機会を逃すまいと必死だったことを物語っている。

 チェルノブイリや福島の事故を知らなかった時代のことだから、原発建設が歓迎されたとしても不思議ではない。当時は漫画『鉄腕アトム』が代表するように、原子力を賛美する時代でもあった。それだけに、仲秋氏の眼力に驚かされる。

 ところで、日本の原発政策がアメリカの東アジア戦略と絡んできたことは、アメリカが戦後日本における原子力研究を徹底的に禁じていたにもかかわらず、冷戦時代が始まると急変し、日本に原子力開発をするよう水を向けたことが端的に物語っている。表向きは「原子力の平和利用」であっても、実際には日本にもアメリカの核戦略の一翼を担ってもらおうという意図だったのだろう。そのような動向を、仲秋氏は玄海原発の設置計画に読みとっていた。このような歴史の読みこそ、現代の私たちが必要とするものなのである。

 ところで、仲秋氏は何がなんでも原発に反対というわけではない。「原発は、それを制御する技術がまだないと稼働させてはならない」というのが氏のスタンスなのである。

(つづく)

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