2024年09月27日( 金 )

豊肥本線熊本~肥後大津間の複線化の必要性(前)

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運輸評論家
堀内重人

 台湾の半導体メーカー・TSMCの進出にともない、最寄り駅の原水駅だけでなく、JR豊肥本線自体の利用者が急増している。熊本県は、JR豊肥本線について、熊本空港アクセス鉄道の計画もあることから、快速列車の運行や複線化などを含めた輸送力増強の対応を、今後はJR九州と協議していく考えを示した。熊本県の木村敬知事は9月11日、「豊肥本線の輸送力の強化は必要であり、前向きに進めて欲しい」と述べた。JR九州も熊本空港アクセス鉄道計画があることから、豊肥本線の輸送力増強が必要だと認識している。豊肥本線の熊本~肥後大津間の高速化も含めた複線化の必要性について述べていきたい。

民営化後、利用者増加が著しいJR豊肥本線

熊本駅 イメージ    JR九州によると、熊本-肥後大津駅間の1日の平均通過人数は、2023年度で1万2,889人だという。少子高齢化が進展しているにも関わらず、国鉄を民営化してJR九州が誕生した1987年度と比べ、約2.6倍と大幅に増加している。とくに朝の通勤時間帯の混雑率は、135%に達しており、首都圏の平均混雑率を上回っている。

 豊肥本線沿線には、TSMCを含む半導体関連企業の集積が進んでおり、周辺地域の道路交通渋滞が問題となっている。さらに27年には、TSMCの第二工場が完成して稼働するため、鉄道の改良などの対策を実施しないと、さらに道路交通渋滞が悪化すると熊本県は考えている。

 それを解決するには輸送力が大きく、定時運行が可能なJR豊肥本線の機能強化が道路交通渋滞を緩和させる有効策の1つと位置づけている。

 熊本県が、豊肥本線の輸送力増強が必要だと考える理由は、豊肥本線沿線に半導体工場の集積が進む以外に、熊本空港へのアクセス問題もある。熊本空港は、熊本市内から自動車で50分以上も要する空港であり、鉄道がないためアクセスに難がある。そのため豊肥本線の肥後大津駅から分岐して、熊本空港へのアクセス鉄道を整備する予定である。

 熊本空港へのアクセス鉄道が整備されると、豊肥本線はさらなる利用者の増加が見込まれる。そこで熊本県は、増便や車両を増結するなど、輸送力強化に向けてJR九州と水面下で協議を続けている。

熊本空港アクセス鉄道の概要

 熊本空港へのアクセス手段はバス・タクシーといった道路交通に依存しているため、朝・夕のラッシュ時の道路交通渋滞の影響を受け、「定時性」「速達性」「大量輸送性」の確保が課題である。そのような中、インバウンドが増加し、さらには空港コンセッション方式が導入されると、空港ビルには民間が参入することになる。その結果、航空機に搭乗する以外に、飲食店で食事をしたり、空港見学で訪問したりするなど、今後は利用者の大幅な増加が見込まれる。そこで熊本県は、鉄道による空港アクセスの改善を検討しており、1997年から断続的にアクセス改善のための調査を行っている。2005年から07年に掛けて、豊肥本線から分岐するかたちで鉄道整備の検討を実施した。

 05年にJRの延伸以外に、熊本市電の延伸や、IMTS(磁気誘導式電車)などのシステムを比較検討した。06年度に豊肥本線三里木駅からの空港への鉄道新線の事業費調査を行い、07年度に需要調査を行ったが、08年6月に「採算性で問題あり」として凍結となる。

 その後、航空機の乗降客数や着陸回数の増加、外国人旅行者の増加、空港周辺地域における人口増加、11年3月の九州新幹線全線開業、熊本県民総合運動公園の利用者増加があった。そして熊本地震からの創造的復興のため、「大空港構想 Next Stage」が掲げられ、空港へのアクセス改善が明記された。また空港運営に、「コンセッション方式」を導入して、タ―ミナルビル運営の民間委託、新ターミナルビルの建設が計画されている。それが完成すれば空港利用者が増加するため、18年度に改めて概略調査が行われた。

 空港アクセスの交通システムは、「豊肥本線の延伸」「熊本駅からのモノレール」「健軍町停留場からの市電延伸」が検討された。

 空港アクセスの改善や事業スキーム、財政負担などの観点も含め、総合的に検討。結果として、「豊肥本線の延伸」が、定時性、速達性、大量輸送性に優れ、事業費を相対的に低く抑えられ、採算性が見込めるため、最も効果的であり、早期に実現できる可能性が高いとされた。

 さらに鉄道延伸のルートは、「三里木駅」「原水駅」「肥後大津駅」の3ルートが検討されたが、21年11月に半導体受託製造(ファウンドリ)世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県内への進出が決定した。

(つづく)

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