2024年11月24日( 日 )

豊肥本線熊本~肥後大津間の複線化の必要性(後)

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運輸評論家
堀内重人

 台湾の半導体メーカー・TSMCの進出にともない、最寄り駅の原水駅だけでなく、JR豊肥本線自体の利用者が急増している。熊本県は、JR豊肥本線について、熊本空港アクセス鉄道の計画もあることから、快速列車の運行や複線化などを含めた輸送力増強の対応を、今後はJR九州と協議していく考えを示した。熊本県の木村敬知事は9月11日、「豊肥本線の輸送力の強化は必要であり、前向きに進めて欲しい」と述べた。JR九州も熊本空港アクセス鉄道計画があることから、豊肥本線の輸送力増強が必要だと認識している。豊肥本線の熊本~肥後大津間の高速化も含めた複線化の必要性について述べていきたい。

増便や増結だけでなく快速や複線化も

阿蘇くまもと空港 イメージ    熊本県は、増結や増発以外に速達性も重要だと考えている。肥後大津駅まで電化されているが、最高運転速度は時速95km程度であるから、決して速いとはいえない。今後、熊本空港へのアクセス鉄道が、肥後大津駅から分岐して、熊本空港まで整備されると、より速達性と利便性が要求されるようになる。

 熊本県は、豊肥本線を高速化するため、快速列車の運行や、将来的には複線化を考えており、今後、JR九州と協議を深めたいとしている。快速列車に関しては、熊本空港が開業すれば、利便性を向上させるため、熊本~熊本空港間を運転する必要がある。

 その一方で、豊肥本線の高速化などの輸送力増強に130億円程度が必要であるから、政府に対しても、地域産業構造転換インフラ整備推進交付金による補助を求めている。この交付金は、23年度に創設された交付金であり、半導体などの戦略分野に関する国家プロジェクトの生産拠点整備に際して、必要となる関連インフラの整備を支援することを目的としているが、道路、下水道、工業用水の整備しか対象になっていない。

 そこで熊本県は、道路交通渋滞の緩和や大気汚染の軽減など環境問題の視点も加味して、鉄道整備も加えて欲しいと要望している。

 熊本県知事は、道路交通渋滞を解消するためにも公共交通機関の充実は必要であると考えており、公共交通の重要性に関して理解が深いといえる。それゆえJR豊肥本線が、現在も首都圏並みに高い混雑率を維持している点を、問題視しているのである。

 熊本県知事は、車両を増結したり、列車を増発したりするなど、将来的には複線化も含め、より輸送力を強化することが、熊本の未来に必要だと考えている。それゆえJR九州には、前向きに進めてもらうことを望んでいる。

筆者が考える豊肥本線の熊本~肥後大津間

 筆者は、豊肥本線の熊本~肥後大津間が、少子高齢化にも関わらず、新たな半導体工場の進出などもあり、利用者数が伸びている結果を、重要視している。

 熊本~肥後大津間は、電化されているとはいえ、単線であるだけでなく、最高運転速度も時速95km止まりであり、列車交換設備が備わらない駅もあるなど、現在の熊本近郊区間の鉄道としては、設備面で脆弱であると言わざるを得ない。

 30年ごろに、肥後大津から熊本空港間6.8kmの空港アクセス鉄道が開業すれば、熊本~肥後大津間の輸送力不足が、より顕著になってしまう。熊本~熊本空港間で快速列車が30分間隔、普通電車が30分間隔で運転されることが予想されるため、現在の設備では対応が困難になってしまう。

 筆者は、熊本~肥後大津間を完全に複線化させるだけでなく、列車の追い越し設備や軌道強化を行い、最高運転速度を時速110~120kmまで向上させる必要性を痛感している。

 熊本~肥後大津間の豊肥本線と、肥後大津~熊本空港間のアクセス鉄道の最高速度を、時速110~120kmまで引き上げる必要性は、熊本空港へ向かう利用者への速達性の提供だけではない。現在も熊本~大分間に、1日に2往復の特急列車が運転されており、これの速達性が向上すれば、熊本~大分間で運転される路線バスに対する競争力が向上することも、大きな理由である。

 熊本~大分間で運転される特急列車は国鉄末期に導入された気動車で、性能面や居住性でも、陳腐化している面が否めない。熊本~肥後大津間が、複線化されると同時に、追い越し設備も整備され、最高運転速度も時速110~120kmに向上すれば、熊本~肥後大津間で約10分程度の所要時間の短縮が図れる。さらに最新の電気式気動車が導入されると、立野~阿蘇間などにある急勾配における登坂力の向上や、加減速性能の向上などで、熊本~大分間で20分程度の所要時間短縮が図れるようになる。

 熊本~大分間を結ぶ特急列車は、九州産交や大分バスなどの都市間バスとの競争で、劣勢に立たされており、以前は1日当たり3往復の特急列車が運転されていたが、現在は2往復にまで減便され、2両編成で運転する特急もある。やはり熊本~大分間の特急列車の活性化も、大きな課題である。

総括

 豊肥本線の熊本~肥後大津間の22.8kmでは、沿線の半導体関係工場の進出以外に、肥後大津駅から分岐して熊本空港を結ぶ、6.8kmの空港アクセス鉄道が計画されている。

 そうなると熊本~肥後大津間の22.8kmは、完全に複線化しないと、輸送力不足になるだけでなく、熊本~大分間を結ぶ特急列車の競争力強化にもつながらない。

 豊肥本線沿線に、半導体関係の工場が進出しているが、豊肥本線で貨物輸送が復活することはないといえる。豊肥本線の沿線に貨物駅がないことに加え、半導体は鉄道ではなく、トラックで輸送するのに適した貨物であるのが理由である。

 貨物輸送よりも、通勤客を自家用車から鉄道へモーダルシフトさせる方が重要であり、豊肥本線の熊本~肥後大津間の複線化は、喫緊を要する課題だといえる。

(了)

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