住宅の設計者とは?(前)知られざる施主と住まいへの愛(1)
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設計の楽しさだけにとらわれてしまうと、本当は住宅を設計するのが大切なのに、図面を描くという手段が目的になり始める。次第にやらなくていいことまで、そうするのが当たり前のような顔をしてやるようになっていく。“これは本当に住み手が望んでいることなのか…”―その設計が本当に「住むための設計」になっているかどうかは、常に自問自答していかなければならない。自分でも気づかないうちに、自己満足に陥っている恐れもある。
もしかすると住宅の設計はもっとおおらかで、「いいかげん」なものであっていいのかもしれない。「なぜだかわからないけど、ここにいると落ち着く…」──そんな心の動きに、建築家はもっと敏感になるべきだ。施主のことを思ってあれこれと苦心する設計者の愛情は、どこまで深いものなのか、建築家の“慈悲”について触れてみたい。まず施主を知る
住宅は人が人のためにつくるもので、その大前提を自覚する建築家は、とにもかくにも施主の隅々を知ろうとする。何が「人のため」になるのか、思いをめぐらせるためだ。質の高い住宅を設計する建築家は例外なく、観察力、洞察力、想像力に長けている。住まいと住み手を常に不可分の関係と捉えているからだ。「この家はお施主さんに〇〇と要望されたのですが、あえて要望通りにつくらないで違う角度から発想しました」「この施主は本音では違うことを考えていると思ったので、思い切って別の提案をしたら、後日やはりそれが正解だったとわかりました」。…優れた建築家は皆、優れた人間観察者でもある。
「住宅設計」とは、その家の住み手が「住むために」あるいは「暮らすために」どうあればよいかを考える行為だ。そこに絶対的な答えはないし、住み手の個性もさまざまだから、建築家が自身の生活やそれまでの設計経験と照らし合わせながら、一軒一軒考えていくしかない。大げさにいえば、建築とは何か、住宅とは何か、家族とはどうあるべきか。昔から議論されている住み手のプライバシー、アイデンティティー、コミュニティの問題などを、今の時代に合わせどうプランに落とし込むのか。そんな根本的な問題を考えながら、その人なりの答えを導いていくことが住宅を考えることだといえる(参考文献:『建築家は住まいの何を設計しているのか』_藤山和久)。
見えないところで仕事をする
昨日までニコニコしていた施主が、突然クレーマー化するような昨今、だからこそ人を見る大切さはますます増している。「住宅の設計」は、何はなくとも住み手をしっかり見て把握することから始まる。優れた建築家は、ときに眼光鋭く、施主の裏側、未来までも見据えて設計の視点を定めている。良いか悪いか、そのとき建築家の愛情に触れることになるのだが、施主がその愛情を知るのはずっと後になる。
完工後すぐに、もしくはしばらく暮らしてみた数カ月後に、数年後に…。もしくは一生その愛情を知らずに時が流れていくこともあるのかもしれない。設計されたかたちあるものが、そこで暮らすものの、行動や気持ちを変える。
住宅は単なるプロダクトに収まらず、成長する大きな洋服のようなもの。外側は他人に見てもらえる程度にはTPOに合わせた正装をしておきたいが、内側は自分の肌に合った着心地の良い生地や機能性を求めて、自身の気の向くまま自由自在に着飾って魅せる。行動に起因する感情が介入し、人の機微に触れるその空間は、暑さ寒さから命を守ってくれるシェルターであり、長い人生を紡いでいくタイムカプセルになる。
時代の流行や風潮に影響されず、その内部は社会のルールや人間関係、規律や規範の一切から解放されるユートピアだ。そんなねぐらを巣づくりしていく際に、建築家はどのような愛情をもって施主に接しているのか。人知れず線を書いては消しての試行錯誤を重ね、見えないところで昼夜仕事に勤しむ設計者の、見えざる提案(愛情)はどんなところに現れ、報われていくのか。使ってみて初めて感じるその愛情の所以たるものは何なのか、次のいくつかのキーワードからひも解いてみたい。
①寝室
②収納
③玄関
④子ども部屋
⑤目に見えないデザイン
⑥目に見える心地良さ
⑦家との長い付き合い方(つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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