2024年10月10日( 木 )

建築物の「ウッドチェンジ」へ、ロードマップ示す(前)

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(株)アキヤマインダストリー
代表取締役 秋山篤史 氏

(株)アキヤマインダストリー 代表取締役 秋山篤史 氏

 建築物の木造・木質化などによる木材活用の促進「ウッドチェンジ」は、SDGsやESG経営の浸透により徐々に社会的に認知されるようになってきた。その結果、商業ビルなど大規模な建築物などの建設事例も増えているが、それでも木造・木質化への抵抗感は根強く、大きな潮流にはなり得ていないのが実状である。ウッドチェンジをさらに本格化させるのには、どうすれば良いのか、「福岡県木材利用促進協議会」の事務局長などとして、幅広い関係者と連携し、この分野に詳しい(株)アキヤマインダストリー代表取締役・秋山篤史氏に話を聞いた。

公共から民間へ

 森林には地球温暖化防止の機能、土砂崩壊などを防止する国土保全の機能、水源のかん養、林産物の供給などの多面的な機能がある。しかし、木材利用が低迷していることなどから、林業の生産活動が停滞し、適切な森林の整備や保全がされず、森林の有する多面的な機能の低下が懸念されている。そこで国は2010年に、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行。まず自治体などが新規に建設する学校などの施設において、建築物に関するウッドチェンジの動きは始まった。また、木造建築物の事例が多く実現し、建築関連法令改正で木材利用の緩和も一段と進んだことを受け、21年に同法は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)へと改正され、対象は公共建築物から建築物一般へと拡大された。

 秋山氏はこうした流れのなかで、「篠栗町立篠栗中学校・篠栗北中学校 教室内装木質化」(13~16年)、「久山町立けやきの森幼稚園」(18年開園)などの木造・木質化プロジェクトなどに携わってきた。ちなみに、前者は鉄筋コンクリート造の校舎の内装の一部を木質化、後者は平屋建の大型園舎(延2,000m2)を純木造で建設したものであるが、それぞれの地元で育ったスギ・ヒノキの丸太から地元で生産・加工した木材を、地元へ直接還す供給体制を組み立てた。当時は福岡県内に例がないこれらのプロジェクトへの関わりを通じて、秋山氏は福岡市や福岡県などの自治体関係者、そして業界の川上(林業)から川中(木材産業)、川下(設計事務所や建設会社など)の各階層との交流を深めてきた。

福岡市のガイドライン

 とくに、福岡市農林水産局の森林・林政課(現・森づくり推進課)が20年に策定した「福岡市公共建築物等木材利用ガイドライン」に携わるなど、福岡市との関係は深い。ガイドラインは、木材利用をしっかりと定着させることを主眼にしているのが特徴で、技術的側面にとどまらず、取り組む意義、原木を生産する川上や、木材を供給する川中の状況などといった木造・木質化の全体像、基本的な事項も含めた幅広い情報を網羅し、かつ簡潔にまとめたものだ。木造・木質建築物の設計業務に携わる人にとって教科書のようなものでもあり、市のホームページでも公開されている。

「福岡市公共建築物等木材利用ガイドライン」の表紙
「福岡市公共建築物等木材利用ガイドライン」
の表紙

    秋山氏は、福岡県木材利用促進協議会(平川辰男会長)の立ち上げにも尽力し、現在、その事務局長を務めている。協議会は福岡県森林組合連合会、(一社)福岡県木材組合連合会、(公社)福岡県建築士会、福岡中小建設業協同組合、FUKUOKAうきうきwood有限責任事業組合からなる団体だ。

 さらに、一般社団法人九州経済連合会(九経連)の林業専門部会「モクビル研究会」でも中心的な役割として参加し、九州各県の木材利用に関わる各層の関係者、自治体や学術経験者らとも交流。木造・木質化の動きを九州、さらには日本全体で取り組むべく動きを進めている。同会の前身は九経連が主催した木造ビル構造標準モデル事業(19年10月~20年1月、成果発表会20年7月)である。「都市木造」という言葉を定着させたNPO法人teamTimberize(チーム・ティンバライズ)の監修の下、九州各県・九経連会員企業の6つの建築士グループが九州産の木材、製材技術を組み込んだ木造ビルモデル作成に取り組んだ。

 木造3階建オフィスビルのモデル「モク三(さん)ビル」は、前述の事業で発表したモデルの1つだ。それを実現させるために、商業用途に求められる無柱空間を省施工で可能にするための「九州型中規模向け実用木質トラスユニット(※)」の実用化に取り組み、それを取り入れた建物もすでに竣工させている。このように、ウッドチェンジ推進のためのさまざまな取り組みをしてきた秋山氏は、その現状についてどのように見ているのだろうか。

※大分大学理工学部木質構造研究室(田中圭准教授)、大分県農林水産研究指導センターの共同研究チームによって開発された。通称は「大分トラス」

地元の力で建設できる中規模木造モデル「モク三ビル」の外観イメージ
地元の力で建設できる中規模木造モデル「モク三ビル」の外観イメージ 

非住宅木造普及への課題

 秋山氏は、「大規模な木造建築物における設計施工のノウハウはすでに多くの蓄積があります。それに加え、木材利用を阻む建築関連の法令などの障害がようやくなくなってきたのが現状で、その結果、もともと住宅向けに限られていた木材の活用用途が、鉄骨造やRC造が主だった非住宅分野におよぶようになってきました」と一定の評価をしている。そのうえで、「ウッドチェンジはまだ大きな潮流になり得ていないのが実状」と話す。

 たとえば、近年になって中層(4階建以上)の木造・木質化商業ビルが全国の主要都市で建設されるようになり、それは福岡市でも同様だが、その多くはCLT(Cross Laminated Timber)をはじめとする、特殊な工法により建てられているもので、建設に関わることができる事業者は非常に限定される。

 「地域の建設事業者が建設できるようにするためには、地元で生産・加工される一般流通製材を中心的に使わなければ普及は進みません」と秋山氏は指摘する。

 全国チェーンのコンビニエンスストアやハンバーガーショップなどが、ロードサイドの低層店舗を木造で建設する事例が見られるようになった。それはそれで建築物のウッドチェンジ、木造非住宅の普及に寄与するものではあるが、このようなケースではそれぞれに各社独自の仕様が決められており、地場産出の木材活用や、地場の建設事業者の参入ができないのがほとんどだ。つまり、受益者が限定されるため、利益が地元に還元されづらいわけである。

 「非住宅の建築物はこれまで、低層も含め鉄骨造やRC造で建設するのが当たり前で、木造・木質化は端から頭に入っていない状況でした。そんな社会の有り様を変える必要があります」と、秋山氏は強調した。そこで今、秋山氏を含む木造・木質化建築物の普及を目指す関係者が注力しているのが、ある程度本格普及するまでのロードマップを具体的に示すことである。

(つづく)

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:秋山篤史
所在地:福岡市南区太平寺2-16-22
設 立:2005年4月
資本金:200万円
TEL:092-566-8511


<プロフィール>
1971年生。一級建築士。福岡大学附属大濠高等学校、長崎総合科学大学工学部建築学科を経て、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学大学院芸術工学府)修了。長崎県内の設計事務所に勤務後、父親が経営していた建設業と合同して(株)アキヤマインダストリーを設立、その後、建築士としての業務に復帰した。福岡県木材利用促進協議会の理事・事務局長を務める。

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