2024年10月11日( 金 )

建築物の「ウッドチェンジ」へ、ロードマップ示す(後)

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(株)アキヤマインダストリー
代表取締役 秋山篤史 氏

(株)アキヤマインダストリー 代表取締役 秋山篤史 氏

 建築物の木造・木質化などによる木材活用の促進「ウッドチェンジ」は、SDGsやESG経営の浸透により徐々に社会的に認知されるようになってきた。その結果、商業ビルなど大規模な建築物などの建設事例も増えているが、それでも木造・木質化への抵抗感は根強く、大きな潮流にはなり得ていないのが実状である。ウッドチェンジをさらに本格化させるのには、どうすれば良いのか、「福岡県木材利用促進協議会」の事務局長などとして、幅広い関係者と連携し、この分野に詳しい(株)アキヤマインダストリー代表取締役・秋山篤史氏に話を聞いた。

新たな経済観念も反映

木造建築と林業・木材産業との関わり方を知るための活動も。写真は篠栗町学校木質化にあたって実施したバスツアーの様子
木造建築と林業・木材産業との
関わり方を知るための活動も。
写真は篠栗町学校木質化にあたって
実施したバスツアーの様子 

    具体的には、福岡県内で年間1,000棟、九州7県で同3,400棟、木造に転換可能な鉄骨造の産業用建築物が建てられている現状において、2030年に「そのうちの3割を木造・木質化する」という目標を打ち出し、そのためにサプライチェーン構築へどのような条件があり、どうやって条件をクリアすれば良いのかなど、川上・川中・川下の取り組みをすべき姿を明示する。そのなかには近年、日本においてもESG経営の一環となる森林経営や木材活用を対象とした金融商品の組成といった、資金面の手立ても含まれる。

 秋山氏は、「九州の企業家は、建物1つの経済合理性に囚われがちです。国内ではコンクリートや鋼材が入手しやすい反面、ビル用木材の複雑な調達に、当初期待した木の魅力は感心を失っていきます。一方で欧州では、E(環境配慮)・S(社会貢献)・G(企業の透明性・健全性)の観点から単一の不動産事業ではなく、企業が営むすべて事業を包括して評価し、優良な企業へ優先して投融資する流れが加速しています。木造ビル建設や木材利用に積極的なのは、脱炭素社会の実現、森林資源の健全化、循環経済への貢献、オフィス環境の改善など、ESG評価に幅広く寄与するためであり、資金調達の優劣に直結するからです。国内大手の商社やゼネコンは、最近の世界の動きに敏感になっています」と述べた。

 そのうえで、「日本の森林価値は年間70兆円ありますが、現状では1兆円程度しか活用できていないと言われています。商社などに話を聞くと、彼らは欧米での木材の取引の経験から、日本の木材活用に大きな可能があると見て、森林ファンド、森林信託、木造ビルの不動産投資信託などのオルタナティブ投資()に非常に前向きになっています。これは銀行融資を中心とした従来型の調達手法と一線を画す新たな資金調達が可能になるわけで、今後、林業や木材活用がより容易になることを示しています」と話していた。

 これまでは“木造・木質化建築物は良いものだろうが、それが自分たちにどんなメリットがあるのか”などといった漠然とした不安や疑問があり、参入を躊躇する事業者がとくに川下の設計士や建設会社などに多かった。ガイドラインやロードマップを示すことで、戸惑いを払拭しようと試みているわけである。また、これまでは仮に金融に関する情報があるにせよ、それは大手に限られたものであったが、秋山氏らの取り組みはそれを地域の事業者に落とし込むものであることが、何よりの特徴といえるだろう。

※オルタナティブ(alternative)の直訳は「代替」で、上場株や債券といった伝統的な資産に代わる投資を指す。具体的な投資対象は、農産物や森林資源、鉱物、不動産等の商品、未公開株や金融技術が駆使された先物、オプション、スワップ等の取引が挙げられる。 ^

Seedsから実現へ

森林・林業・林産業活性化促進議員連盟福岡県連絡会 平成26年度総会・林政セミナーの様子。川上・川中・川下の3者連携の必要性を説いた
森林・林業・林産業活性化促進
議員連盟福岡県連絡会
平成26年度総会・林政セミナーの様子。
川上・川中・川下の3者連携の必要性を説いた 

    「私たちは川上・川中・川下の取り組み、いわゆる3者連携を通じてSeeds(シーズ、今できること)を大切にしてきました。ニーズ(要望)と対極の考え方で、地域が今できることに合った取り組みを重視し、その1つがモク三ビルの研究でした。それもいよいよ実物件が建設される段階にまで漕ぎ着けましたし、もちろん全国的には木造・木質化されたビルや大規模建築物の建設事例は珍しいものではなくなってきました。1つひとつの技術要素は確立されていますから、この事業への参入に躊躇する方々や、木造に不安を感じられている事業主に対して、“実際に建てられるのですよ”と明言できる段階にきており、身の丈にとどまっていた行動を少し背伸びできるくらいの上の段階に進めようとしているのが、現状のイメージです」(秋山氏)。

 ウッドチェンジの動きが始まって、間もなく15年になる。秋山氏のこうした話は、これまで技術論などが重視されてきた状況から、いよいよそれを本格化させるプロセスに入ってきたことを感じさせ、将来に希望を感じさせるものではないだろうか。

(了)

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:秋山篤史
所在地:福岡市南区太平寺2-16-22
設 立:2005年4月
資本金:200万円
TEL:092-566-8511


<プロフィール>
1971年生。一級建築士。福岡大学附属大濠高等学校、長崎総合科学大学工学部建築学科を経て、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学大学院芸術工学府)修了。長崎県内の設計事務所に勤務後、父親が経営していた建設業と合同して(株)アキヤマインダストリーを設立、その後、建築士としての業務に復帰した。福岡県木材利用促進協議会の理事・事務局長を務める。

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