2024年10月28日( 月 )

紅麹問題が突き付けたものとは?残された機能性表示食品の課題、問われる国の対応(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 小林製薬の紅麹問題は、機能性表示食品制度の改正へとつながった。その間、健康食品市場は冷え込み、業界に動揺が広がった。制度の信頼回復を目的に、消費者庁はガイドラインによる運用から法令化へと舵を切り、一応の決着を図った。だが、制度をめぐる深刻な課題は山積しており、早急な対応が求められている。

問われる販売会社の意識改革

 では、今回の制度改正は事業者にどのような影響を与えるだろうか。

 1点目として、法令に基づく運用となり、これまで一部の事業者で見られた身勝手な振る舞いにも対応できるようになると考えられる。昨年6月の景品表示法違反事案にともなって、88製品で疑義が生じたが、届出のやり直しもせずに、いまだに販売を続けている事業者も多数存在する。ほかの事業者にとっても消費者にとっても迷惑な話だが、そうした行動を許してきたのは、ガイドラインに法的拘束力がなかったためだ。この事例が該当するかどうかは別として、今後はゴネ得を認めない方向に進むと予想される。

 2点目は、原料メーカーや受託製造会社といった川上企業への影響。川上企業では自社で研究レビューを実施し、届出を行うことが多い。自ら最終製品を販売するわけではなく、モデルケースとして届出を行い、それを営業ツールに用いる。その際、取引先の販売会社に研究レビューを無料で提供する。川上企業が作成した研究レビューの使い回しである。この場合、元の研究レビューが適切ならば問題は生じない。ところが、川上企業の研究レビューには杜撰なものが多く、芋づる式に届出の撤回を余儀なくされる事案が後を絶たない。今回の改正は、届出者が負う責任を明確にするとともに、新規成分への対応やGMP管理の要件化などを盛り込んだことから、販売会社による原料メーカーや受託製造会社の選別が従来よりも慎重になると予想される。

 3点目は、最終製品を販売する通販会社などへの影響。販売会社では、届出資料の作成も含めて川上企業へ丸投げするケースが多く、届出に対する責任感が希薄となりがちだった。だが、制度改正により、届出者の販売会社にはさまざまな取り組みが要求される。これまでのように、汗を流さなくても済むというわけにはいかなくなった。たとえば、健康被害情報の収集・報告を怠ると、販売会社は営業の禁止・停止を命じられる可能性もある。年に1度の届出の更新も販売を続けるための要件となるなど、すべての責任を届出者が負う。今後、販売会社には意識改革が求められそうだ。

記者会見する小林製薬の首脳陣(8月8日、オンライン)
記者会見する小林製薬の首脳陣(8月8日、オンライン)

重要課題は手付かずのまま 食経験と研究レビュー

 今回の改正で多くの面が改善された。機能性表示食品制度の改正案を審議した消費者委員会の委員は、「これで安全性が確保される」と太鼓判を押す。本当にそうだろうか。

 制度の土台をつくり直したものの、深刻な課題は取り残されたままという指摘もある。残された重要課題として、安全性では食経験による評価の在り方、機能性では1報の論文による研究レビューなどがある。

 現状を見ると、食経験によって安全性を確認したとする届出が大半を占める。たとえば、温州ミカンの届出の場合、日本人にとって数百年にわたる食経験があり、食経験による安全性確認には信頼性がともなう。緑茶についても十分な食経験がある。一方、サプリメントは成分を濃縮した製品であり、食経験については10年程度しかないものが多く、しかも摂取者の範囲も限定されている。さらに、わずか1~2年ほどの喫食実績をもって、安全性を確認したとする届出も少なくない。このような安全性確認が続けば、第2、第3の紅麹問題が発生する可能性も否定できない。

 制度の見直しを議論した消費者庁の検討会でも、食経験による安全性確認の在り方に疑問を呈する意見が寄せられた。だが、消費者庁は制度改正に反映しなかった。この背景として、どのくらいの期間ならば十分な食経験があるといえるのか、という線引きが困難なことがある。

 機能性の評価で深刻な問題となっているのが、わずか1報の論文による研究レビューである。研究レビューは、国内外の多数の論文を収集し、総合的に判断する手法だ。制度がスタートした当初、少なくとも2本以上の論文を評価した結果が届け出されるものと想定されていたが、たった1報の論文で研究レビューを行ったとする届出が、当たり前のように続いた。採用論文が非の打ち所がない内容ならば救いもあるが、そのような事例は聞こえてこない。

 届出資料の作成を請け負うある企業では、「最初から自社で行った研究の論文(1報)しかないことを知りながら、研究レビューを依頼する企業が多い」と打ち明ける。名ばかりの研究レビューが横行しているという状況にある。

 このほかにも、多重検定の疑いがある試験結果を機能性の根拠とした届出も問題となっている。ヒト試験で明らかにする主要アウトカム(評価項目)をあらかじめ1つに絞ることが原則だが、複数のアウトカムを設定しておき、どれか1つでも良好な結果が出れば「有意差あり」とする悪質な手法だ。現状を見る限り、多重検定を行った研究論文を根拠とした届出も少なくない。

 これらの深刻な問題を解決しない限り、機能性表示食品制度の信頼性は向上しない。次の制度改正で、積み残し課題にメスを入れることが求められそうだ。

(了)

【木村祐作】


<プロフィール>
木村祐作
(きむら・ゆうさく)
1965年生まれ、大阪府出身。熊本大学法学部法律学科卒。食品専門誌の記者、データ・マックスのヘルスケア事業部編集長などを経て、2020年11月からフリーライター。中央官庁を中心に、消費者被害・食品・ヘルスケア・通信販売などの各分野に関わる行政動向を取材。「NetIB-NEWS」「通販通信ECMO」「週刊エコノミスト」などに寄稿するほか、講演活動も行う。

(前)

関連記事