2024年10月28日( 月 )

台湾有事の可能性と対応策:鍵はグローバル・サウスとの連携

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、10月25日付の記事を紹介する。

イメージ    故安倍晋三首相は「国際社会の秩序が崩れ、複雑化している。日米同盟は重要だが、アメリカが世界の警察官の役割をはたすことはもはや期待できない。ゆえに、パワーバランスを計算しつつ、各国との関係を強化し、国益を追求しなければならない」と述べていました。

 また、「中国の力が増大している。その圧力を正面から受けるなかで、日本は中国とのバランスを取る意味でもロシアとの関係強化が欠かせない」とも述べていたものです。要は、独自の対中、対ロ外交を追求しようと目論んでいたのです。

 いわゆる「大和の国」構想ですが、アメリカからは危険視されることになってしまい、日の目を見ることなく消されてしまいました。

 アメリカの有力シンクタンク「ランド研究所」のシミュレーションでも「台湾の現状の防衛装備品では中国の軍事侵攻にはお手上げ状態」と分析。台湾はアメリカからF-16戦闘機を購入したいと要望していますが、ウクライナからも要望が繰り返されており、双方を満足させるだけの余裕はないのがアメリカの現状です。

 しかも、日本は政府も国民も台湾防衛に関しては具体策をもたず、他人事的な対応に終始しています。確かに、さまざまな研究機関や団体が台湾有事に関するシミュレーションを実施していますが、防衛費獲得のための絵空事が多いのが現実です。

 防衛研究所の高橋杉雄前防衛政策研究室長曰く「台湾有事には2つのシナリオがある。中国がアメリカへの攻撃を回避し、台湾攻撃にだけ集中するケース。あるいは最初にアメリカを攻撃するケース」。「最初のケースでは、台湾を海上封鎖し、台湾を降伏させ、上陸する。第2のケースでは、中国が台湾上陸前に東アジアに展開する米軍に攻撃を行う」。

 同氏の分析では「中国はウクライナ戦争から学んでいる。アメリカが直接参戦しなくとも、ウクライナ軍はロシアとの戦いを継続している。情報や武器の提供が戦況を大きく影響する。台湾危機の際にも、アメリカは同様の支援を展開するはず。となれば、最初にアメリカ軍を叩いたほうが良いとの結論に中国は至るだろう」とのこと。

 しかし、多くの専門家が指摘するように、アメリカには台湾を守る意思はあっても、能力がなく、このところ人工衛星への攻撃力を高め、GPSをかく乱しようと目論む中国にはとても対抗できそうにありません。

 そもそも、史上最悪の財政赤字に陥っているアメリカです。第2次大戦以降、国防予算を毎年増加させてきましたが、すでに限界に至っています。これまでは圧倒的な経済力や国際機軸通貨であるドルの信用力で冷戦も勝利したわけですが、今後はそうした状況は望めません。

 こうした点を石破茂首相はどこまで把握しているのでしょうか。総裁選の直前に台湾を訪問し、「アジア版NATOを創設し、台湾を守る」と力説した石破氏です。

 最大の課題は繰り返しますが、日本政府も国民も台湾防衛に関しては具体策をもたず、他人事的な対応に終始していることです。というのも、日本でも台湾でも若い世代ほど、「台湾有事って何?」といった無関心が広がっているからです。

 その上、たとえ日米や国際社会が対処しようとしても、「一つの中国」論に代表されるように、「台湾問題は中国の国内問題」との見方も「グローバル・サウス」と呼ばれる国々では根強いため、介入のハードルは高いままです。とすれば、インドやアセアン諸国などとの協議を通じて、この問題を乗り越える策を見出すことが最優先されるべきと思われます。

 なぜなら、現在のバイデン政権はロシアと中国を最大の脅威と位置づけ、台湾を中国封じ込めの「不沈空母」にしようとしているからです。

 11月の選挙でハリス政権が誕生するのか、トランプ政権が復活するのか、どちらになっても国内の分裂は危機的状況に追い込まれます。かつてのようなアメリカの強いリーダーシップは期待できません。

 その観点からも、日本とすれば、近隣のアジア諸国に加え、インドやブラジルなどアメリカとは一定の距離を置きつつ、独自の外交を進める国々との連携も強化すべきタイミングがきていることに気づく必要があります。

 インドやロシア、中国、ブラジルが結集するBRICSは欧米を凌駕する経済力や影響力を強めているからです。


著者:浜田和幸
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