2024年12月27日( 金 )

建設業界のDXは国家的課題 アジアへの挑戦(前)

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(株)アンドパッド
代表取締役社長 稲田武夫 氏

(株)アンドパッド 代表取締役社長 稲田武夫 氏

 建設業界にとってDXは喫緊の課題となっている。経営の効率化に加え、業界全体のイメージアップにつながり、人材確保にもひと役買うからだ。これまで建設業界では、スーパーゼネコンを中心にDXが進められてきたが、今後は中小の建設会社、建設用資材や配送などの分野も合わせて取り組むことが求められる。旧態依然とした体質から脱却し、明るい未来を描けるか──。プラットフォーム「ANDPAD」を通じてDXを支援する(株)アンドパッドの稲田武夫代表に、建設業界が取り組むDXの現状と課題、同社が目指す方向性について語ってもらった。

DXは人手不足や人材採用の課題解決の一助に

 建設業界のDXといえば、もともとはロボット建機に関する印象が強かった。これは、国土交通省が提唱する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の考え方によるところが大きいと考えられる。公共事業でのDX推進を中心とした発想だ。

 しかし、建設業界は、全体の95%を中小企業が占める。その中小企業経営もアップグレードしたり、支援したりすることは業界全体に対して一定のインパクトがあると考え、当社も啓蒙活動を続けてきた。近年、バックオフィスやコンストラクション・マネジメント関連へのIT投資が盛んになっていると認識している。

 過去10年間で建設業のDXはかなり進展してきた。牽引しているのは、十分な予算を割いて取り組むスーパーゼネコンである。現場の業務をいかに効率化するかという観点から、ロボティクスも含め、ドローンであったり、写真管理であったりと、より現場に特化したDXが推進されている。それに連動するかたちで、サブ・コントラクターや中小の建設会社のDXが進んでいる。

 スーパーゼネコンに次いでDXの波が押し寄せているのが、地場のゼネコン。近年、地場のゼネコンは引き合いが多く、2~3年先の完工高が見えている状況にある。利益を確保できる見通しがあるなかで、あえて生産性を向上させて利益構造を改善する取り組みへのこだわりは強くなかった。しかし、スーパーゼネコンを中心とした建設業界のDXが進展するなかで、地場のゼネコンも、自力でDXを推進しなければならなくなってきた。

 当社のDX支援プラットフォーム「ANDPAD」はさまざまなサービスを提供しており、その1つのプロジェクト管理関連で地場のゼネコンによる利用が拡大している。写真や図面の管理、受発注業務のデジタル化といった動きが広がりつつある。また、建設用資材を扱う企業のDXも重要となっている。建設現場では、いくらゼネコンがDXを推進したところで、資材や配送といった周辺の事業者のDXが進まないと効率が向上しないからだ。

 業務効率化のほかにも、地場のゼネコンがDXに走らざるを得ない理由がある。それは、人材を確保するためだ。現在、地場企業では人材不足が深刻だが、人材エージェントなどに依頼すれば採用できるという時代でもない。私自身、大学卒業後にリクルートに入社し、人事・開発・新規事業開発に従事した経験がある。さまざまな業種のなかでも、人材会社として貢献への難易度が高いのが建設業界だった。

 実は、当社にも人材関連の依頼が多数寄せられている。余談だが、「ANDPAD」を利用している建設会社に当社のCMに登場いただいたところ、採用につながったという声が届いている。DXに取り組んでいることが、人材を採用するうえでアピールポイントとなったようだ。

建設業界のDXは国益に叶う

 起業の動機を尋ねられることがあるが、大学を卒業してリクルートに入社したころは、今後、何をしていくべきか模索していた。在籍中、さまざまな業界と接するなかで、地域で最も重要な産業と言ってよい建設業界のDXを推進することは、日本のためになるという考えにたどり着いた。これが、アンドパッドを設立し、スタートアップを手がける原点となった。自分自身が建設業界と関係しているかどうかは問題ではなかった。日本が抱える最も重要な課題を解決することにチャレンジしたかった。

 また、起業については、もともと学生時代に仲間と一緒に会社を運営し、多くの起業家と知り合うなかで刺激を受けたことも影響している。直接指導を受けた人はいないが、柳井正氏、ジェフ・ベゾス氏、ビル・ゲイツ氏らの著書を読んで自分自身のモチベーションも高まった。身近なところでは、同世代の経営者たちにも刺激をもらっている。

 ところで、建設に特化したデジタルカンパニーで、誰もが知っているような企業が出てこない理由は何か。建設業をデジタル化する場合、さまざまな課題が立ちはだかる。そこで、発想を逆転させて、現場への浸透が強みとなるデジタルカンパニーをつくれば、№1になれると考えた。

 当社では、現場へのサービスの浸透を重視していることから、社員の多くをサポートメンバーとして配置している。顧客をサポートするため、操作説明会を年に7,000回以上開催する。導入した会社を対象に、使用方法を説明するというもので、販売イベントではない。数百人の社員を投入して徹底的に支援しており、この規模でサポートが可能なのは当社のみと自負している。

 スタートアップの設立時に、建設業界の課題解決が国益になると考えた。今でも、とくに若い人材が携わりたいと思うような産業構造になることを願っている。そのためには、IT企業が深く関与したり、IT人材が入り込んだりするといった変化が必要となると考えている。女性の活躍もその一翼を担うだろう。こうした人材の活用が進めば、とても魅力的な産業に見えるのではないだろうか。

(つづく)


<プロフィール>
稲田武夫
(いなだ・たけお)
慶應義塾大学経済学部卒業後、(株)リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。2012年(株)アンドパッド(旧・(株)オクト)設立、「現場監督や職人さんの働くを幸せにしたい」という思いで、建築・ 建設現場の施工管理アプリ「ANDPAD」を開発。利用企業数20万2,000社、ユーザー数51万人のシェアNo.1施工管理アプリに成長。全国の新築・リフォーム・商業建築などの施工現場のIT化に日々向き合っている。Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング 2022」にて3位に選出。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:稲田武夫
所在地:東京都千代田区神田練塀町300 住友不動産秋葉原駅前ビル8F
設 立:2012年9月
資本金:116億9,208万円
TEL:03-6831-4550
URL:https://andpad.co.jp

(後)

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