建設業界のDXは国家的課題 アジアへの挑戦（後）

（株）アンドパッド
代表取締役社長　稲田武夫 氏

セクター別にきめ細かい対応

　当社では、事業の対象分野が増えてきたこともあり、半年ほど前に各分野の責任所在をより明確にした。たとえば、「住宅」だと住宅産業に対応する執行役員が陣頭指揮をとる。これまでは、組織全体でさまざまなセクターに向き合ってきたが、各分野によって求められるDX支援の機能もソリューションもまったく異なってくる。それぞれの分野にしっかり対応するため、各セクターの事業責任者、営業担当者、カスタマーサポート部隊を配置している。

　現在、当社には約700人の社員がいる。組織面ではプロダクト開発、営業関連、サポート関連の3つに大別できる。100％リモートワークなので、自由に働いてもらっている。その一方で、リモートワークかつセクター別の対応といった事情から、社員全体に統一した価値観をもたせることは簡単ではない。そこで、行動規範を設けて、入社時に必ず理解してもらっている。これに加えて、全社的な総会や各部ごとの総会を開き、顔を合わせる機会も設けている。

　年に一度、「ANDPAD AWARD」を開催している。「ANDPAD」の導入によって顕著な効果が表れた事業者を表彰するというものだ。最もデジタル化された職人、最もデジタル化された工務店、ゼネコンというように、部門ごとに賞を設けている。顧客から直接、「業務効率がとても改善できた」という声を聞くことで、当社の社員が仕事の喜びを感じ取れる場となっている。

保有データの活用で与信も

    現在、「ANDPAD」の利用社数は20万社、ユーザー数は51万人に上る。国の「建設キャリアアップシステム（CCUS）」との連携も進めている。ANDPADには、入退場記録、仕事内容、受発注データなどさまざまなデータが蓄積している。法人IDについても同様で、どの元請から、どのような仕事をどのくらい受けているか、というデータが蓄積されている。当然ながら、住宅をはじめとしたさまざまな建築物の施工履歴もあり、各工程の受発注、発注先の企業、清算・請求管理も含むすべてのデータを保有する。おそらく、建設に特化した受発注データとしては最大規模だろう。

エンジニアの開発拠点をベトナムに設立

    当面の目標は、「ANDPAD」が日本中の建設会社に利用され、高く評価されるプラットフォームに育て上げること。この目標に向けて、ゼネコンやサブコンを中心にサービス提供を拡大させる方針を立てている。住宅領域については小規模事業者への支援はまだまだ余地があると考えており、引き続き対応していきたい。このほか、インフラ系企業で需要拡大が見られている。ガス会社や電力会社、プラント施工会社などだ。

　これらの取り組みを進めると同時に、世界を相手にしなければならないと考えている。まずは、「アジアの建設テックベンチャー」を目指したい。3年前にベトナムのホーチミン市に子会社を設立し、エンジニアの開発拠点としつつ、東南アジアでのビジネス展開を検証している。東南アジアには建設業界に特化したソフトウエアはあまりなく、ベトナムでは「ANDPAD」を活用する企業が広がりつつある。

　さらに、欧米の有力なスタートアップと競合するケースが出てきているため、アジア地域の展開を進めながら、日本の建設業界と一緒に、世界に出ることも視野に入れている。

（了）

＜プロフィール＞
稲田武夫（いなだ・たけお）
慶應義塾大学経済学部卒業後、（株）リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。2012年（株）アンドパッド（旧・（株）オクト）設立、「現場監督や職人さんの働くを幸せにしたい」という思いで、建築・ 建設現場の施工管理アプリ「ANDPAD」を開発。利用企業数20万2,000社、ユーザー数51万人のシェアNo.1施工管理アプリに成長。全国の新築・リフォーム・商業建築などの施工現場のIT化に日々向き合っている。Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング 2022」にて3位に選出。

＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：稲田武夫
所在地：東京都千代田区神田練塀町300 住友不動産秋葉原駅前ビル8F
設　立：2012年9月
資本金：116億9,208万円
ＴＥＬ：03-6831-4550
ＵＲＬ：https://andpad.co.jp