2024年11月21日( 木 )

マン管適正化シンポ、修繕費不足解決など合意へ工夫大事に

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 国土交通省住宅局主催の「マンション適正化シンポジウム~マンション管理の最新事情とこれからを考える~」が10月6日に開催された。東京・虎ノ門の現地会場のほか、オンラインを合わせて742人が参加。冒頭にビデオ収録によるあいさつをした楠田幹人・住宅局長は、「住宅ストックのうちマンションは700万戸となり、国民の1割強が住まう重要な居住形態として定着している。一方、マンションは建物と居住者の2つの老いに直面。昨年8月に有識者検討会がまとめた方向性に沿ってマンション管理の適正化を進めていく」と述べた。

区分所有法見直し案 基調講演でポイント解説

冒頭にあいさつする楠田幹人・住宅局長
冒頭にあいさつする楠田幹人・住宅局長

    今回のシンポジウムでは、4人の有識者および行政担当者による区分所有者の責務やマンション管理士の活動などについての基調講演を行ったほか、齊藤広子・横浜市立大学教授の司会による管理組合役員などによる座談会も行った。

 最初に基調講演を行った香川希理・弁護士は、管理不全マンションの最終的な責任を負うのは区分所有者であるとし、あいまいになりがちな区分所有者の責務について説明。続いて、管理業者を活用する管理業者管理方式について、「理事会がない、議案の上程は管理者、管理会社が管理者を兼ねている」というメリットがあるものの、「利益相反」が最大のデメリットだと強調した。マンション管理士に関して講演した(一社)日本マンション管理士会連合会の瀬下義浩会長は、管理会社への牽制の意味でも、業務監査の重要性とマンション管理士に業務委託することへの意義を説明した。

 横浜市における行政と管理組合が連携したマンション防災の取り組みについて、横浜市建築局住宅部住宅政策課の安藤準也・担当係長は、防災対策を実施するマンションをハード・ソフトの両面で認定する「よこはま防災向上マンション認定制度」の概要を説明した。続いて、防災の現場からは、パーク・ハイム金沢文庫管理組合の乙藤光男・防災委員長が、認定取得に至る背景や実際の防止活動について報告。住民の防災意識向上、ひいてはマンション向上につながればとの期待から、認定を取得したと話した。

 基調講演の最後に国土交通省住宅局の杉田雅嗣・参事官が登壇し、今後のマンション政策とマンション管理制度について話した。一定の基準を満たすマンションに対する管理計画認定制度について、「話し合いをするきっかけにしてもらいたい」と狙いを説明。また、マンション標準管理規約の見直しの内容、修繕積立金の段階増額積み立て方式の適切な引き上げ計画の考え方、防災対策、今後予定されている区分所有法の見直しにおいて集会決議と解体・売却・一棟リノベーションの決議要件緩和のポイントを解説した。

課題の解決へ 専門家や行政ら活用

マンション管理組合の役員らが参加した座談会の様子。左は司会をした齊藤広子・横浜市立大教授
マンション管理組合の役員らが参加した座談会の様子。
左は司会をした齊藤広子・横浜市立大教授

 座談会では、東京、埼玉、千葉、神奈川の4つのマンションの管理組合役員らが参加。参加者らは「工事費の高騰」「不適切コンサル」「管理会社の利益相反問題」「タワー型に対応可能な業者が少ない」「資金繰りの不安」「外国籍居住者」「管理組合の体制や合意形成」など、それぞれのマンションの課題や不安を挙げた。司会の齊藤教授が国土交通省の資料を挙げながら、それぞれの課題となっている点について議論した。

 組合役員らは、新築時に低く抑えられていた修繕積立金の増額について、段階増額積立方式から均等積立方式に変更した事例では、管理費を抑えるなど合意形成の工夫を話した。工事内容に関しては、建物の劣化状況に応じて実施する工事と先延ばしする工事を分けて費用を抑えることや、マンション管理士などを活用して優先順位を付けた工事内容を検討したことなど、各マンションでの実際の取り組みを報告した。

 施工業者・コンサルタントの設定は、各管理組合とも公募で選定しており、不正防止のために設計コンサルの関与を省き、管理組合で対応したことや、公募では実績を条件とした。また、設計コンサル選定では、リピート業務の多さや実績の確認、リベートの授受を行わないなど、誓約書の取り交わしをはじめ各管理組合の実例を紹介した。

 管理組合の合意形成については、修繕委員会の立ち上げとともに議論が進行しないなどの課題が発生した事例を説明し、理事会も議論に参加し、修繕委員会と理事会が足並みをそろえることの重要性を指摘した。外国籍の組合員との合意形成については、基本的に必置である国内代理人を通じて行う体制を構築。多言語による工事のお知らせの配布や、クイズなどを取り入れた子ども向け説明会、平日夜・土曜日午前の説明会開催などの事例も挙げた。
 最後に各管理組合からは、自治体などに相談することの大事さや劣化状況の把握、専門家のサポート、コミュニティとの協力、現場代理人の能力・人柄など見極めた施工会社の選定の重要性、合意形成が難しいなか「マンションを次世代につなぐ」という意識の重要性などといったメッセージを述べた。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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