長垂海浜公園Park-PFI、魅力ある公園をまちづくりの起点に
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地元タッグが勝ち取る
福岡市によるPark-PFIを活用した「長垂海浜公園整備・管理運営事業」の事業者公募の優先交渉権者として8月9日、(株)オペレーションファクトリー(大阪市西区)を代表企業とし、構成員として(株)SALT(福岡市西区)が参加するグループが選ばれた。
今回の公募は、福岡市が2024年3月に開始した「長垂海浜公園」(西区今宿駅前1丁目)におけるPark-PFIを活用した事業者を選定するもの。同グループを含めて3グループから提案書が提出され、外部有識者などからなる提案評価委員会において提案内容の評価を実施。その結果、全体計画、施設整備計画、管理運営計画などで高得点を獲得したオペレーションファクトリー&SALTのグループが総合評価点で1位となり、今回の優先交渉権者となった。
代表企業のオペレーションファクトリーは、各地で飲食店の企画・運営やコンサルティングなどを手がける会社であり、ちょうど長垂海浜公園の東側の隣接地で「California B.B.Q BEACH」および「OCEAN HOUSE」の2店舗を運営。シーサイドの魅力を存分に生かした飲食店の運営を通じて、今宿エリアの魅力向上や賑わい創出に寄与している。
一方のSALTは、コワーキングスペースの企画・開発運営や、遊休不動産の活用による地域活性などの多岐にわたる事業を手がける会社で、長垂海浜公園の西側約300mの場所で「シェアオフィスSALT」の運営を実施。また、今宿商工業協同組合とともに地域の祭となる「今宿海道市(いまじゅくうみみちいち)」を開催するほか、ローカル情報の発信サイト「今宿オンライン商店街」を立ち上げるなど、地元・今宿エリアのまちづくりにも積極的に参画している。
今回の公募では、そんな長垂海浜公園を挟んで立地し、ともに地域を盛り上げてきた地元の事業者同士がタッグを組んで応募したことで、優先交渉権者を勝ち取ったかたちだ。
SALT・代表の須賀大介氏は、「もともと当社は今宿エリアのまちづくりに熱心に取り組んできたこともあり、すぐ近くにある長垂海浜公園のポテンシャルを、もっと地域のために生かしていけないかと長年考えていました。そうしたなかで今回のPark-PFIによる事業者公募がスタートしたのですが、長垂海浜公園をもっと地域のために生かしていきたいという意見や思いが代表企業であるオペレーションファクトリーとも一致したことで、一緒に手を取り合って挑戦した次第です」──と、今回の事業者公募に挑戦した動機を語る。
ハードよりもソフトを重視
今回のPark-PFIの舞台となる長垂海浜公園は、市街化が進む今宿地区における公園需要を満たすべく2002年度に整備・設置された近隣公園で、生の松原から長垂山まで続く自然海岸の最西端に位置し、今宿海岸に沿って東西に広がる形状となっている。市街地近郊に残る良好な自然海岸として前面に今津湾や能古島などを一望することができる景勝地でありながら、国指定史跡である元寇防塁跡と隣接する歴史性も兼ね備え、JR今宿駅からは徒歩10分圏内という交通利便性にも優れている。公園内は広大ながらも起伏がなく、緑とともに心地良い海風を感じながら体を動かせる空間を有していることから、地域住民から域外からの来訪者まで、さまざまな公園利用者が公園や海岸からの景観を楽しみながら、「憩える」「アクティブに活動できる」「賑わえる」場として親しまれてきた。
今回のPark-PFI事業は、その長垂海浜公園に民間活力を導入し、公園利用者の利便性および公園の魅力の向上を図るとともに、福岡市の「観光・MICE推進プログラム」も踏まえ、水辺の景勝地に立地する同公園の特性・魅力を生かすことで、さまざまな来園者に新たな憩いや賑わいをもたらしながら、地域と調和する公園づくりの推進を目的としている。
同グループによる提案では、基本方針を「公園が舞台となる“交流のまちづくり”Park Oriented City」と提示。公園とその身近にあるさまざまな価値や魅力を再編することで、核となる公園に「複合施設=小さな街」の機能をもたせ、その“小さな街”を“魅力ある都市”へと成長させていくことを目指していくという。また、新たな民間施設として、SHOP棟とレストランを整備。現時点の構想ではSHOP棟内に複数テナントでの多様なサービスを提供していくことを予定するほか、レストランは、オペレーションファクトリーのノウハウを最大限活用した新たな飲食店を予定している。また、屋外には誰もが自由に使えるオープンスペースを設置するほか、子どもや若者も楽しめるオーシャンビューバスケットコートも整備予定。さらに、これまでは公園内になかった駐車場も新たに約30台分を整備していく予定だ。
なお、長垂海浜公園全体の面積は2万5,385m2だが、民間施設の配置などの整備を行っていくのは全体の約4分の1程度。残り約4分の3は既存の公園施設や既存樹木などを生かしながら、きれいで快適な公園の維持・管理運営に努めていくという。
ソフト面の提案では、公園を管理するだけでなく、公園と地域住民をつなぐ役割も担うパークコミュニケーターを配置。また、定期的なマルシェの開催など、地域と密に連携した多彩なイベント開催も予定している。さらに地元の今宿校区自治協議会や今宿商工業協同組合、九大学研都市商業連盟(九都連)などとも連携し、協働および協力体制の下で、地域活性化に寄与するさまざまな取り組みを進めていきたい考えだ。
これら同グループによる提案内容は、前述の提案評価委員会において、「公園のみならず地域全体を活性化していこうとする姿勢」「地域に根差した活動を実施している団体との協力体制」「地域ニーズを踏まえた提案」「地域と密に連携した取り組み」「公園全体が調和した施設配置計画」などの点がとくに高い評価を受けている。
「もともと高いポテンシャルを有している公園ですから、あまり過度なハード面の整備は必要ありません。それよりも、ソフト面でのさまざまな取り組みで地域住民も巻き込みながらコミュニティを形成していき、ゆくゆくはまちづくりの起点として、住民とともに成長していく公園にしていきたいと考えています」(SALT・須賀代表)。
地域の持続的な成長へ
長垂海浜公園が位置する今宿エリアは、古くは唐津街道の宿場町として栄え、現在に至るまで多くの人々が行き交ってきた。そのなかで同公園は、福岡市の都心部から見て今宿エリアの入り口にあたり、さらにその先の九州大学・伊都キャンパスなどにつながる場所でもある。そうしたエリアのもつ地理的な文脈や歴史などを理解したうえで、いかに地域の持続的な成長に資する公園活用の在り方を模索していけるかが、今回のPark-PFI事業では肝要になるといえよう。
「このエリアは九大にも近く、まちづくりに参加したいという学生も多いのですが、残念ながら福岡都市圏全体の地価高騰および家賃高騰などの影響で、まちづくりのプレイヤーが自由に挑戦することが可能な余白があまりないという現状があります。今回の長垂海浜公園のPark-PFI事業では、たとえばそうした方々にSHOP棟のテナントとして入居してもらうなど、新たなまちづくりプレイヤーがチャレンジできる受け皿としても活用していければいいですね。そうしてエリア内外の多くの人々が、ここ長垂海浜公園を舞台としてクロスオーバーしながら持続的な地域活性化につながっていくとともに、公園自体の魅力もさらに向上していけるように取り組んでいきたいと思っています」(SALT・須賀代表)。
長垂海浜公園のPark-PFI事業は今後、25年度の着工および26年夏の供用開始を予定している。生まれ変わって新たな魅力が付加された長垂海浜公園を起点として、今宿エリアのまちづくりがどのように進化していくのか、その動向に引き続き注目していきたい。
【坂田憲治】
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