2024年11月21日( 木 )

「たたき上げ」ならでは 若手職人育成への取り組み(前)

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(一社)日本左官業組合連合会 副会長
九州ブロック会 会長 荒木富士男 氏

(一社)日本左官業組合連合会 副会長 九州ブロック会 会長 荒木富士男 氏

 1,000年以上の歴史がある左官工事業は、建設業には欠かすことができない作業を担うが、近年高齢化が進むほか、若年入職者が減少している。今年5月に(一社)日本左官業組合連合会(日左連)副会長および日左連九州ブロック会会長に就任した荒木富士男氏に、若い人材の確保・定着に向けた取り組み内容や左官工事業界の課題について、話を聞いた。

伝統技法と現代工法で社会に貢献

    ──日左連の役割についてお聞かせください。

 荒木 左官工事は1,000年以上の歴史があり、今でも住環境には欠かせないものです。変化する時代に合わせ、常に新しい技法を提案し、安全で安心な住環境を目指してきました。インフラ整備や天神ビッグバンなどでの都市開発でも不可欠な役割を担っております。当連合会の主な役割は、諮問委員会を設け、技術的進歩改善や構造改善、広報活動などを通じ、健康な塗り壁を提案し、減少傾向にある公共工事や民間工事のなかで優良な建築物をつくり、有能な人材確保と伝統技法を受け継ぎ、健全なものづくりを組合員総員が目指して社会に貢献することです。

 ──日左連九州についてはいかがでしょうか。

 荒木 日左連は全国で10ブロックに分かれており、九州ブロックは九州8県の各団体で構成されています。少子高齢化や人手不足、湿式工法から乾式工法への移行などにより、左官工事の質・量ともに落ち込んでいるのが現状です。それでも、左官工事は建物の構造に欠かすことができないもので、そのために後進の育成は必要です。本来の左官のやりがいのある手作業の技能や、意識を高めるため、若年者に講習会を通じて学んでもらい、職人たちが過去と未来を壁に描ける業界にしていきたいと思います。しかし、育成には長い年月がかかります。ですから、育成期間をわずかでも短縮する方法を探りながら育成モデルを構築し、九州ブロック会が全国に先駆けて発信していきたいと考えています。

 ──九州ブロック会会長としての抱負をお聞かせください。

    荒木 九州ブロック会歴代会長のなかで、たたき上げの職人が会長に就くのは私が初めてでしょう。「時代が人物を求める」というように、人材の確保や若年者の育成、技能継承、働き方改革と難題が山積みするなかで、このたび私に要職が回ってきたことは時代が当てはまったと自負しています。私はこれまで53年間、職人として技を磨いてきました。30歳のとき、第22回全国左官技能競技大会で優勝することができましたが、さらに高みを目指すため、関西のカリスマ左官・久住章氏の下で修業を重ね、38歳で福岡に帰郷し独立しました。2009年4月に(株)富士工舎を設立し、文化財や国宝、世界遺産などを手がけるようになりました。

 また、その技術を伝えるべく講習会などを開催し、若手職人にも技能を広めていきました。その後は、競技大会の審査員や実行委員を複数回務め、23年から日左連左官技能委員会委員長、今年度から日左連副会長および九州ブロック会会長に就任しました。私が望まれていることは、これまで培った技能と職人としてのやりがいと魅力を若い人たちに伝え、左官職人としての技能の継承と若手入職者を増やすことだと思いますし、ともに成長していきたいと考えています。

 ──職人としての実績をお聞かせください。

 荒木 38歳で帰郷するまで、武者修行で全国を渡り多くの左官技術を取得しました。なかでも、和歌山県にある南紀白浜ホテル川久の工事にリーダーとして携わり、新工法を会得したことが大きな自信となりました。久住氏が講師としてドイツを訪れた際、見た目は大理石ですが、実際は石膏で人工的につくられた大きな柱を目にして、いつか機会があれば日本で、かつ国内の材料でつくってみたいと思われたといいます。その後、久住氏がホテル川久と縁がありその機会が訪れ、メインエントランスの24本の柱づくりに私も一緒に挑むことになりました。コンクリートの柱に大理石を模したものを貼り合わせていくのですが、継ぎ目が出てうまくいきません。着工後、半年間は試行錯誤の日々でした。試作を重ねるなかで、ふと求めるものをつくることができました。この成功と若手育成、技能の継承が評価を受け、09年に「ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞」をいただきました。21年には「現代の名工」にも選出していただきました。

ホテル川久
ホテル川久

(つづく)

【内山義之】


<プロフィール>
荒木富士男
(あらき・ふじお)
1954年、福岡県大牟田市出身。17歳で左官業に入職。30歳で第22回全国左官技能競技大会優勝。その後、武者修行で全国を渡り、92年、福岡に帰郷し富士工舎を創業。2009年4月、(株)富士工舎を設立。国土交通省マスターやものづくり日本大賞内閣総理大臣賞などを受賞。24年5月、日左連副会長および日左連九州ブロック会会長に就任。趣味は釣りと相撲甚句を歌うこと

(後)

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