「たたき上げ」ならでは 若手職人育成への取り組み(後)
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(一社)日本左官業組合連合会 副会長
九州ブロック会 会長 荒木富士男 氏1,000年以上の歴史がある左官工事業は、建設業には欠かすことができない作業を担うが、近年高齢化が進むほか、若年入職者が減少している。今年5月に(一社)日本左官業組合連合会(日左連)副会長および日左連九州ブロック会会長に就任した荒木富士男氏に、若い人材の確保・定着に向けた取り組み内容や左官工事業界の課題について、話を聞いた。
工程の工夫や新工法で残業時間の短縮を図る
──今年4月からの働き方改革関連法案「時間外労働の規制」適用について、いかがでしょうか。
荒木 いわゆる2024年問題は、建設業界にも大きな問題となっています。時間外労働は月45時間、年間360時間の上限規制が定められました。また、週休二日制も推進されています。4週8休を積極的に進めるためには、施工工期の見直し、発注者と工事請負業者での合意形成ルールの明確化を取り組む必要があるでしょう。合わせて有給休暇取得率向上などを図り、人材の確保と若手入職者が仕事とプライベートの両立できるような職場環境づくりが大事です。
左官工事の現場は、野丁場(RC造)と町場(住宅)に分けられ、それぞれ労働環境に差があります。たとえば、野丁場ではコンクリートの打設均しと仕上げという2つの工程を別々の職人に分けることでの時間外労働を避ける工夫や、土間仕上げにレベラー材を使用することで施工時間の短縮化が図られます。レベラー材とは、床面に流して用いる下地調整材のことです。コンクリート打設後に5~20mm程度流すことで、コテ押さえなしで水平に仕上げることができます。わかりやすくいうと、水を張るイメージです。それらを普及させるような講習会などを開くなど対応を図っています。
──人手不足への対応は待ったなしです。ベテラン職人の大量退職が見込まれる2025年問題も迫っています。
荒木 団塊の世代が75歳以上となり、深刻な労働力不足は避けられず、直接的な生産力の低下につながるでしょう。現場での作業が遅れ、納期の遅延やコスト増加を招くことが懸念されます。やはり、若手入職者雇用が重要となります。そこで、広報活動や各種業界が進めている小学校、中学校、高等学校などの教育機関にも、積極的に出前授業を通じて、ものづくりの楽しさとやりがいを伝えていくことが大事です。また、外国人労働者の受け入れを進めていくことも、1つの解決策として考えられます。建設業でAIや機械化、ロボット技術導入がなされるなか、左官技術は一部機械化をすることは可能ですが、すべてというわけにはいきません。難しい手作業でのものづくりの楽しさや、やりがいにもっと関心をもってもらえるように、業界全体が意識改革と未来に向けた解決策を真剣に協議を進めていくことが重要だと思います。
労働価値を上げ労働環境改善へ
──専門工事業を含む建設業界の課題などについては、いかがでしょうか。
荒木 やはり一番の課題は、職人不足でしょう。その原因として、若手の育成に時間や労力をかけられず、人材育成が進んでいないことです。60歳以上の技能者は全体の25.7%の77万6,000人で、10年後にはその大半が退職すると言われます。その一方で、10~20代の若手職人は1割程度の35万3,000人です。建設の現場では外国人の受け入れがますます増加し、技能実習生は9万人を超え、今や全建設技能者の4%近くを占めるほどです。しかし、外国人は長期的な雇用は望めません。かといって、短期間での人員入れ替えも好ましくないと思いますので、ある一定は外国人労働者に頼りつつ、国内での入職者を増加させるための所得面を含めた労働環境の改善を図る計画を、当連合会も危機感をもって本気で促進させることが必要です。
また、労務単価も課題です。若年者から見て魅力的な職場環境とは、やはり所得の面もあるでしょう。建設業は3Kの代表と言われ、機械化が進む一方で、まだまだ重労働を課せられることがあります。労働価値を見出すことが重要です。労働価値とは建設業界において、職人養成マネジメントシステムを作成し、憧れの職種となる人材を育成することで、職人の価値をつくり上げていくこと。労働価値を高めることにより労務単価を引き上げ、「きつくてもこれだけの所得になるぞ」と、夢と希望をもたせることが重要です。たたき上げだからこそ、職人の気持ちがよりわかります。
高所得を得られる技能の付加価値を付ける努力をし、働きやすく魅力的な労働環境の確保することで、生涯の仕事として「入職したい」といわれる業界にしたいと思います。自らコテをもち、左官の魅力とやりがいを若手職人および入職者に広く示していくことが、私の役目だと思っております。
(了)
【内山義之】
<プロフィール>
荒木富士男(あらき・ふじお)
1954年、福岡県大牟田市出身。17歳で左官業に入職。30歳で第22回全国左官技能競技大会優勝。その後、武者修行で全国を渡り、92年、福岡に帰郷し富士工舎を創業。2009年4月、(株)富士工舎を設立。国土交通省マスターやものづくり日本大賞内閣総理大臣賞などを受賞。24年5月、日左連副会長および日左連九州ブロック会会長に就任。趣味は釣りと相撲甚句を歌うこと月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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