住宅ストックへの地震対策に課題(前)
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今年1月に発生した能登半島地震では、多くの住宅で倒壊・半壊・火災の被害が発生。多くの死者、けが人を出した。老朽化した住宅の倒壊による被害が目立ったが、これは今後発生する大規模地震において全国、そして九州、福岡県においても起こり得ることで、国や自治体、住宅事業者、そして生活者に改めて大きな課題を投げかけたかたちとなった。人命や財産の安心・安全をどのように確保すべきか。ここでは、地震に代表される災害大国で暮らすうえでの備えについて、改めてフォーカスする。
免震体験に人だかり
10月12日(土)と13日(日)の2日間、福岡市早良区の百道浜地区で行われた「RKBカラフルフェス2024」の一角で、住宅情報プラザ福岡((一社)福岡県建築住宅センター)が主催する「住まいるフェア福岡2024」が行われた。子どもを対象にした大工体験ワークショップや、空き家問題などを含めた住宅に関する情報提供が行われていたが、何より人を集めていたのが、「免震体験」コーナーだった。「起震装置」を積んだトラックで震度5~7の揺れを再現。免震装置による揺れの軽減を体験できるものだ。
この手のイベントではよく誘致され、人気を集めるのが常だが、とはいえそこに多くの人たちが集まる様子は、暮らしや住まいに関わる人々の関心事のなかで「地震」への備えが大きな位置づけを占めていることをよく表している。今年は能登半島地震(マグニチュード7.6、羽咋郡志賀町、輪島市で最大震度7)が発生し、地震災害の恐ろしさを改めて強く認識しなければならない状況になっている。10月を迎えた今でも、被災した家屋・建物の多くが解体されず、あるいは十分な補修工事ができないでいる状況が続いているうえ、9月21日の記録的豪雨という二重被害も発生しており、このことは福岡の生活者の防災意識を少なからず刺激したと見て取れる。
老朽木造住宅
ここで、改めて能登半島地震における地震に起因する被害を確認しておきたい。非常災害対策本部がまとめた10月1日時点の被害状況は、被害が最も大きかった石川県で死者数が397人(うち災害関連死170人)、行方不明者3人。住宅被害は全壊が6,055棟、半壊が1万8,081棟、一部損壊が6万3,410棟で、合計8万7,557棟(津波による浸水被害を含む)となっている。なお、富山県と新潟県を合わせた3県の住宅被害は合計で13万3,037棟にのぼる。東日本大震災では全体で約23万棟の住宅被害が発生したが、これは被害が広範な地域にわたったため。範囲が限定的だった能登半島地震で13万棟にもおよぶ被害が発生したのはなぜだろうか。
警察庁は1月31日に、能登半島地震の死者(当時)のうち、警察が検視した222人の年代や死因を明らかにした。それによると、死因では「圧死」が92人(41%)と最多で、「窒息・呼吸不全」49人(22%)、「外傷性ショック等」28人(13%)、クラッシュ症候群などの「その他」が6人(3%)と、家屋の下敷きになったことが原因で死亡したケースが約8割になったことがわかる。発見場所は輪島市98人、珠洲市95人で2市だけで全体の87%を占めた。なお、救助を待つ間に寒さで体力が奪われた「低体温症・凍死」が32人(14%)、輪島市の朝市通りで発生した火災により3人が「焼死」していたともしている。また、死亡者を年代別に見ると70代が56人と最も多く、80代47人、90代24人と続き、全体の67%にあたる149人が60代以上の高齢者だったことも明らかになっている。
こうした人的被害の要因として挙げられるのが、当該地域における耐震性が低い老朽化した木造住宅の多さ。同地震で多数の死者が発生した輪島市や珠洲市では、耐震化率が約50%前後と低かった。耐震化は、住宅が建てられた当時の耐震基準に準拠するもので、1981年より前の耐震基準を「旧耐震基準」、それ以降を「新耐震基準」、さらに2000年以降は「2000年基準(新・新耐震基準)」と呼んで区別されており、当然、旧耐震基準による住宅は耐震強度が低く、能登半島地震による倒壊被害を受けた住宅のほとんどがこれに合致するものと見られる。
耐震化が停滞
旧耐震基準の住宅の多くに高齢者が暮らしており、それが前述したように「災害弱者」と呼ばれる高齢者に死亡者が多いことの要因となっている。このほか、とくに過疎地であれば世帯所得収入が低いことから、建替えや耐震補修を戸惑う傾向にあり、それもまた住宅倒壊と死亡者の発生につながったとの指摘もある。国土交通省によると、全国の耐震化率は18年時点で約87%であり、30年までに耐震性が不十分な住宅はほぼ解消するとしているが、能登半島地震で明るみになった過疎地域における耐震化の停滞は、その信憑性に疑いをもたせる。つまり今後、大地震が発生した場合、能登半島地震の被災地と同様の事態が発生することを予見させるからだ。
ちなみに、福岡県の耐震化率は、同じ18年時点で89.6%(うち木造住宅78.3%)と全国的に見ても高水準だが、地域によっては老朽住宅が多く残っており、必ずしも楽観視できるものではない。石川県も全域の耐震化率は82%だったにも関わらず、輪島市や珠洲市の耐震化率は約50%前後にとどまっていたことからもイメージできるだろう。
(つづく)
【田中直輝】
コラム
本誌記者が輪島市・珠洲市を取材能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市と珠洲市を、8月9、10日に、訪れた。輪島市に入ると、ところどころでブルーシートで屋根を覆われた多くの民家が目に入ってきた。ほとんどの住宅が古い木造戸建で、なかには生活感が感じられない家も見られた。地震後に転居した人たちも多く、輪島市の人口は震災前の23年4月時点で約2万3,000人だったが、震災後の人口は2万1,238人(24年10月1日現在)まで減少している。その後、市中心部にある道の駅へ向かったが、途中には大きく傾いた電柱や将棋倒しとなり倒壊している複数の家屋など、能登半島地震の爪痕が生々しく目の前に広がっていた。
お昼時、道の駅に併設されている飲食店には10名ほどのお客さんが入っていたが、道の駅自体にはまったく商品を置いておらず、稼働はしていなかった。震災から半年以上が経過していたが、多くの人の日常は戻ってきていない。また、珠洲市では家屋が倒壊しているほか、津波で流されたであろうさまざまなものが、数カ所の空き地に分けて山積みされていた。さらに埠頭には大きな段差が生じており、地震の脅威を改めて感じた。
【内山義之】
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