2024年11月21日( 木 )

住宅ストックへの地震対策に課題(後)

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 今年1月に発生した能登半島地震では、多くの住宅で倒壊・半壊・火災の被害が発生。多くの死者、けが人を出した。老朽化した住宅の倒壊による被害が目立ったが、これは今後発生する大規模地震において全国、そして九州、福岡県においても起こり得ることで、国や自治体、住宅事業者、そして生活者に改めて大きな課題を投げかけたかたちとなった。人命や財産の安心・安全をどのように確保すべきか。ここでは、地震に代表される災害大国で暮らすうえでの備えについて、改めてフォーカスする。

国がマニュアル作成

「木造住宅の安全確保方策マニュアル」の表紙
「木造住宅の安全確保方策マニュアル」
の表紙

    一方で、課題は住宅ストック(既存住宅)だ。その所有者の多くが高齢者世帯である地域では、住宅の耐震化率が相対的に低く、その要因として資金力不足や動機不足などが考えられる。そこで国は今年8月、居住者の命を守る観点から、地震へのリスクを低減するための暫定的・緊急的な方策も含めたマニュアル「木造住宅の安全確保方策マニュアル-耐震化のさらなる促進と減災化に向けて-」(全58ページ)を提示した。

 その内容は、居住者はもちろん住宅事業者にとって示唆に富むものであるため、以下で紹介する。内容は、①住宅の耐震化の促進、②地震からリスクを低減するための方策、③日頃からの災害への備えの3編で構成されている。

 このうち、①住宅の耐震化の促進では、住宅の所有者が耐震診断や耐震改修の実施を検討する動機づけが最も重要であり、耐震改修に対するインセンティブを付与する制度が用意されていることに言及。住宅の耐震化を支援する制度として、補助制度(住宅・建築物安全ストック形成事業の住宅・建築物耐震改修事業:社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金の基幹事業)、住宅金融支援機構による融資制度、耐震改修促進税制があり、これらを有効に活用しながら耐震化を進める必要があるとしている。このうち、融資制度のリフォーム融資(耐震改修)は、融資上限額(工事費が上限)が1,500 万円、借入申込時の年齢が満 79 歳未満の人としており、利用条件の間口が広く、高齢者でも借りやすい融資条件などとなっていることなどを紹介している。

 ちなみに、福岡県では「木造戸建住宅性能向上改修促進事業補助金」制度を設けている。対象は、1981年5月以前に建築された2階建以下の木造戸建住宅で、耐震診断の結果、倒壊の危険性があると判断された住宅。壁や基礎の補強について費用の一部を、市町村を通じて補助している。このほか、耐震診断アドバイザーを派遣し、地震に対する強さを総合的に診断する制度も設けている。具体的には、床下・小屋裏に進入して調査し、目視で壁の仕様などを確認する一般診断が6,000円(利用者負担)、目視による簡易診断が3,000円で受けられる。

耐震シェルターのイメージ
耐震シェルターのイメージ
「防災ベッド」のイメージ
「防災ベッド」のイメージ

    マニュアルに話を戻すと、より即効性がある「部分的な耐震改修工事」の実施についても紹介されている。寝室やリビングなど主要な居室のみに、建物が倒壊してもその重みに耐えられる「耐震シェルター」と呼ばれる補強工事を実施する取り組みがその代表例。導入している自治体の補助金額も含めた在り方を明示することで、実際に工事を実施する際の様子をわかりやすく説明している。また、より安価な取り組みとして、耐震シェルターと同様の性能があり、最も地震時に逃げにくい就寝時に対応する「防災ベッド」にも詳しく触れている。

 マニュアルでは「日頃からの災害への備え」として、地震時の安全性の確保のため、家具の転倒防止、ガラス飛散の防止、感震ブレーカーの設置、自動消火機能付きコンロの設置、棚ストッパーの設置などの取り組みの重要性にも触れている。また、いざというときの備えとして、防災備蓄の確保、避難袋の用意、家族での避難場所や連絡手段の確認といった、災害への備えも推奨。家具などの固定ができない場合には、家具などによる被害を受けにくくするため、家具などと就寝部分の関係や出入口付近・廊下の避難経路に留意し、家具などの配置、就寝時の場所を工夫することも重要だと指摘している。このように、表題に「木造」と表記があるが、戸建・共同住宅、住宅工法の如何に関わらない、住宅耐震のバイブル的な豊富な事例紹介が盛り込まれており、暮らしの防災・減災の観点からも一度目を通しておくと良いだろう。

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 今年は8月8日に九州南部・日向灘を震源とするマグニチュード(M)7.1の地震(最大震度は6弱)が発生。気象庁は、南海トラフ沿いで近い将来に「巨大地震」が発生する危険性が高まっているとして、初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。同15日に臨時情報発表にともなう政府としての特別な注意の呼びかけは終了したが、政府はその後も注意喚起を呼びかけている。前出マニュアルは、そうした国の危機感を反映したものといえるだろう。

 福岡県では2005年に発生した「福岡県西方沖地震」(マグニチュード7.0、最大震度6)以来、大きな地震が発生していない。しかし、福岡市の中心部直下にある「警固断層帯」の危険性などがこれまでに指摘されている。23年に福岡県がまとめた防災計画によると、今後、警固断層ではマグニチュード7.2程度の地震が発生するリスクが想定され、地震による死者は1,147人、約1万8,000棟の建物が全壊するとしている。国の地震調査研究推進本部によると、警固断層で地震が発生する確率は最も高い「Sランク」でもある。不安を煽る意図はないが、福岡県でも地震対策、とくに住宅における対策は不可欠だ。

(了)

【田中直輝】

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