24時間空港「福岡空港」の門限問題 山積課題に対症療法をいつまで続ける?(前)
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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川弘 氏福岡空港は過密問題への対応として第2滑走路の増設が行われている。しかし、第2滑走路は2,500mと短く離陸にしか使われない。さらに平行する2本の滑走路は近接するため同時離発着はできず容量拡大への効果は限定的だ。そればかりでなく福岡空港はさまざまな課題が山積している。対症療法をこのまま続けるのか。福岡が国際都市として飛躍するための戦略的な視点から、福岡空港の在り方について今一度真剣に議論すべき時がきている。
はじめに
いよいよ来年2025年の春に福岡空港の増設滑走路の共用が開始される。現在そのための最終整備工事が急ピッチで進められている。
この福岡空港増設滑走路整備事業は、04~09年に行われたPI手法による「福岡空港の総合的調査」の結果を基に、福岡空港過密化対策として、最終的に当時の麻生渡福岡県知事と吉田宏福岡市長が地元意見として国に提出した「現空港での滑走路増設」の要望に基づく。
また13年6月には、「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律」が成立したことを受け、同年7月に国土交通大臣は福岡県知事に、福岡空港の民間委託に関する地元の意見を求めた。
これにより全7回にわたる福岡空港運営検討協議が重ねられ、その後、西鉄グループを中心とした「福岡エアポートHDグループ」が福岡空港の民間委託先として優先交渉権を得て、19年4月1日から管理事業者として福岡国際空港(株)に名称変更し、運用が開始。ターミナルの整備や路線の拡大、周辺整備など幅広く整備を行っている。
筆者は今年2月、国土交通省九州地方整備局のご厚意により、建設中の管制塔に上がらせてもらった。真冬の寒風吹きすさぶなか、地上70mの最上階(当時)からの景色は、福岡空港全域が見渡せる眺望であった。
現在はすでに管制塔最上部の管制管理室部分まで立ち上がり、地上94.2mの高さにまでなっている。これは羽田空港(115.7m)に次ぎ国内で2番目の高さだそうだ。
福岡空港の利用時間について
さて、福岡空港が長年抱え続けている問題は大きく5つある。
①滑走路の容量限界
②24時間使えない(利用時間の制限)
③莫大な環境対策費
④航空法による福岡都市圏の高さ制限
⑤市街地の安全確保これらのうち、①の容量限界については、増設滑走路ができることによって多少緩和される予定であるが、慢性的な混雑空港であることには変わりはない。増設滑走路が完成し共用が開始されてから、いずれその結果と将来的な需要予測が発表されるであろう。
大きな問題は②の「24時間使えない空港」ということだ。国土交通省大阪航空局のホームページの空港概要には、運用時間:24時間(利用時間7時00分~22時00分)とあり、一方、現在福岡空港の運営会社である福岡国際空港(株)(FIAC)の運用規程の第1条に『福岡空港(以下、「空港」という。)の運用時間は、24時間(ただし、定期便ダイヤ設定時間は、7:00~21:55、離着陸は原則として7:00~22:00)とする。』と定められている。
福岡空港の歴史と騒音訴訟「最高裁判所判決」
なぜ、福岡空港の運用時間は24時間なのに、利用時間に制限があるのか?
これには、福岡空港の歴史的背景がある。そもそも1944年2月-帝国陸軍航空部隊の席田(むしろだ)飛行場として建設を開始。戦時中に日本陸軍の強制接収により、板付空港がつくられ、終戦後アメリカ軍が板付基地として接収。朝鮮戦争時、板付空港から多くの米軍機が飛び立つ。
その後70年に板付飛行場の返還、運輸省への移管が決まり、72年4月にアメリカ軍より大部分が返還され、「第二種空港」として共用を開始し、それにより「板付空港」から「福岡空港」へと名前も変わったが、戦後復興・朝鮮戦争特需などとも重なり、もともと農地であった空港の周辺地域が市街地化し、周辺地域に住む住民団体が騒音被害を訴えるようになった。
76年3月の第1次騒音訴訟(住民368名)では午後9時~翌朝午前7時までの使用禁止と慰謝料を求め提訴。その後81年10月には第2次騒音訴訟(住民96名)が提訴。長年にわたり市民と国が法廷で争うことになった。
結論として、94年6月1日に最高裁判所にて上告棄却の判決がくだされた。航空機騒音について、受任限度を超えるとして損害賠償請求は認められた(慰謝料として1.4億円、一部は2審で確定)が、夜間飛行差し止めは退けられた。この最高裁判決により、福岡空港は24時間利用が確定したわけだが、国は地元住民に配慮して福岡空港の利用時間を午前7時から午後10時までに自粛するに至った。というのが現在の福岡空港の利用時間が定められた経緯である。
「福岡空港の門限問題」最近の事例
さて、福岡空港の利用時間制限についての歴史的経緯・背景を把握したうえで、最近の「福岡空港の門限問題」の事例について記述する。この「福岡空港の門限問題」は最近とくに頻繁に起こっており、大きな社会問題となっている。
【23年2月19日】JAL機 羽田にUターン
羽田発福岡行きの日本航空(JAL)331便が、機材繰りなどで時間がかかり、定刻より約1時間15分遅れの午後8時ごろに羽田を出発した。しかし、午後10時前に福岡付近に着いた際、空港が混雑し管制から上空での待機を指示されたが、午後10時を過ぎ門限に間に合わず、燃料補給のために関西国際空港を経由した。しかも、福岡空港に着陸できないということで、同便は引き返して翌20日午前2時50分に福岡から約1,000km離れた羽田空港へ約7時間かけて戻った。
【23年6月11日】JAL機 目的地を北九州に変更
福岡空港行きの日本航空(JAL)331便は午後6時45分に羽田空港を出発する予定だったが、エンジンに不具合が生じ、機体変更することになり、出発が大幅に遅れるため福岡空港に着陸可能な午後10時に間に合う時間に出発できなくなったことにより欠航し、乗客はいったん飛行機から降ろされたが、その後臨時便として約3時間遅れで羽田空港を出発、目的地を北九州空港に変更して午後11時18分に着陸した。到着後、乗客280人は日本航空が手配したバス5台に乗って福岡市内まで移動した。
【23年6月15日】JAL機 北九州への代替着陸(ダイバート)が続く
福岡空港行き最終便の日本航空(JAL)335便が、エンジントラブルのため、臨時便として16日未明に北九州空港に代替着陸(ダイバート)を行った。北九州への代替着陸(ダイバート)は6月11日に続き2回目となる。
【23年9月5日】フィリピン機 マニラにUターン
格安航空会社セブ・パシフィック航空のフィリピン・マニラ発福岡行きの旅客機が午後8時ごろ福岡空港に着陸しようとしたが、パイロットの事情で着陸をやり直した。ところが上空待機をする間に時間を要し、燃料が足りなくなる恐れが生じた。そのため午後8時半ごろ北九州空港に緊急着陸し給油を行おうとしたが、今度は給油に時間がかかり、福岡空港が騒音対策として定める午後10時の門限に間に合わなくなった。
北九州空港では、入国管理官や検疫、税関などの対応ができなかったため、結局同機はそのままUターンすることとなり、5日午前3時半ごろマニラに到着。乗客125人が缶詰状態から開放されたのは出発から約11時間後だった。
【24年3月19日】ANA機 北九州への代替着陸(ダイバート)
午後7時に羽田空港を出発し福岡空港に向かう予定だった全日空269便は機材調整のために福岡空港の門限である午後10時に到着できない見込みとなった。このため全日空は臨時便を用意し271人が福岡空港ではなく北九州空港に着陸し、バスで福岡に向かうなどした。
【24年5月19日】フィリピン機 関西空港へ代替着陸(ダイバート)
格安航空会社セブ・パシフィック航空のフィリピン・マニラ発福岡行きの旅客機が、福岡空港の「門限」の午後10時までに着陸できず、関西空港(大阪府泉佐野市)に行き先を変更した。本来の飛行時間は3時間だったが、乗客は約8時間、機内から出られない状態だった。
(つづく)
<プロフィール>
下川弘(しもかわ・ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、2021年11月末に退職。03年4月熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程入学、05年3月同大学院中退。現在、(株)アクロテリオン・代表取締役、C&C21研究会・理事、久留米工業大学非常勤講師。法人名
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