食の魅力発信地へ 「シン・長浜」(前)
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漁業関係者や魚の目利きが集う鮮魚市場と、他地区とは異なる雰囲気の屋台街──。福岡市中央区の長浜地区は、かつて「長浜ラーメン」で有名であったものの、集うのは地元住民を主とする比較的地味な印象のまちだった。しかし、2023年6月の「長浜屋台街」の復活に続き、直近では24年11月9日に福岡市中央卸売市場鮮魚市場内で魚食普及推進施設「うおざ」がオープン。福岡の食をアピールする、観光客も含めた多様な人々にとって魅力あるまちに変貌しようとしている。
象徴的存在の鮮魚市場
長浜地区は北側を博多港に面し、北天神や那の津、港、舞鶴、大手門の各地区と隣接する。天神地区にも近く、九州朝日放送(株)や浜の町病院などがあるエリアが1丁目、その西隣でマンションが密集するエリアが2丁目、海側の福岡市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場)がほぼ全体を占める3丁目で構成される。かつては、鹿児島本線貨物支線(博多臨港線)の貨物駅(福岡港駅・福岡市場駅、1985年までに廃止)が存在し、鮮魚市場の南側を通る「長浜1449号線」あたりを通っていた。長浜1丁目の「ざうお」と「天然温泉 天神ゆの華」の跡地に「ケーズデンキ福岡長浜店」が8月末にオープンしたが、その土地の所有者は日本貨物鉄道(株)(JR貨物)であり、そのこともかつて長浜地区に鉄道路線と駅があったことの名残である。
長浜地区を象徴するものといえば、長浜鮮魚市場と長浜屋台街だろう。前者は1955年に開業。敷地面積約12万m2を誇り、玄界灘や日本海、東シナ海などで水揚げされた新鮮な魚介類が九州・西日本各地から集まり、年間約300種類の豊富な魚種を取り扱っている。全国でも有数の規模を誇る同鮮魚市場は、「魚のおいしいまち・福岡」を支える存在だ。これまでに幾度も整備事業が行われており、敷地内にはセリ場のほか、冷蔵施設、そして市場会館には飲食施設や展望フロアもあり、福岡市を訪れる観光客にも人気がある。その鮮魚市場内に2024年11月9日、魚食普及推進施設「うおざ」がオープンした。
長浜地区は、博多ラーメンのルーツともいえる「長浜ラーメン」の発祥地だ。あっさり風味の豚骨スープと細いストレート麺が長浜ラーメンの特徴で、鮮魚市場で忙しく働く人たちの胃袋を短時間で満たすため、「替え玉」が生まれたのは有名な話だ。市場の外周には長浜屋台街が形成され、中洲・天神に並ぶ屋台街として広く認知されてきた。このように、市民には古くからなじみがあるエリアであるが、公共交通機関によるアクセスがバスやタクシーに限られることから、他の繁華街ほどの賑わいはなく、どちらかといえば地元民がお酒のシメにラーメンを食べに訪れる、というイメージのまちであった。
屋台街の復活
長浜の屋台街は、かつて存続が危ぶまれる時期があった。最盛期に15軒の屋台が並んでいた長浜の屋台街だが、16年2月に150m南東の現在の位置に移転以降、廃業や休業が相次ぎ、残った屋台は「さよ子」1軒のみになった(もう1軒休業していた屋台もあった)。屋台営業には一代限りの原則があることから、店主が高齢化したほか、通常の屋内店舗に移行したことなどが主な要因だ。とくに屋内店舗への移行は多店舗化と同時進行し、それにより長浜ラーメンが他地域でも食べられるようになり、わざわざ長浜地区まで足を運ばずに済むようになったことも、長浜屋台衰退の要因の1つだと考えられる。
実は長浜屋台街で起こっていた事態は、中洲・天神の両地区でも同様に進行していたため、都市の魅力に大きな貢献をしてきた「福岡三大屋台街」の衰退に危機感を抱いた福岡市は、16年から新規公募を実施。それにより、中洲と天神では新たに事業者が参入し、活気を取り戻すことに成功したが、唯一、新規事業者が現れなかったのが長浜地区だった。結局、22年の第4回公募において7人の事業者が選ばれ、既存の2軒と合わせて9区画がすべて埋まり、23年6月に「復活」。今に至っている。まだまだ知名度の面で他の屋台街には劣っている状況で、復活から1年となった今年6月、屋台街の真ん中に出現した高さ約2mの「屋台ガチャ」(なかに長浜屋台街のステッカーやキーホルダーなどといったグッズが入っている)を設置するイベントを行った。
そうした屋台街独自の取り組みのほか、徒歩10分の最寄り駅である福岡市地下鉄・赤坂駅に案内表示をするなどといった行政の施策の効果もあり、直近では外国人を含む観光客の姿もよく見られるようになり、賑わいが徐々に形成されているように感じられる。ある日本人観光客は、「中洲の屋台街にも足を運びましたが、長浜は中洲に比べ落ち着いて食事を楽しむことができ、トイレが近くにあるのも好印象です」と話していた。福岡ソフトバンクホークスがパ・リーグ優勝を決めた日には、長浜屋台の1軒「長浜市民球場」に多くの客が集まり優勝を祝うなど、店舗関係者や客同士の心理的距離がより近い、つまり親しみやすいということも、長浜の屋台街の魅力の1つといえそうだ。
(つづく)
【田中直輝】
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