明らかになるトランプ関税 中国製品、メキシコ・カナダへの関税 日本企業への影響は

国際政治学者　和田大樹

    米国大統領選挙でトランプ氏が圧勝し、議会の上院と下院で共和党が過半数を占めたことで「トリプルレッド」と呼ばれる状況が到来することになる。トランプ氏は2期目に入り、再選のための支持率を気にする必要がなくなった。政権人事でも1期目の経験をいかし、忠誠心の高い人物を重要なポストに配置しているため、1期目以上にトランプ色が強まると言われる。

　日本企業への影響という点で懸念されるもののひとつが、米中貿易摩擦の行方である。トランプ氏は、政権2期目において外交・安全保障政策を担う国務長官や安全保障担当の大統領補佐官に対中強硬派を起用する予定である。国務長官には対中強硬派のマルコ・ルビオ上院議員が予定されている。彼は新疆ウイグルの人権問題を強く非難し、台湾への軍事支援を支持している。安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ下院議員が予定されている。彼もまた中国海軍の軍備拡張に対抗するため、米海軍の艦船や装備の増強を訴えている。このような抜擢を見ても分かるように、第2次トランプ政権が中国に対して厳しい姿勢を取ることは明らかだろう。

　そして、第2次トランプ政権における米中対立の主戦場は経済や貿易の世界となる。トランプ氏は選挙戦の最中から中国製品に対する関税を一律60％、その他の諸外国からの製品に10％から20％、メキシコからの輸入車に200％の関税を課すなどと主張してきた。最近になって具体的な関税率は異なるものの、就任初日から中国製品に10％の追加関税、メキシコ・カナダからの全輸入品に25％の関税を課すと明らかにした。

　これによる日本企業への影響も避けられない。中国で製品をつくり、それを米国へ輸出する日本企業はトランプ氏が主張する10％の追加関税の壁に直面することになる。また、メキシコで自動車を生産し、それを米国へ輸出しているトヨタや日産など大手自動車メーカーも25％のトランプ関税に直面することとなる。

　トランプ氏は自らを「タリフマン（関税男）」と称し、政権1期目において米国の対中貿易赤字を是正するため、2018年から4回にわたり中国製品に最大25％、3,700億ドル相当の関税を課す制裁措置を次々に打ち出してきた。それに対し、中国も報復関税を課すなど、米中間の貿易摩擦は激化していった。来年1月以降、トランプ関税は主に中国を標的として発動されるだろうが、日本企業は日々グローバルサプライチェーンの点検を余儀なくされるだろう。

　一方、日本企業への影響という点では、中国の対日姿勢がソフト化される可能性がある。習近平国家主席は11月のG20首脳会議で、孤立主義や保護主義に反対する立場を示した。名指しこそしなかったものの、これはトランプ氏の保護主義的な動きを意識した発言と見られ、中国にはバイデン政権下で顕著になった経済安全保障上の対中多国間協力を崩す狙いがある。米国の保護主義が世界経済に対する脅威であると訴え、欧州や日本などを米国から引き離したいという中国の意図が見え隠れする。また、中国経済はかつての勢いを失い、不動産バブルの崩壊や高い失業率などの問題に直面しており、その状況でトランプ氏の高関税に対応することへの懸念がある。

　中国としては、トランプ政権の保守主義こそが脅威であると強調し、欧州や日本との関係を維持、強化したいという狙いがあるはずだ。最近、日本人向けの短期滞在ビザの免除措置が4年半ぶりに再開されたが、こういった中国側の事情が影響している可能性もある。今後の日中の経済関係がどうなるかは不透明な部分が多いが、今後中国の対日姿勢がソフトになることが、中国に進出する日本企業にとって明るい兆しになるかもしれない。

＜プロフィール＞
和田大樹（わだ・だいじゅ）
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫　海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap