2025年01月22日( 水 )

往復割引・連続乗車券・連絡乗車券廃止について(前)

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運輸評論家 堀内重人

 JRグループは2日、2026年3月で往復乗車券・連続乗車券やJR各線と連絡会社線に跨る連絡乗車券も含めて、廃止することを発表した。往復乗車券が廃止されることにともない、片道の乗車km数が601kmを超えた場合に適用される“往復割引”も、廃止されることになった。連続乗車券やJR各社との連絡乗車券も廃止が予定されており、「青春18きっぷ」の改悪時と同様に、SNS上ではまた騒動になっている。これらの乗車券が廃止される背景を分析すると同時に、JRに対する負の効果についても言及したい。

往復割引乗車券の概要と誕生した経緯

 往復割引とは、JR線で片道601km以上の距離を往復する場合、復路の運賃が2割引になる制度である。東京~岡山間を移動する場合、片道601km以上あるため往復割引が適用されるが、東京駅から新神戸駅の場合は、片道601kmを超えていたとしても神戸市内の駅となるため往復割引は適用されない。これが西明石駅となれば、神戸市内ではないことから往復割引が適用されて復路の運賃が2割引になる。

 このような制度が導入された背景として、国鉄の深刻な利用者離れが挙げられる。国鉄は1976年以降、ほぼ毎年運賃の値上げを実施していたため、長距離輸送に関しては新幹線のグリーン車や寝台特急のA寝台車を利用すると航空機よりも割高になり、大幅な国鉄離れが進んだ。そこで、国鉄離れを食い止める必要があって往復割引の適用が始まった。

 「片道601km以上」としたのは、東京~大阪間であれば片道の乗車km数が550km強である上、東海道新幹線は世界有数のドル箱路線であり、ビジネスマンが新幹線を利用して出張するために減収になる危険性があるからだ。

 一般的に割引の重複適用はできないが、往復割引に関しては学生であれば「学割」も適用された。学割も適用する場合、往路の運賃が2割引で復路は3割6分引と、割安になった。国鉄としては利益が出づらくなるが、学生に利用してもらうことで、将来の顧客としたい思いがあった。

乗客には理解しづらいルール

 東京~新神戸間を往復する場合、西明石まで購入する方が距離は長くなるが、往復割引が適用される結果、東京~新神戸間の往復乗車券を購入するよりも運賃は割安になる。もちろん、新神戸駅で途中下車して新神戸から西明石間は利用しなくても問題はない。復路も、西明石駅ではなく新神戸駅から乗車してもまったく問題はないが、旅慣れない利用者には理解しづらかった面は、確かにある。

 鉄道の場合、「運賃」と「料金」があり、特急料金であれば、途中下車した場合に前途が無効になってしまう。旅慣れない人は「運賃」と「料金」の区別が付かないため、混乱してしまった感はあった。

JR側の言い分

 JR旅客6社は2日、往復乗車券だけでなく連続乗車券やJR各線と連絡会社線に跨る連絡乗車券も含めて、26年3月に発売を終了すると発表した。利用者には便利でお買い得な切符が廃止されるため、利用者からの反発は必至である。新幹線と在来線特急・急行列車を乗り継ぐ場合に適用されていた「乗り継ぎ割引」の廃止や、先日の「青春18きっぷ」の改悪に相当するくらいの不満の声が聞こえる。

 連続乗車券は、別名「一筆書き切符」と言われる。例を挙げると、東京から京都へ行く場合に往路は東海道新幹線を利用するが、復路は京都から敦賀へ出て、そこから北陸新幹線を利用して東京へ戻るという乗車券である。つまり往路と復路の経路が異なり、周遊するかたちで1枚の乗車券で完結する乗車券である。この乗車券にすれば、乗車券類の購入が1度で済むだけでなく、距離が長くなるため有効日数も伸びる利点がある。

サフィール踊り子 イメージ    連絡乗車券とはたとえば、東京から伊豆急下田や修善寺へ行く際に発行される乗車券である。東京から伊豆急下田へ行く場合は、伊東から先は伊豆急行鉄道となる。東京から修善寺の場合は、沼津から先は伊豆箱根鉄道となる。東京から伊豆急下田や修善寺間には、特急「サフィール踊り子」や「踊り子」が運転され、各民鉄へ乗り入れている。大都市圏では、JRとほかの民鉄や地下鉄などとの連絡乗車券も該当する。連絡乗車券を考える場合、JRの特急列車などが乗り入れる鉄道会社か、大都市圏内で他の民鉄や地下鉄との連絡乗車券であるかを、分けて考える必要がある。

 往復乗車券は1887年に販売が開始され、140年程度の歴史がある。連続乗車券も、1958年から販売されているため、65年以上の歴史がある。JR各社が、往復乗車券や連続乗車券とJR各社との連絡会社に跨る連絡乗車券を廃止する理由として、「SUICA」など交通系ICカードやネット予約システムの普及で、販売枚数が減っていることを、表向きの理由としている。

 とくにJR東日本は、往復乗車券の利用が過去5年間で約2割も減少したという。そして指定席券売機やみどりの窓口で発券される中長距離切符の占める割合は、約16%にまで減少しているという。もっとも20年から23年まではコロナ禍であったため、出張などだけでなく外出控えによる旅客需要も減少しているため、その点は注意深く考慮する必要がある。

 ネット予約の「新幹線eチケット」や「EX予約」でも「往復割引」は適用されているが、こちらの取り扱いに関しては、現時点では未定としている。JR各社は、「往復乗車券は、払い戻しや行き先変更をみどりの窓口で行う必要がある。ネット予約には、より割安な商品があるので、そちらを利用してほしい」と考えている。つまり利用者を、ネット割の乗車券へ誘導したいのが本音である。

(つづく)

(中)

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