熊本市交通局の公社化の是非(前)
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運輸評論家 堀内重人
要旨
熊本市内の路面電車の運行に関しては、熊本市交通局が運営を担っているが、これを「(一財)熊本市公共交通公社」に移行する計画がある。熊本市公共交通公社は、2024年7月に設立されており、25年4月からは路面電車の運行を公社に移管し、熊本市はインフラ・車両などを所有するかたちで、上下分離経営を実施する計画だったが、このほど、1年近く延期されることになった。
インフラを「公」が担い、列車運行を公社が行う事例としては、韓国のKORAILが該当する。韓国では列車の運行を大韓民国鉄道庁が運営する国鉄が担っていたが、経営改善とサービス向上を図るため、インフラは国が所有するかたちで、運行はKORAILという公社を創設している。今回はそうした韓国での事例も紹介する。
公社化実施の背景
熊本市電は、熊本市交通局により運行されている。熊本市交通局は、日本の路面電車で最初に交流モーターによる車両を導入したり、低床式の車両も他社に先駆けて導入したりするなど、先進的な取り組みを行う事業者である。
だが昨今では、施設や車両の老朽化に加え、経営上の問題などから電車の運転士や、整備を行う技術系の正規職員が、新規に採用できない状況にある。また、運転士不足による減便をせざるを得ない状況にもある。
熊本市は、運転士の正規雇用化をすることで、雇用環境が安定化するため、運行本数を間引くことなく、以前のように安定した運行を担保したいとしている。また、「上下分離経営」の導入で、インフラや車両の維持管理費の支払いが免除され、路面電車の運行に専念できると考えている。その際、熊本市交通局という熊本市の直営事業者ではなく、公社化することで、より柔軟な経営を実現させ、サービス向上も図りたいとしている。
新規に設立した公社の名称は、「熊本市公共交通公社」であり、現在の熊本市交通局舎内に事務所がある。出捐金は6,400万円で、24年7月1日に設立している。熊本市は、24年度予算で出捐金を計上しており、今後は上下分離経営の導入と延伸を盛り込んだ軌道運送高度化事業の実施計画を申請している。
上下分離経営はインフラ部分を「公」が担い、運行は公社や民間事業者が担う経営スタイルであり、経営状況に関しては「上」に相当する列車運行だけを見て判断する。
上下分離経営が採用されると、インフラの維持管理と列車運行というかたちで、垂直に鉄道システムが分離される。鉄道事業者は、インフラの維持管理から解放されることから、固定資産税の支払いが免除されるだけでなく、メンテナンスからも解放されるため、経営状態が改善する。
路面電車やLRTにおいては、札幌市電と富山地方鉄道富山港線だけでなく、栃木県の宇都宮市・芳賀町のライトレールでも、上下分離経営が導入されている。路面電車やLRTは、車体が軽量であるだけでなく、運行速度も軌道法では最高速度40km/hであるから、インフラのメンテナンスをほとんど必要とせず、上下分離経営を実施しても、大きな影響はない。
熊本市は、熊本市電の公社化と上下分離経営を導入することに加え、健軍町停留場から市民病院前停留場(仮称)まで延伸させ、路線長1.57kmの東町線の整備も計画している。
(つづく)
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