熊本市交通局の公社化の是非(中)
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運輸評論家 堀内重人
公社化延期の理由
熊本市交通局は、熊本市公共交通公社へ経営移管することが決まり、25年4月から公社化される予定であったが、市電では24年に入り、扉を開けたままの走行や、赤信号の交差点に誤って進入するトラブルが相次いだ。24年に入ってから、これまでに14件の報告が上っている。
事態を重く見た国土交通省九州運輸局は、9月に改善を指示。熊本市も、10月に対策の中間報告書をまとめ、熊本市交通局は乗務員教育や車両設備の管理徹底などの再発防止策を打ち出す。
だが市議会からは、運転士不足など構造的な課題を指摘する声も上がっている。そんな中、11月にも赤信号での交差点進入が2件続き、熊本市は事態を重視した。
大西一史市長は11月22日、市議会運営委員会で「安全管理の見直しを進めるなかのことで、市民に深くおわびする。安全の再構築のため、市電の運行を熊本市公共交通公社に移す計画を延期する旨を説明した。公社化延期にともない、上下分離経営の導入も延期になった。
熊本市公共交通公社への運行を移行する時期は未定だが、安全対策などで1年近く延期される可能性がある。熊本市公共交通公社へ経営が移管されると同時に、上下分離経営も実施されることになる。
韓国国鉄の公社化
韓国では列車の運行を大韓民国鉄道庁が運営する国鉄が担っていたが、05年1月1日からは、韓国鉄道公社(KOEAIL)が大韓民国国鉄の運行を継承している。本社は、大田(てじょん)広域市にある。インフラは、国家鉄道公団が所有しており、列車運行はKORAILが担っているため、上下分離経営が実施されている。
KORAILは、旅客列車、貨物列車の他、韓国高速鉄道(KTX)や広域電鉄の運行、さらには天安にある鉄道博物館の運営も行っている。
韓国で鉄道が公社化された理由として、国鉄が慢性的な経営赤字だったことが挙げられる。韓国は北朝鮮と国境を接していることもあり、「準戦時下」にある。仮に民営化すれば、戦争など有事の際、物資の輸送や兵隊の輸送を担ってくれない可能性がある。そこで国鉄よりも、柔軟な経営が可能となるように鉄道を公社化した。
韓国では、鉄道の公社化にともない、老朽化した車両などの更新を実施した。また高速新線が開業したとしても、在来線の優等列車を廃止して、高速鉄道へ需要を誘導するようなこともしない。在来線の優等列車は、高速鉄道の恩恵に享受しない地域もフォローしているため、利便性は維持されている。
だが上下分離経営を実施しているため、インフラの維持管理から解放されるので国鉄時代よりは赤字額が減少しているものの、赤字経営から脱却できていない。これは政策的に運賃が低く据え置かれていることが起因する。
KORAILは、23年から25年までの3年間で、1兆2,000億ウォン(約1,330億円)を上回る当期赤字を計上する見通しである。23年から、今後5年間の利子費用だけでも、1兆8,000億ウォン(約2,000億円)と予想されている。
韓国政府は、慢性的な赤字経営が続くKORAILの経営改革を推進したいが、経営改革を行うとなれば、リストラや運賃の値上げがともなうため、全国鉄道労働組合(鉄道労組)が反対する。そして23年8月には、4年ぶりのゼネストに突入した。
(つづく)
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