2024年12月19日( 木 )

熊本市交通局の公社化の是非(後)

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運輸評論家 堀内重人

充実する高速鉄道

 慢性的な赤字経営のKORAILだが、国鉄の公社化は高速鉄道のサービス改善にも貢献している。16年12月9日に、KORAILの子会社である(株)SRが、KTXとは別の「SRT」という高速列車の運行を開始した。韓国では、インフラは公的部門が保有するかたちで、上下分離経営が実施されているため、SR社は列車を運行するのみの事業者である。この列車は、外観はKTXと似ているが、KORAILの子会社が運行するため、運賃が約1割引となる。その結果、韓国では2種類の高速列車が運行されることになった。

 SRTが運行を開始した経緯であるが、KTXとSRTを競わせて、サービス向上を目指したわけではない。1番の理由としてKTXのソウル駅周辺の輸送力不足解消が挙げられる。

 04年に開業した韓国高速鉄道のKTXは、開業以来、ソウル駅や1つ釜山寄りの龍山駅から衿川区庁(クムチョングチョン)駅付近までの区間は、全列車が在来線の京釜線を走行している。韓国では、在来線も高速鉄道も、ゲージ幅が同じであるから、在来線と高速新線の直通化が可能となっている。

 だが、この区間の線路容量が飽和状態になるという問題が発生した。まずは線路容量不足を解消する必要がある。また発展が著しいソウル江南・江東地域や、首都圏東南部(水原市・華城市・平沢市周辺)地域は、ソウル駅から離れており、ソウル駅へ行くには、地下鉄を乗り継ぐ必要があった。これらの地区の住民に対し、高速鉄道利用の便宜を図るため、事業が推進された。

 京釜高速線の光明~天安牙山間(天安牙山駅の北17.6km地点)から分岐し、ソウル市南東部の江南区の水西駅までを結んでいる。江南区は、ソウル五輪以降、急速に都市化したため、土地買収が難しいうえ、騒音問題などから、大半の区間を大深度の地下トンネルである全長50.3kmの栗峴トンネルが占めている。このトンネルを含めたトンネル区間は56.939kmと、全線の93%にもおよぶため、総事業費は3兆9,017億ウォンと工費がかさんだ。

 この水西平沢高速線の開業により、SRTの運行が開始され、ソウル市内~釜山間の所要時間が2時間9分に、木浦まで2時間6分というように、大幅な時間短縮が実現した。

総括

熊本市交通局 路面電車 イメージ    熊本市交通局は、公社化を目指している。市が直営で経営するよりも、柔軟な経営ができるため、筆者は公社化に賛成である。鉄道以外に、水道や郵便も公社で運営するのが、望ましいと考える。

 郵便事業に関しても、公社化され、郵便局で便箋や封筒、文房具の販売が実施されるなど、経営面で柔軟性が発揮されるようになった。水道事業も公社化すれば、水道公社が喫茶店事業を展開したり、プールを経営したりするなど、より柔軟な経営が可能となる。

 我が国で「公社」といえば、国鉄が大幅な赤字経営から民営化されたため、「官」の悪いところと、「民」の悪いところを合わせた経営形態のように考えられる傾向にある。

 国鉄が経営面で行き詰まったのは、「日本国有鉄道法」により、経営面で自由度が無かった点と、政権交代が起きなかったことが、大きな要因だと考える。

 もし日本に健全な野党があり、絶えず政権交代が起きていたならば、あそこまで赤字がひどくなることは無かったし、上下分離経営などが採用され、列車運行を担う国鉄(日本国有鉄道)は、インフラの維持管理から解放され、競合する輸送機関に対抗する必要性から、サービス改善なども、実施できたと思っている。

 韓国では、鉄道を改革する必要があったが、民営化してしまうと、戦争などの有事の際、物資や兵士の輸送を担ってくれない可能性があるため、公社化している。

 日本では、公営事業の民営化が良いことのように考えられているが、公は資金力があるうえに許認可などに関して明るいという利点もある。社会インフラなどの公益事業で利益だけを追及するのは望ましくない。不動産投機などには規制を設けるが、上下分離経営を導入しつつ、もう少し関連事業なども実施しやすい公社化が、望ましいのではなかろうか。

(了)

(中)

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