食料は軍事・エネルギーと並ぶ国家存立の3本柱!(5)
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東京大学大学院 農学国際専攻 教授 鈴木 宣弘 氏
国民1人ひとりが真剣に「食」を考える時期
――最後になりました。食の問題は、国民の明日に直接的な影響を与えます。「TPPと私たちの食」の観点から、読者にメッセージをいただけますか。
鈴木 安全な食料を安定的に得られることは、人間の存在にとって不可欠であり、国家として守るべき義務であるはずです。しかし、今日本では、TPPによる関税撤廃や規制緩和の徹底でそれが崩されようとしています。TPPは「食」を極端な価格競争に巻き込みます。安さを求める激しい競争のなかで、安全性への配慮や安全基準までおろそかにされ、食料生活そのものや食ビジネスの利益が一部の国や企業に偏り、世界の人々への安全で安定的な食料供給の確保が脅かされていきます。しかし、この「食」の問題は結局、消費者である読者、国民1人ひとりが自分で解決していかなければならないのです。最終的には、あなたの選択なのです。
私は、長期的・総合的な利益と費用を考慮せずに、食料などの国内生産が縮小しても貿易自由化を推進すべきとする「自由貿易の利益」を語るのは見直しする必要があると考えています。それは、狭い視野の経済効率だけで市場競争に任せることは、「人の命や健康に関わる安全性のためのコストが切り詰められてしまう」という重大な危険をもたらすからです。とくに日本のように、すでに食料自給率が39%まで低下してしまっていると、安全性に不安があっても、輸入に頼らざるを得なくなってしまいます。
私はこのようなときに、スイスの例をよく紹介します。スイスでは、生産過程において、ナチュラルとか有機とか動物愛護とか、生物多様性とか美しい景観にも配慮すれば、できた物もホンモノで安全おいしいので、それは高いのではなく、当然の価格だという感覚を国民は当たり前のように皆持っています。私の体験ですが、現地のスーパーマーケットでは、実際に輸入ものの5倍もする1個80円の国産の卵の方がよく売れていました。小学生でも、「これを買うことで、生産者の皆さんの生活も支えられ、そのおかげで私たちの生活も成り立つ」ということが認識できています。まさに近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)なのです。
今、日本では、1人当たりのGM(遺伝子組み換え)食品消費量は世界一と言われています。日本はトウモロコシの9割、大豆の8割、小麦の6割を米国からの輸入に頼っています。GM作物の種子のシェアの大半は米国の多国籍企業であるモンサント社が握っています。しかし、そのモンサント社の「社内の売店や社員食堂では遺伝子組み換え食品の使用を禁止」しているとの報道もありました。日本人も、読者、国民1人ひとりが、真剣に「食」を考える時期が、今まさに来ています。
――本日はありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
鈴木 宣弘(すずき・のぶひろ)
1958年三重県生まれ、82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授、コーネル大学客員教授を経て、2006年より東京大学大学院農学国際専攻教授。専門は農業経済学。農業政策の提言を続ける傍ら、数多くのFTA交渉に携わる。著書に『食料を読む』(共著・日経文庫)、『WTOとアメリカ農業』、『日豪EPAと日本の食料』(以上、筑波書房)、『食の戦争』(文藝春秋)、『岩盤規制の大義』(農文協)など多数。関連記事
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