建売は在庫調整が必至に(前)
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住宅市場が明らかに縮小している。2024年1月から10月までの累計着工数を見ると、すべての項目で前年同期を下回り、とくにこれまで比較的好調だった分譲戸建で厳しさを増しつつある。大手・中堅パワービルダーは在庫調整による業績の改善を進めているが、今後は比較的小規模のパワービルダーを含む住宅事業者にも影響を与えそうだ。
原価高騰に金利上昇で消費者マインドが低下
新設住宅着工の推移は【表1】【表2】【表3】の通りで、全国、九州、福岡県ともほぼ同様の動きを見せている。2020年はコロナ禍による混乱で、すべての項目が大幅な前年割れとなったが、21年と22年は「巣ごもり需要」などで着工数は反転。とくに22年はこの5年では最も多い85万9,529戸にまで回復した。なかでも注目すべきは戸建の状況だ。注文住宅は価格の上昇傾向が影響し、20年以前から着工数は減少傾向にあった。巣ごもり需要などから21年は復活したが、22年以降は再び減少基調が続いている。
分譲戸建については、着工数は増加傾向にあり、少なくとも戸建市場においては、明らかに注文より分譲のほうが需要に勢いがある状況となっていた。ところが、23年、24年は分譲戸建も減速。2年連続で前年割れとなる公算が高まっている。これは、資材価格を含む物価の上昇、それにともなう施工コストの上昇、住宅ローン金利の上昇などが、住宅取得検討者のマインドを低下させたことに起因している。
なお、福岡県の24年10月までの累計の新設住宅着工の状況を見ると、全国・九州の着工状況よりも厳しい数値となっている。これは前述した要因に加え、本来需要が多い福岡都市圏を中心に土地価格が上昇していることもマイナス要因となっているからだと目される。いずれにせよ、25年以降もプラスに働く要素が見られないため、全国・九州・福岡県のいずれにおいても低調に推移していくだろう。
大幅減益となった飯田グループHD
さて、ここからは分譲戸建に注目し、なかでも大手・中堅パワービルダーの動向を確認しておきたい。分譲戸建に注目するのは、前述したようにこれまで比較的堅調に需要があり、それにともなう着工があったためであり、それがどのように推移していくのかは今後の住宅市場を予測するうえで重要だからだ。また、大手・中堅パワービルダーの動向について確認するのは、こちらも市場動向のこれからを占ううえで重要だからである。まず、最大手の飯田グループホールディングス(株)(東証プライム、以下飯田GHD)について見ていく。同社は一建設(株)や(株)飯田産業、(株)東栄住宅、タクトホーム(株)など11社を傘下に置き、年間4万棟超を販売する、販売棟数ベースでは日本最大の住宅会社である。
24年3月期は売上高1兆4,391億8,000万円(前期比0.0%減)、営業利益591億7,400万円(同42.2%減)、当期利益372億400万円(同50.8%減)と大幅な減益となっていた。戸建分譲事業の年間販売棟数が4万493棟(ほかにマンション1,740戸、注文住宅2,587棟)で、前期と比べ333棟減少。土地価格の上昇や資材価格高騰による建物価格の高止まりによる1棟平均単価(3,006万円、土地含む)の上昇などが、消費者の購買マインドの低下につながり、販売棟数の減少につながった。同社は23年期も営業利益で前期比33.2%の減益となっていることから、2期連続の減益を余儀なくされたかたちだ。
話を24年期の業績に戻すと、同社は23年期の第4四半期以降、在庫調整を進めている。在庫の増加は、資金回転率低下や借入金の金利負担の増大などの問題があり、年間に4万棟もの住宅を販売する飯田GHDにとってはその影響も大きなものとなる。【グラフ1】は飯田GHDの主要6子会社の未契約在庫数の推移だが、こうした理由から23年12月をピークにここ2年では最小の在庫数までに減少させている。同社は今後の販売用在庫について、引き続き「厳選した土地仕入れを行っていく」という方針を示している。
25年3月期の中間決算では、売上高が6,871億1,900万円(前年同期比2.3%増)、営業利益379億2,100万円(同3.3%増)、当期利益236億5,300万円(同4.2%減)と、減益傾向に歯止めがかかっている。販売棟数は第2四半期終了時点で分譲戸建が1万8,804棟で、これは前年同期の1万8,700棟を上回るペースだ。一方で、土地価格が第1四半期比で1棟当たり17万円増加し、販売価格も同50万円上昇している。飯田GHDはこれまで全国展開し、都市近郊での販売に強みをもっていたが、25年期は住宅需要が大きい首都圏にシフトしつつあり、こうしたことが収益性の向上に寄与しているようだ。
(つづく)
【田中直輝】
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