【新春トップインタビュー】勝利と成功で終わった5年 アビスパ福岡は新しいステージへ
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アビスパ福岡(株)
代表取締役会長 川森敬史 氏アビスパ福岡は、2023年、長谷部茂利監督の指揮のもとJ1で7位、そしてルヴァンカップ優勝とクラブの歴史を大きく塗り替える躍進を遂げた。その長谷部監督は24年のシーズン限りで勇退し、新シーズンからアビスパは新しい時代へと踏み出す。一時はクラブ消滅の危機に陥ったアビスパをJ1のクラブとして再生させた川森敬史代表取締役会長に、アビスパの将来について聞いた。
長谷部監督とのかけがえのない5年間
アビスパ福岡(株)
代表取締役会長 川森敬史 氏──まずは、2024年のアビスパ福岡について振り返っていきたいと思います。
川森敬史氏(以下、川森) この1年というよりも、やはり24年限りで退任した長谷部茂利監督との5年間を振り返るべきでしょう。まずは、クラブの数々の歴史を塗り替えてくれた長谷部さんに、深い感謝を捧げたいと思います。アビスパ福岡の監督としては最長の在任期間でしたし、掲げた目標は毎年のように達成してくれました。5年間というのは、Jリーグの監督が1つのクラブにいる期間としてはかなり長いそうです。
──本当にすばらしい5年間でした。選手の皆さんも楽しそうに、真剣にプレーしており、監督を慕っていることがサポーター目線からもよくわかる、だからこそ心から応援してきました。
ルヴァンカップの優勝トロフィーを掲げる
長谷部前監督、前寛之選手川森 ありがとうございます。長谷部監督は、指導者としてのマネジメント力を高めるために『月刊致知』を読むなど、普通のスポーツ指導者とはまったく違うスタンスでリーダーシップを発揮されていて、私自身もすごく勉強になりました。自分で学びながら、考え方や価値観を形成し、それをサッカーというかたちで表現する能力を備えている、非常に稀有な能力をもつ監督でした。そんな長谷部監督と、ルヴァンカップ優勝をはたした国立競技場のピッチでがっしり抱き合ったのは一生の思い出です。
ホーム最終戦後、
笑顔で別れを告げる長谷部前監督ですが、その幸せな時間は終わり、次の一歩を踏み出す時期が来ました。サッカー選手、指導者、そしてクラブや事業体としてのアビスパ福岡も、結果を残して次のステップに進まなければいけません。私たちは「アビスパ福岡が日本を代表するチームになるロードマップ」を公表しています。チーム成績としてはステップ1の「J1定着」をクリアし、ステップ2の「J1上位・カップ戦で優勝を争う」まで達成することができましたが、常時その力を備えることを目指して奮闘しているところです。フロント側として掲げている目標は、ステップ1の売上高26億円をようやく超えたばかり。ステップ2の売上高50億円にはまだかなり開きがあります。また、債務超過が3億9,900万円(23年度決算時)ありますが、Jリーグのライセンスルール上これ以上増やすわけにはいきません。
──財政面では隣県のサガン鳥栖も非常に苦労した末にJ2降格となってしまいました。
川森 サガン鳥栖さんもライセンス維持のためにご苦労があったと思います。九州のJリーグクラブは、経営者同士はとても仲が良くて、まとまっています。試合としてはダービー相手でも、経営としては九州という地域をサッカーでどう盛り上げていくかを考える同志ですから、意見も合う。地震や台風がくればお互い支援し合う土地柄でもあります。
──結城耕造社長が就任されてもうすぐ1年になります(24年4月就任)。期待と実績を比較してどう思いますか?
結城社長 川森 すごく頑張ってくれていますよ。結城社長はアパマングループのなかで取締役など役員を経験してきましたが、やはり大きな組織のなかで経営に携わる経験と、売上高30億円前後の中小企業であるアビスパ福岡の代表職を務めるというのはまったく違います。中小企業の社長ですから、財務から人事まで、すべてを見なければいけない。あとは金融機関やステークホルダーの皆さんとのつきあい、それにメディア対応もあります。こういうことは一朝一夕でできることではありませんから、私も適宜サポートしながら伴走しています。自分が得意な部分はどんどん発揮してもらい、経験がない部分は私と一緒に学びながらスキルを育てていく。結城社長は現役時代ディフェンダーでしたから、真面目で粘り強く、非常に打たれ強いですね。その長所を生かして、これからも期待しています。
結城社長は元Jリーガーとして、やはり「アビスパに関わりたい」という思いでアパマングループに入ってきてくれました。その願いが実現しているわけですから、これからもしっかりやってくれると確信しています。
金明輝・新監督選定と期待すること
──25年シーズンからチームの指揮を執る新監督として、金明輝(キン・ミョンヒ)監督が就任されました。サガン鳥栖、町田ゼルビアを躍進に導いた優秀な指導者ですが、一方ではパワハラ問題でライセンス降格処分を受けた過去もあります。改めて、新監督選定について聞かせてください。
川森 12月に開いた新監督就任記者会見と重なる部分もありますが、ご説明します。SNSをはじめ、さまざまな意見をいただきました。なかには「アビスパはこれまでの理念を変えるのか」と厳しい声もありましたが、スポーツを通じて「子どもたちに夢と感動」を「地域に誇りと活力」を与えることという私どもの理念はまったく変わることはありません。これははっきりと申し上げます。
かつて、アビスパの選手にも間違いを犯した選手はいました。その際は厳しく経営判断して、対応してきました。それは皆さんもご存じのことと思います。それを踏まえて、過去に犯してしまった過ちについては、その人がどう悔い改め、どんな歩みをしてきたのか。それをしっかり見て、考えたうえで判断しています。
以前の過ちを振り返って、それからどうするか。しっかり更生して同じ過ちを繰り返さず、それを背負って生きていくその後の人生をどう考えているか。そこで反省せず、悔い改めていない人であれば、私たちはリストアップすらしません。金監督は、そこをしっかり見据えたうえで、次のステップに移ろうとしている。そういう方と一緒に、新しいチャレンジをしていきたいと考えています。
──そこまで深く考慮したうえで、就任オファーに至ったわけですね。
川森 はい。またアビスパ福岡では、監督選考は取締役会事項です。当社の取締役には、スポンサーやステークホルダーがいます。当然過去の不適切な言動について、いくつかの意見などがありましたが、執行メンバーがクラブのバジェットとコンプライアンスを遵守し、業務を全うするということで、最終的に取締役会の承認を得て決定しました。
──社内だけで決めているのではない、ということですね。
川森 私が社長に就任して以降の約10年は、このような決裁権限表に基づいて運営しています。ステークホルダーの皆さんの意見もしっかりいただきたいですから。取締役会の皆さんにはサッカーに詳しくない方もおられますが、監督候補それぞれの実績やマネジメントスタイル、実際に指揮したチームのスタイルなどを、数値的に示した資料なども使って説明し、判断してもらうようにしています。
──いわゆるワンマン企業みたいに、「次はこの監督だから」という鶴の一声で決まるわけではない、と。
川森 もちろんです。立石敬之副社長と柳田伸明強化部長が強化担当の執行メンバーですから、そこで最初のリストをつくり、そこから経営メンバーで議論し、そして取締役会にかけるという段取りです。
──これだけのプロセスを踏んで監督を決定しているのですね。
新たな5年に挑戦するアビスパの未来に期待
──2025年のアビスパは何を目指していくのか。目標を聞かせてください。
川森 まず、ロードマップのステップ2を維持するために、リーグ戦では中位から上位。カップ戦は優勝を狙えるチームづくりをしたいと考えています。
また、25年はいつものシーズンとは大きく異なります。Jリーグは、27年からシーズンの開始と終了の時期が変わり、26年はその移行期間として夏に開幕する約4カ月、昇格・降格なしの変則シーズンになります。これまでのスケジュールで行われるのは25年が最後ですが、どのクラブも25年と26年はセットで考えています。もし25年にJ2に降格してしまったら、27年シーズンまでJ2に所属することになってしまいますから。
──なるほど、そういう意味では25年のチーム編成は大きな意味をもちます。
川森 本当にその通りです。ちょうど24年で、長谷部監督との5年間が終わりました。サッカーの世界では5年が1つのサイクルと言われますが、企業経営では中期経営計画を設定するタームですね。25年からの5年間は、27年のシーズン移行が大きなポイントになる、難しい時期になると考えています。
──最後に、川森会長自身の目標を聞かせてください。
川森 15年にアパマングループが経営に参画するタイミングで社長に就任し、AGA(アビスパ・グローバル・アソシエイツ)の皆さんをはじめ、ファン、サポーターの皆さんに支えられてアビスパに関わっています。この約10年、本当に激動の時代でした。初年度から昇格しましたが1年で降格。そして長谷部監督との初タイトル獲得と、さまざまな経験をさせてもらいました。
この先は、私が経営に関わっているあいだにパスポートをもってチームの応援に行きたいですね。
──アジアチャンピオンズリーグへの挑戦ですね。リーグ戦3位以内、または天皇杯優勝が条件になります。
川森 J2のヴァンフォーレ甲府は23年の天皇杯で優勝し、ACLにチャレンジしました。甲府の社長に電話で話を聞きましたが、やはり苦労もあったそうですがうらやましいと思いました。私たちも経験してみたいと感じました。25年シーズン、そして次の5年と、アビスパのこれからに期待してください。
【深水央】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:川森敬史ほか1名
所在地:福岡市東区香椎浜ふ頭1-2-17
設 立:1994年9月
資本金:3億8,329万円
売上高:(24/1)28億7,400万円
<プロフィール>
川森敬史(かわもり・たかし)
1965年11月生まれ 、東京都出身。2015年3月、アビスパ福岡(株)代表取締役社長に就任。23年4月から代表取締役会長。法人名
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