2025年01月21日( 火 )

トランプ劇場第2幕:揺れる国際秩序と世界の行方(後)

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 NetIB-NEWSでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、元国連日本政府代表部大使や元国連事務次長を歴任した赤坂清隆氏によるトランプ論を共有していただいたので掲載する。

 まだあるのですが、第6に、カナダに関するものです。トランプ氏は、1月7日の記者会見で、カナダの合併を試みるつもりがあるのかと問われると、「経済力」を行使することを誓い、アメリカとカナダの国境は「人為的に引かれた線」だと発言しています。トランプ氏は、アメリカはカナダを保護するために何十億ドルも費やしているとし、カナダからの自動車や木材、乳製品の輸入について批判するとともに、「彼らは(アメリカの)州であるべきだ」と、記者団に語ったとのことです。 カナダのトルドー首相は翌日、この発言について、トランプ氏の提案する関税の影響から人々の注意をそらすための戦術だろうと述べたとのことです。カナダは、このような話をまともに取り上げる気がないことが明白です。

 ほかにも、ICC(国際刑事裁判所)への制裁の動きや、洋上風力発電開発の停止(鳥やクジラがかわいそうだとの理由で)など、心配のタネは尽きないのですが、今回はこれぐらいにしておきましょう。このような一連のニュースに接するにつけ、トランプ第2次政権のもとで、これからの世界はどうなっていくのだろうと、暗い予感と不安を感じずにはおられません。

ワシントン記念塔 イメージ    日経新聞のコメンテーターの秋田浩之氏が、1月14日のオピニオン欄で、トランプ氏の諸発言についての分析を行っています。それによると、主要国の当局者の間では、相手国から譲歩を得るための「はったり」だという見立てと、いや彼は半ば本気だとの仮説があるとのことです。後者の解釈では、トランプ氏の世界観は、国際政治は大国が牛耳り、小さな国々はそれに従うべきというものもので、彼はその信念に基づき発言しているとみているようです。秋田氏は、少なくともトランプ氏の世界観は後者だと考えたほうが良く、その大国外交には驚くべき成果を生む可能性があるが、禍根を残す危険はさらに大きいとの警告を発しています。

 私は、どちらかというと、「はったり」説を信じたいほうですね。相撲の奇襲戦法に、立ち合いで相手の眼前で両手を打ち、相手をひるませておいて自分を優位な立場にするという「猫だまし」があります。「目くらまし」とも言いますね。トランプ氏は、相当な自信家で、傲岸不遜、自分勝手な人のようですから、この人の「はったり」「猫だまし」にたいていの相手はひるんでしまうのでしょうね。しっかりと目を据えて、彼の「はったり」に惑わされないようにする必要がありますね。

 それにしても、トランプ氏の一連の発言は、アメリカの品位を落とし、すでに同盟国との関係に大きなダメージを与えつつあります。1月14日付けの英ファイナンシャル・タイムズ紙では、看板記者のギデオン・ラックマンが、「トランプはアメリカをならず者国家に変える危険がある」と、極めて厳しい批判をしています。グリーンランド、パナマ、カナダへのトランプ氏の脅迫は、同様に無法な動きをしているロシアや中国を喜ばせるだけだとこき下ろし、我々がいま目にしているのをトランプ氏のジョークと見るべきではなく、喜劇ならぬ悲劇だと嘆いています。

 どうも心配な世の中になりそうですね。悲観論と楽観論が入り混じった状態ですが、国際政治学者や国際関係を観察している人たちには、エキサイティングで、またとない面白い時代の始まりなのかもしれません。そのトランプ劇場第2幕がもうすぐ始まります。不安と期待をもって、何が起こるかを毎日注目してフォローしていくことにしましょうか。

(了)

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