【新春トップインタビュー】トラック運送業界のイノベーションに向けて、派遣も含めた人材戦略で業界刷新に貢献する
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(株)博運社
代表取締役社長 眞鍋和弘 氏2024年にトラックドライバーの時間外労働の上限規制が始まった。規制強化による物流の混乱を不安視する声もあるなかで、これを業界健全化の契機として、生産性の向上と待遇改善ならびに人材派遣を通して業界全体への貢献に取り組む企業がある。その取り組みにおいて九州のリーディングカンパニーである(株)博運社の代表取締役社長・眞鍋和弘氏に話を聞いた。
労働時間の規制開始1年 トラック業界の二極化と淘汰
──2024年4月にドライバーにおける時間外労働の上限規制がスタートし、1年が経とうとしています。業界としての対応状況についてどう認識しますか。
眞鍋和弘氏(以下、眞鍋) 企業規模によって対応状況に明らかな違いがあります。大手企業や当社を含む中堅企業は、すでに何年も前から準備をして労働時間の管理体制を整えているため規制に対応できます。また、準備をするなかで生産性向上のためのDXや業務効率化、従業員の待遇改善などトータルで取り組みを進めており、労働時間制限で生産性と競争力が低下しないように努力を積み重ねてきました。
しかし、その一方でトラック運送事業者のほとんどを占める中小零細企業では、労働時間規制への十分な対策が講じられていない企業が多いのが現実だと思われます。規制開始から1年が経ち、遵守できる企業とできない企業の二極化が進んでいます。規制を遵守できない企業に対して、当局が今後どのような指導・摘発を行うのか注目されますが、いずれにしても規制を遵守できない企業が淘汰され、業界内の再編が進むことは避けられません。
──中小零細企業が多いと言われるトラック業界で淘汰が進むと、物流に大きな混乱が生じることはないでしょうか。
眞鍋 日本は産業界全体の問題として中小企業の比率が他国と比べて非常に高いです。トラック運送を含む運輸・郵便業界においては企業数の99.7%、総雇用者数の73.5%を中小企業が占めており、中小零細企業が過剰に多いという構造的な問題が存在しています。それらの中小零細企業が規制に対応できず淘汰される過程において、一時的に業界全体の物流能力が低下して混乱が生じる可能性はあります。しかし、すでに大手や中堅が共同物流や長距離トラック輸送の無人化などを対策として進めており、淘汰で一時的に物流の混乱が引き起こされても、業界全体の秩序が変われば将来的には輸送のキャパが不足することはないと考えます。
なぜ不人気職種となったか
トラック運転手の待遇改善へ──人手不足はさまざまな業界でいわれることですが、トラック業界特有の事情は何だと思いますか。
眞鍋 トラック運送業界で人手不足が深刻化してきた背景には、長年にわたる日本経済のデフレ下で、トラック運転手の労働条件の厳しさや給与の低さが常態化したということがあります。「失われた30年」といわれますが、デフレの進行において運送業界はその最たるものです。1990年代の初めに行われた貨物運送業の規制緩和によって、参入と価格に関する規制が撤廃され、中小零細の事業者数が急増し、過当競争が激化しました(※編注)。業界内に占める中小零細企業の割合が高止まりとなったことが労働環境や賃金の改善が進みにくい要因になってきたとも指摘されています。企業間で過剰なダンピングが行われるようになり、適正な賃金や労働環境の改善は後回しにされたのです。その結果、トラック運送業界で働く魅力は大きく損なわれました。業界に対するネガティブなイメージが定着し、若年層が積極的に飛び込んでこない業界になったと思います。
──トラック運転手に対するネガティブなイメージを払拭するには何が必要でしょうか。
眞鍋 規制緩和前のトラック運転手は高収入を得られる職業ともされていましたが、それは反面、長時間労働を前提として成立していたともいえます。現在の時間あたりの給与水準が低い状態で、労働時間規制が行われればさらに稼げる額が当然減ることになり、トラック運転手の不人気傾向がますます加速するということになりかねません。これへの対応として、トラック運転手のベースアップを行うことが必要です。労働時間が減っても給与は減らないような待遇改善ができるかどうか、この点でも業界内の二極化は顕著です。
これまでは従業員の給与が安いことを前提に、低い運賃で仕事をとって稼ぐなどということもなされていましたが、これからの運送業者はそのような方法で生き残ることはできません。新たな規制下で、生産性の向上による競争力の維持もできず、労働時間規制の遵守もできず、待遇改善もできない企業は淘汰されていくことになります。淘汰によって業界全体が健全化されていくことは、働く従業員にとって悪いことではなく、業界のイメージを改善することにつながると考えます。
※編注:1990~2010年の間にトラック運送事業者数は34%増加し、営業用トラック車両数も19%増加した。 ^
淘汰・再編に備える
──御社としてはどのような取り組みを行っていますか。
眞鍋 まず、労働時間規制への対応はもちろんのこと、従業員の待遇改善としてベースアップを継続して行っています。また、積載率の改善を進めてきました。たとえば、当社は関西福岡間の長距離輸送を行っていますが、これはできるだけ往復荷物を積まないと採算が厳しい路線です。九州は工業製品の生産拠点が圧倒的に少ないですから関西への上りは物量が少なく、関西からの下りの物流が圧倒的に多い。業界として下りと上りの比率が7対3と言われている通りです。上りの貨物は主に生鮮食料品などですが、これらを扱っている運送業者は中小零細企業が多い。ただこれらの業者は上り貨物をもっている一方で関西に拠点をもたないことが多い。そこで当社は、上り貨物をもつ業者と提携し協力会社として、上り貨物の積載率を改善するように努めています。
また、当社全体で自社トラックの比率を上げることを進めています。外部のトラックや庸車は自前ではありませんから、いざというときにコントロールが効きません。淘汰のなかで協力会社が突然廃業するなどということもあり得ます。そこで自社トラックの比率を上げてまずは6対4に、将来的には7対3まで引き上げたいと考えています。
そのためには人員の確保が必要ですが、なかなか急に増えません。また、自社比率を上げて採算性を確保するには生産性をとくに意識した業務効率の向上が必要で、運転手を無駄なく有効活用する人員配置が必要となります。運転手は運転に徹して、それ以外の作業はアルバイトに任せるために、たとえば、ターミナルにトラックをつけたら荷下ろしはその担当者が行い、運転手はすぐに別のトラックに乗り換えたり、また、荷台と車体が分離するスワップトラックも利用するなど、できるだけ効率的に運転手を運用する管理体制が問われます。
『九州ドライバー求人ナビ』
ドライバーと企業を取りもつ──御社が運営する運送業界特化型の人材派遣サービスについて聞かせてください。
眞鍋 indeedと連携して、「九州ドライバー求人ナビ」というブランドで人材派遣サービスを展開しています。トラック運転手だけでなく、トレーラーやタクシー、バス、ロードサービススタッフ、整備士なども含めて運送業界の人材を対象にしています。
運送会社の採用活動は年々厳しくなっており、それぞれの事業者が個別に採用をかけてもなかなか人が集まりません。ですからこのサービスは派遣先の事業者にとってはある意味、共同採用事業のような側面があります。また、この業界は労働者の流動性が高く、トラックドライバーだけでいうと年間で15%程度は入れ替わると言われます。どこの会社に行っても業務として行うことは大きく変わりがないので、条件面の違いだけでコロコロと会社を変わることが多いのです。
また、ドライバーにとっては、業界でどのようにキャリアを積むことができるかという大きな課題があります。ドライバーは最初4t車に乗っていても、将来的には長距離に乗りたいとか、大型トレーラーなどの免許をとってキャリアアップしたいと考えるものです。その場合、新しい免許を取るように支援することは当人と人材を求める業界のニーズに適うことですが、現在勤めている会社側にとっては辞められてしまうリスクにもなります。そのような場面で人材仲介会社としてお互いのニーズを汲みながら、柔軟にドライバーを適材適所に派遣できる仕組みを運用するなど、業界特有の労働市場の性質を熟知した当社が、事業者側とドライバーの両者をサポートしながらお互いのマッチングにつなげることは、とてもニーズがあると考えています。
──御社は自社の人材の派遣も行っていると聞いています。
眞鍋 この人材派遣は当社のブランドとして展開しますが、派遣対象となる人材には当社内の人材も含まれます。当社が人材のプールとなることによって、登録された外部人材の職業訓練学校のような役割もはたすことになります。これは今後社内でも調整が必要なことですが、当社は運送会社として当社が請け負う業務に従事する人材を有するばかりでなく、その人材が派遣として他社の業務も請け負う、そのように機能する人材派遣を考えています。すでに当社の人材から事務系、管理職、部長クラスまでを同業他社に派遣しています。当社より大きい会社に対しては営業担当者も派遣しています。これは当社にとって重要な収益源になると考えています。
外国人材も買い負ける日本 業界構造の転換が必要
──ベトナムに子会社を設立して外国人材の確保に取り組んでいると聞いています。
眞鍋 留学生が30人います。日本語学校への語学留学から大学まで含めて最長6年、入学金から学費までを補助し、住居には社宅を無償提供して、当社でバイトとして働いてもらいます。物流というのは大変ロジカルな世界で、積み込み作業など工学系の世界ですから、優秀な学生たちは積み付け方法をディスカッションして研究するなど、大変助かっています。
ただし、現在は人がなかなか集まりにくくなっています。かつては5人募集するのに1日で50人ぐらい応募があったころもありました。しかし、今は円安であることと、ベトナム自体の経済レベルが上がったこと、そして韓国に取り負けています。韓国は出稼ぎ労働で何時間でも残業できますが、一方の日本は、たとえば留学生は1週間に28時間しか就労できない。技能実習生は3年、最長でも5年となっていて規制が多い。
私は西日本・カンボジア友好協会の会長を22年から務めていますが、現在日本からカンボジアへの直行便は就航していません。韓国のインチョンなどを経由しなければならない。カンボジアでベトナムと同じモデルをやろうとしていますが、日本語学校と大学の日本語学科がどんどん減っています。日本語が通じるのは日本しかありませんし、日系企業の調子が良くないとなれば、やはり、日本語を勉強するという選択をする人は少なくなっていくのは当然です。そのような点で、外国人材の確保ということについて危機感を覚えています。
──これからの日本企業には、どのような対応が求められるでしょうか。
眞鍋 外国人材の確保ということにとどまらず、トラック運送業界全体としてのドライバーの待遇改善を含めたイメージアップと、産業構造の変革が必要です。先述の通り、日本は中小零細企業がとても多い。しかしその一方で同じ零細からスタートするはずのスタートアップが育たない。つまり、日本は入れ替わりなく同じ看板で延々と中小経営をやる環境となっているわけで、市場や産業の活性化がなされない構造になっています。トラック運送業界も含めて、従業員の給与が確保できる競争力がある企業が育つ産業や業界構造が必要ではないでしょうか。
【寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:眞鍋和弘
所在地:福岡県糟屋郡志免町別府北3-4-1
設 立:1957年1月
資本金:3,000万円
売上高:(23/12)113億6,800万円
<プロフィール>
眞鍋和弘(まなべ・かずひろ)
1960年5月29日福岡市生まれ。中央大学理工学部中退。85年6月、博運社に入り、92年に取締役、2007年に専務を経て14年2月に代表取締役社長に就任。法人名
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