トランプ復帰で激変する台湾情勢 米中半導体覇権競争の熾烈化の影響は(後)

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国際政治学者  和田大樹 氏

 世界情勢の行方を左右する昨年11月の米国大統領選挙は、トランプ氏の圧勝で幕を閉じた。大統領選は稀に見る大接戦になるとの見方が支配的だったが、いざ開票作業が始まるとすぐにトランプ優勢が鮮明となった。そして第2次トランプ政権の外交・安全保障政策における最重要課題は、対中国であることは間違いない。
※本稿の内容は2024年12月上旬時点の情報に基づく

輸出規制を強化 同盟国への圧力も強まる

米中 半導体 イメージ    一方、バイデン政権で激化した先端半導体をめぐる覇権競争だが、これはトランプ政権下でも継続されることになろう。バイデン氏は自由や人権、民主主義や法の支配といった価値観や理念を重視する一方、トランプ氏はそういったものに重きを置かず、自国第一主義のもと米国の利益を相手から最大限引き出そうとする実利的なディール外交を基本とし、両者は表面上相容れないように映る。しかし、対中国という面で両者の姿勢に大きな違いはない。

 17年1月に発足した第1次トランプ政権は、蓄積する米国の対中貿易赤字を是正する手段として、18年から4回にわたって計3,700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す制裁措置を次々に発動し、中国も米国産の農産物や自動車、液化天然ガスなどに報復関税で応戦したことから、両国の間では合駅摩擦が激化していった。

 しかし、トランプ政権によって歯車が狂った米国をリセットすることを訴えて当選したバイデン大統領ではあるが、対中国という点ではトランプ氏の対中姿勢を継承し、新疆ウイグルの人権問題や先端半導体の軍事転用防止という観点から、22年6月にはウイグル強制労働防止法を施行し、同年10月には先端半導体分野での対中輸出規制を大幅に強化した。そして、バイデン政権は中国による先端半導体そのものの獲得、その製造に必要な材料や技術、専門家の流出などを米国単独では防止できないと判断し、23年1月、先端半導体の製造装置で先端を走る日本とオランダに同規制で足並みをそろえるよう要請した。その後、日本は同年7月、14ナノメートル幅以下の先端半導体に必要な製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えた。

 だが、バイデン政権は両国の輸出規制の水準が十分でないことに不満を抱き、両国の半導体関連企業が過去に中国に販売した製造装置の修理や予備部品の販売を続けていることに対して、さらに厳しい輸出規制を求めている。実際、バイデン政権は24年4月、オランダに対して同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業に販売した装置の保守点検や修理サービスを停止するよう要請し、オランダは同年9月、ASMLの2種類のDUV(深紫外線)液浸露光装置に対する輸出許可要件を拡大し、中国向けの輸出規制を強化した。

 また、バイデン政権はドイツや韓国などほかの同盟国・友好国にも半導体分野の対中輸出規制に加わるよう求めており、たとえば、ドイツのカール・ツァイスはASMLに先端半導体に必要な工学部品を供給しているが、米国はカール・ツァイスが中国に関連部品を出荷しないよう、ドイツ政府が任務を負うべきだと主張している。実際、バイデン政権は24年6月のG7サミット前にもドイツに対して対中輸出規制への参加を求めたとみられる。バイデン政権はこの4年間、同盟国の協力を得て、もっといえば同盟国に足並みをそろえるよう事実上の圧力を加えることで、中国を先端半導体分野から閉め出す姿勢を鮮明にした。

 最強国米国を堅持し、そのために対中優位性の確保を重視するトランプ氏も、半導体など先端テクノロジー分野で米国が優位性を維持するよう中国に対してあらゆる規制を仕掛けていくことが考えられる。トランプ氏が、バイデン政権で強化された先端半導体分野の対中輸出規制を解除、緩和するなどに考えられず、むしろそれに上乗せするかたちで規制を強化するだけでなく、同盟国にも同調圧力をかける可能性が十分に考えられる。

 トランプ氏は選挙戦の最中から中国製品に対して一律60%の関税を課すと強調し、その他の国々からの輸入品に10%から20%、メキシコからの輸入車に対して200%の関税を示唆したが、具体的な関税率の数字は異なるものの、その後、麻薬や違法薬物の流入を理由に中国製品に対して10%の追加関税を課し、カナダとメキシコからの全輸入品に対して25%の関税を掛けると明らかにした。

 当然ながら、中国でモノを製造し、それを米国へ輸出する日本企業はこの影響を受けることになり、メキシコで自動車を生産し、その多くを米国へ輸出する日本の大手自動車メーカーもトランプ関税に直面することになる。今後、トランプ氏が関税を武器とし、さまざまな具体的な措置が発動されていくことが予想されるが、日本企業はその影響を受けることになろう。

 現時点で、トランプ氏が中国のように日本を直接の標的とするような関税制裁を発動することは考えにくい。しかし、直感や損得勘定で動くトランプ氏が、上述した半導体覇権競争で日本に同調を求めた際、日本がトランプ氏の納得するような対応を示さなかった場合、何かしらの制限を加えてくる可能性は考えられよう。また、トランプ氏は日本製鉄によるUSスチール買収について、一貫してそれを阻止する姿勢に徹しており、トランプ氏の日本企業へのイメージという観点からこの問題の行方も注視する必要があろう。

(了)


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
国際政治学者  和田大樹 氏国際政治学者、Strategic Intelligence(株)代表取締役社長CEO。(一社)日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学非常勤講師なども務める。専門分野は国際テロリズム、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務に従事する。著書に「Overseas Crisis Managemenテロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(共著、同文館出版、2015年)など。

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