【グローバル・アラート】日米首脳会談の成果を検証する(前)
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─日鉄のUSスチール買収とアラスカLNG開発─
日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎理事長)より、(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「日米首脳会談の成果を検証する―日鉄のUSスチール買収とアラスカLNG開発―」と題する記事を提供していただいたので共有する。
「日米新黄金時代」の到来?
「日米関係の新たな黄金時代を追求する決意」が確認された──。
7日、ホワイトハウスで石破首相とトランプ大統領の初の首脳会談が開催された。終了後、外交・安全保障と投資などについて10項目からなる日米共同宣言文が発表された。30分の会議内容はA4版で1枚の文書に綴られた。
さて、エネルギー関連の項目では、「日本へのLNG輸出増加も含め、両国間でエネルギー安全保障の強化に向けて協力していくことを確認された」。しかし、注目された日本製鉄によるUSスチール買収について共同宣言では、明文化されず、首脳会談後の共同記者会見の場に回された。
トランプ氏は会見で「買収ではなく、大きな投資増が必要である」と語り、9日には、「日鉄の出資は過半出資を超えることはない」と踏み込んだ。これに対して、石破氏は記者会見で「投資は技術関連だ。日本の技術が提供され、より高品質の製品が米国で製造されることになる」と語った。
結局「買収」の言葉の使用は両首脳が封印した。両国の事務当局による入念な事前の準備の成果であると聞く。
鉄鋼関税の先制パンチ
さて、それから1週間を経て、せっかく盛り上がった日米「新黄金時代」に北風が吹き始めている。
そもそも自称「タリフマン」のトランプ氏は1月に、自身のSNSに「関税(引き上げ)によってより高収益で価値のある企業になるというのに、なぜUSスチールを今売ろうとするのか?」と投稿し、買収計画への反対を表明した。7日の日米首脳会談後の共同会見でも、反対の姿勢を変えなかった。
さらに、石破氏の離米帰国を待っていたかのように、トランプ氏は高関税の貿易相手国に同水準の税率を適用する「相互関税」の措置を4月2日に導入すると声明した。同盟国である日本も例外なく適用されることが決まった。
トランプ氏は、鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の全面適用とUSスチールの関係について「現在、かなりいい感じだ。だからこそ、日本やほかの誰ともディールしてほしくなかった」と述べた。
日鉄、買収のガバナンス堅持を強調
日鉄の森高弘副会長兼副社長は、日米首脳会談の直前の6日に開かれた決算会見のなかで、「トランプ大統領の(関税を含む)いろいろな政策がどのようなことに影響を与えるのか、当社の収益にどう影響するか、複数のシナリオで検討していく。米国の市場の中にいることが大事であり、なおさらUSスチール買収の必要が増している。社名は変えず、本社も移さず、ガバナンスの内容について基本構図を変えるつもりはない」と強調した。
17日現在、日鉄首脳部はワシントンに飛び、トランプ氏に直接交渉を持ち掛けているが、日程ははっきりしていない。また、USスチール買収成立に関する訴訟の動きもあり先行きは不透明である。
アラスカLNG計画が浮上
7日、日米首脳会談後の共同記者会見で、トランプ氏は次のとおり語った。
(1)日本がまもなく記録的な量の米国産LNGの輸入を開始することをうれしく思う
(2)アラスカでの石油・天然ガス開発について、日米で何らかの合弁事業を検討する。日本の投資を呼び込みたいさて、トランプ氏の提案の背景について、若干解説すれば次のとおりである。
クリーン・エネルギー普及を宣言したバイデン前政権は、地球温暖化対策の一環として北極圏国立野生生物保護区(ANWR)の石油・ガス事業の開放政策を凍結したが、トランプ大統領は就任後、これをもとに戻すと宣言した。
トランプ氏は、アラスカLNG開発を進め、太平洋の同盟国に輸送・販売する内容を記した大統領令に署名した。
他方、米国から帰国した石破茂首相は12日の参院本会議で日米首脳会談について報告を行い、米国からの液化天然ガス(LNG)輸入増については「経済性、供給開始の時期、供給量など踏まえ官民で検討する」と述べた。
アラスカ開発庁のLNGプロジェクト構想
(日米首脳の間で急浮上したアラスカの天然ガス開発とLNG計画について概要、有識者のコメント及び会社首脳の会見内容を紹介することとする)
アラスカ・ガスライン開発公社(AGDC、2013年設立)は、年2,000万トン生産規模のLNGプロジェクト構想を発表した。州北部のノース・ロープで天然ガスを生産し、パイプラインで南部のニキスキへ送り、液化してアジア太平洋地域に輸出する。出荷開始は30年代前半を予定。パイプラインの全長は1,300キロメートルに及ぶ。LNG液化設備を含みアラスカ天然ガスの総事業費は総額6兆円(400億ドル)を見込む(地図:アラスカ公共放送、2014年)。
アラスカLNG液化設備関連の建設費は約110億ドル超を見込むが、1970年代に東京ガスと東京電力向けに使っていた老朽プラントと積み出し港を活用する案が検討された。
(つづく)
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