【特別対談】福岡から羽ばたく 伝統と創造に挑戦する芸術家たち(前)
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和楽団ジャパンマーベラス
団長 西口勝 氏
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アートパフォーマー
カラリズムリサ 氏海外から日本の文化・芸術への関心が高まるなかで、福岡市を拠点に活躍するアーティストがますます注目を集めている。伝統を受け継ぎ新しい時代の創造に挑み続ける和楽団ジャパンマーベラスの西口勝団長と、カラリズムリサ氏の特別対談をお届けする。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)ジャパンマーベラス
太鼓への熱い思い──西口さんが太鼓を始めたきっかけは何ですか。
西口勝氏(以下、西口) 私の父がもともと飯塚に伝承する川筋太鼓保存会のメンバーで、私もいつの間にかバチをもたせられていたのですが、中学生のときに出場した全国和太鼓ジュニアコンクールが準優勝で終わったのが悔しくて、それがきっかけで和太鼓と真剣に向き合うようになりました。中学校卒業後、宮崎の有名な太鼓チームに修行に出て、住み込み先のうどん屋で働きながら修行しました。朝5~7時にうどんの仕込みをやり、それからバチをもって太鼓の練習をして、昼は公演を手伝って夜は山の上で練習して、また朝5時に起きてということを繰り返しながら、将来プロになることを夢見ていました。
修行を終えて福岡に帰ってきて、2009年にプロ集団としてジャパンマーベラスを結成しました。その年に飯塚、福岡、宗像の3カ所でツアーを行いましたが、なかなかお客さんも入らず赤字のスタートで、集客には苦労が絶えませんでした。
エディンバラ芸術祭に出演
──転機はいつですか。
西口 イギリスで開催されているエディンバラ・フェスティバル・フリンジという世界最大の芸術祭に出演したことです。海外に向けて存在感を示すために芸術祭への出演を考えました。本格的に出演する前に現地に視察に行ったのですが、その際に忠告を受けたことがあります。
1つは、出演者はプロモーターの取り合いで競争しているから誰も本当のことを教えてくれないということ、もう1つは、自分たちがやることはすでに誰かが過去にやっているから、もし自分たちが最初だと思えばその時点で失敗して帰ることになると。芸術祭の厳しさを知ったのですが、覚悟を決めて翌14年に出演することにしました。
できるだけ費用を抑えるために、チケットセールスもビラ配りも自分たちでしました。また、旅費と太鼓の輸送費を合わせて300万円くらいかかるので、費用をうかせるために、太鼓はできるだけバラしたり工夫しました。
しかし結構トラブルもあって、経由地のオランダで飛行機が飛ばなくなったり、メンバーがはぐれたり、太鼓が1つなくなったりしました。それでも何とか出演し、初日は日曜日だったので成功しましたが、翌月曜日には集客が激減しました。これでは25日間の公演を乗り切れないと思い、ビラの配り方を変えたり、公演にレビューしてくれる記者やプロモーターを探して必死に営業をかけました。
すると、芸術祭のポスターの私たちの公演に★がつきました。公演を見た記者がレビューを書いたもので、★がつくと一般客もたくさん見に来るようになります。最初の1週間で私たちは★5をもらい、結果、芸術祭参加は好評で終わりました。翌年にも出演して成功し、そのときはBBC Twoに出演したりしました。
普通、芸術祭に出演するチームはその国のプロモーターがついて交渉などを担当したりするようですが、私たちはそれもなく自分たちでマーケティングまでしていたため、パフォーマンスへの評価ばかりでなく、そのことも関係者を驚かせたようです。その経験が私たちの自信につながりました。
コロナ禍とクルーズ興行
──コロナ禍はどうでしたか。
西口 あるプロモーターからクルーズ船に乗っての長期興行を依頼されました。乗客が3,000人や5,000人乗る大きなものは船内に1,000人収容の劇場があります。シンガポールを起点に東南アジアをめぐるクルーズ船で、乗船したのが20年1月19日でした。
実は船に乗る前ぐらいから、後にコロナと呼ばれることになる伝染病が中国で発生した話は聞いていたのですが、シンガポールは遠いから大丈夫だろうと思っていたんです。しかし、船に乗って1カ月もしないうちに世界中にコロナが広がって、乗客も乗らなくなり、世界中の港がクルーズ船を受け付けなくなりました。乗客もなく、船は沖に出て戻るのを繰り返すばかりです。私たちは契約金の50%だけ保証してもらいながら何とか持ちこたえて、ようやく日本に帰ることができたのが20年5月です。
しかし日本に帰っても仕事がない。緊急事態宣言などで月1回ステージがあるかないかという時期が続き、太鼓教室の生徒さんも200人近くいたのが半分以下になり、国の補助金などを申請しながらギリギリ持ちこたえました。そんななかでもいろいろな方と出会って助けてもらいながら応援していただき、ようやくスポンサーも募って24年には仕事量も戻り始め、何とか15周年を迎えることができました。
カラリズムリサ
アートに物語を──リサさんは、もともと中学校で美術教師をしていたそうですね。
カラリズムリサ(以下、リサ) 私は両親が教員で、当初は美術が嫌いじゃない程度の気持ちで両親と同じ教育大学に進み、教員免許を取って中学校の美術の非常勤講師になりました。ところが、勤め先の中学校で生徒に対して自分の体験を語る時間があったときに、自分が生徒たちに対して何も語るものをもっていないことに気づきました。教育現場というものはとても特殊で、社会経験がほとんどなくても「先生」として子どもたちに指導ができてしまう世界です。そのとき私は、子どもたちにとって何のために先生をしているのか、また私自身もこのままでは人間的に成長できないのではないかと思いました。
教員を3年半で辞めて、何か新しいことをやろうと思いました。ダンスも音楽も好きでしたが、その世界ではすでにレベルが高い人たちがいて自分は太刀打ちできない。そこでまず、ショッピングセンターで似顔絵を描きました。多いときで1日100人くらい、トイレにも行かずに1人10分くらいで描き上げます。そのときに早描きやコミュニケーションを鍛えられました。
そのショッピングセンターに小さいステージがあって、いろいろなアーティストが集まったイベントで、初めて舞台上で絵を描きました。最初は透明なアクリル板3枚に絵を描いてそれを合体させて絵にするなど試行錯誤しました。それが少しずつ進化して、今のかたちになりました。
──どうしてアートと物語を融合させようと思ったのですか。
リサ 私は子どものころから物語を想像して絵を描くのが好きで、私にとって絵は、物語や自分の気持ちを伝えたいから描くものでした。教師の仕事も授業のなかでどのように伝えるかを組み立てる構成力がものを言います。私はアートで、音楽に合わせてどういうタイミングでどう描けば物語が伝わるかということをやりたいと思いました。ライブハウスで初めて実験的に『美女と野獣』を描いて、そのとき初めて絵が物語を通じてどんどん変わっていく、自分のライブペイントが生まれました。
アートの社会・経済的価値
リサ 私は自分の武器であるアートを使って、社会的価値と経済的価値をどう掘り起こせるかを重視しています。今の時代、文字情報はあふれていますが、端的に印象で情報を伝えるアートの掘り下げは相対的に少ないです。かつて文字が読めない人が多かった時代はアートで物語を伝えることが多かったわけですが、文字情報にあふれた現代では、アートによる物語の伝達がむしろ新鮮です。
企業の行事や、地域のお祭りでもアートを使って物語を伝える可能性を感じています。たとえば、宗像の世界遺産・沖ノ島の物語を描いたり、出光興産の創業者の出光佐三さんの物語を描かせてもらったりしました。30分で出光さんの人生を凝縮して描くことはとても難しかったのですが、ご覧いただいた方々は感動してくださいました。
(つづく)
【文・構成:寺村朋輝】
<プロフィール & INFORMATION>
和楽団ジャパンマーベラス
福岡市を拠点に活動するプロの和太鼓エンターテインメント集団。和太鼓を中心に篠笛、三味線、尺八、琴などの日本の伝統楽器を駆使し、独自のパフォーマンスを展開している。2009年の結成以来、国内外で精力的に公演を行い、14年から参加しているイギリスの芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」では3度にわたり最高評価の★5を獲得、スリーウィークス・エディターズ・アワードを受賞するなど高い評価を受けた。17年、第25回福岡県文化賞受賞。23年、第47回福岡市文化賞受賞。
TEL :092-283-6521
MAIL:japanmarvelous@yahoo.co.jp
URL :http://japanmarvelous.com
カラリズムリサ
福岡県宗像市出身のアートパフォーマー。ペイント、ダンス、音楽、物語を融合させた独自の表現スタイルを追求する。ステージ上で音楽に合わせて短時間で大きな絵を描き上げるもので、アートのなかにダンスや物語性を取り入れた総合芸術として国内外で高く評価されている。NY発祥ライブペイント大会「Art Battle Japan」東京大会、福岡大会優勝。蛯名健一主催パフォーマンス大会「Like the BEST!」優勝。NYアートチームJCAT公認アンバサダー、小倉城公認アンバサダー、(一社)日本美術家連盟会員。
URL :https://colorhythm.main.jp関連記事
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