孫正義シリーズ(6)AI(=人工知能)を考える(5)
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福岡大学名誉教授 大嶋仁
(5)AIは人類を救えるか?
AIについての拙論の冒頭で、ソフトバンクの孫会長とトランプ米大統領との会合に言及した。両者とも、AIビジネスこそは「未来」をひらくと確信しているようだからだ。しかし、ビジネスはさておき、孫氏がいうほどにAIは人類にとってよいものか?
この点で参考になるのは、Net IB Newsニュースでつい最近企画された「孫正義シリーズ」で、そのなかでも星谷隆氏がまとめた孫氏の未来ヴィジョンは面白い。今ここに、星谷氏のまとめた孫氏のヴィジョンを俎板に乗せ、検討してみたいと思う。
星谷氏によれば、孫氏の未来ヴィジョンは、AIが人類を最適化することで「ユートピア」を実現するというものだ。このユートピアは、AIがあらゆる部門で人類の知能を上回ったときに実現し、それは2040年代に起こるというのだ。
ここでいう「最適化」とは、AIと人間の頭脳が直結し、私たちの情報処理能力が格段にアップすることを意味する。その場合、私たちの「意識」そのものがデジタル化され、デジタルは永続性があるがゆえに、私たちは「不死」の存在となる。しかも、そのような存在の集合である社会も「最適化」され、犯罪も戦争もなくなり、真の平和が訪れるというのだ。
このように孫氏のヴィジョンをまとめた星谷氏は、もし孫氏が正しいのなら、彼は「未来の神」となるかもしれないし、あるいは逆に、「AI独裁者」となって人類史に汚名を残すかもしれないとしている。
この星谷氏の孫正義観は、ゲーテの『ファウスト』に出てくるメフィストフェレスを思い出させる。メフィストフェレスは「悪魔」であり、「悪魔」は人間より賢い。しかし、その「賢さ」は「嘘をつく賢さ」であり、狡猾さによって富を得る賢さなのである。
AIはそうなるとメフィストフェレスの現代版ということになる。ファウストはその誘惑に負けず、己の道を進んだ。
メフィストフェレスの背景には、『新約聖書』に出てくる悪魔がある。聖書の悪魔は、荒野をさまようイエスに、「自分に従うなら、世界のすべての国をお前にあげよう」と誘うのだが、イエスはそれを斥ける。イエスには従うべき神があり、その神を裏切って悪魔の手下になることは、彼には考えられなかったのである。
「悪魔」を口にすると現代人は嘲笑し、AIは科学の産物であって、善悪を超越しているのだなどという。しかし、私はある種の直観からメフィストフェレスとAIをダブらせ、これを警戒する。
そう言ってもなお笑われるだろうから、孫氏の考える未来について分析してみたい。
まず孫氏はAIが人類を「最適化」し、それによって「ユートピア」が実現するというのだが、そもそも私はユートピアの実現など望まない。仮にAIがあらゆる部門で人類の知能を上回ったとしても、だからといって、私たちの不出来な「意識」を「最適化」などしてもらいたくない。
人類は古来「不老不死」を求めたり、「解脱」を求めたり、「衆生救済」を求めたり、「絶対平和」を求めたりしてきたが、そのような欲求を抱くこと自体が、私には「迷い」と映る。
孫氏は「デジタル化」しか信じていないようだが、アナログの何が悪いのか?「アナログでは問題は解決しない」というのなら、デジタル化をすれば解決するというのか?
何年か前に、Mr.ビーンの俳優が出演する『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』という映画を見たが、アナログを馬鹿にするととんでもない逆襲が起こることを示したものだ。私に言わせれば、アナログは地下のマグマのようなもので、私たちの意識をデジタル化すれば、無意識の側が爆発し、「意識」など吹っ飛ばしてしまうのだ。
人類の思想史にアナログとデジタルの対決を当てはめるなら、新石器時代の精神と近代科学の精神との対決ということになる。もっと煎じ詰めれば、「偶然」と「必然」の対決だ。この対決から戦争が生まれても、決着はつかない。なぜなら、人類はこの2つのあいだで右往左往する生き物だからだ。
このように考えていたら、孫正義氏への言葉が浮かんだ。以下にそれを書き連ねて、本稿のくくりとする。
孫先生、あなたは私たちを「醜い動物」の境涯から、「意識のデジタル化」を通じて救い出したいのですね。たしかに、あなたは崇高な理想を持しているように見えます。しかし、たとえそれが崇高であっても、あなたの考える未来は机上の楼閣に過ぎません。私たち人間は動物であって、アナログ的存在だからです。
あなただって、アナログ人間です。だからこそ金儲けをしたいのだし、世界制覇の欲も出てくるのです。あなたの理想はそのための方便です。あなたがその嘘に気づいていないとすれば、それは気づかないほうが都合が良いからなのです。
私はあなたが金儲けすることをとやかく言いません。世界制覇にしても、人間らしさの表れです。ですが、そうしたあなたは決してデジタル化されない。これをご承知ください。
(了)
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